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0059『昇竜祭』武闘大会18(2195字)

「こりゃ堅実にカーシズへぶち込むかな」


「いや、あのハルドってのもなかなかの腕だったじゃないか」


「何を言ってやがる。本命は断然、前回優勝者のクローゴだって」


 1回戦同様、2回戦もくじ引きで対戦カードが決定する。人々は試合開始の日暮れが来るまで、ああでもないこうでもないと持論をぶつけ合った。


 それに、明日の準決勝・決勝の舞台には、ロプシア帝国のヤッキュ皇帝とレイユ皇后が照覧に訪れる。優勝者と準優勝者に、手渡しで目録を渡すためだ。そのお二方の到着が、サラム町長ら主催者側から先ほど発表された。大会を楽しみにしている人々は、これでいやがうえにも盛り上がる。




 そうして、夕暮れ。


 ラグネとボンボ、チャムの3人は、苦労して座席を確保した。今度は便所の近くで、嫌な刺激臭が鼻腔をつつく。


「まあ、我慢するしかねえな。ラグネ、チャム」


「はぁい」


 顔をしかめつつうなずくふたり。


「あれ? そういえばゴルさんはどこへ行かれたんですか? 昨夜敗退したから、今夜は観客席で一緒に応援しようと思っていたんですが」


 ラグネの問いにチャムが答える。


「ゴルさんは出場選手特等席で観戦するみたいです。本選で敗退した方のための席で、サラム町長の近くという特別待遇ですよ」


「へえ、うらやましい……」




 観客は今日も超満員3万人。試合前から熱気に包まれていた。ほうぼうのたいまつが煌々(こうこう)と燃え盛り、まるで昼間のような明るさだ。そんななか、審判団が中央の広場に出てきた。


「早くやりやがれ!」


「俺は家を質に入れてるんだ! とっとと始めろ!」


「どうせカーシズが優勝するんだ! さっさと奴の試合を開始しろ!」


 観客の身勝手な言葉が宙を乱舞する。それに当てられたわけでもないのだろうが、主審がくじを引いた。大地よ滅べとばかりに大声を発する。


「厳正なるくじ引きの結果、2回戦第1試合は『傭兵戦士』ハルド/短槍 対 『喧嘩無敗』ゴック/長剣!」


 大観衆が一斉にわめいた。ゴックの死はすでに知られている。次に主審が発表する内容は、誰もが事前に予想できた。


「……しかし、ゴック選手は急逝(きゅうせい)された。したがってこの試合、ハルド選手の不戦勝とする!」


 ハルドに賭けていた一部の観客たちから、拍手喝采が舞い降りる。ハルドはひとりで広場の中心に進み出て、好き勝手をぬかす四方の見物人たちに頭を下げた。そのまま正門へ戻っていく。


「屈強揃いのなかで、これはついている。ありがたいことだ」


 コロコとハイタッチした。ふたりは自然に笑みを交わす。


 広場の中央で、主審が限界まで息を吸い、直後に言い放った。


「厳正なるくじ引きの結果、2回戦第2試合は『疾風剣士』クローゴ/二刀流 対 『魔法剣士』ヨコラ/細い長剣!」


 闘場は爆発が起きたかと思うほど沸き立つ。何といっても前大会優勝者のクローゴの試合なのだ。黒い長髪と白いマントを風になびかせ、彼はその凄絶(せいぜつ)なまでの美貌を再び大観衆の前にあらわにした。


 その後をついていくのは、ゴルやチャムのパーティー仲間であり、1回戦でルルン――彼女はすでに死んでしまったが――を倒したヨコラだ。さすがに優勝候補との試合とあってか、ヨコラの顔には緊張の色がある。細い両目はいっそう細く、ひとつにたばねた金色の長髪があるじの後を追いかけていた。


「ヨコラちゃん、頑張れーっ!」


「クローゴ、頼んだぞ!」


「きゃーっ、クローゴさまーっ!」


 クローゴとヨコラは中央でわけられ、東西にその身を置く。クローゴに『魔法防御』の魔法が、審判よりかけられる。




 チャムが両手を組んで貧乏ゆすりしている。


「ヨコラさん、勝って……! ああ、でも、クローゴさまにも勝ってほしい!」


 ボンボがラグネに問いかけた。


「どうだラグネ。ヨコラは勝てそうか?」


「あったり前ですよ!」


 ラグネは本心信じてもいないことを口走る。


「ヨコラさんは勝ちます。たぶん……、いや、絶対……!」


 頑張れ、ヨコラさん。ラグネは心のなかで祈った。




「今日も頼むよ、お前ら」


 そうつぶやきながら、クローゴは双剣を順に抜いた。右がやや短く、左がやや長いのは昨日と同じだ。ヨコラもゆっくりと細い長剣を抜刀する。ふたりは向かい合った。


 主審が手刀を振り下ろす。


「始め!」


 大歓声の渦の中心に両者はいた。美形のクローゴはじわじわとヨコラに近づいていく。その最中に相手へ尋ねた。


「ヨコラ、お前は昨日の戦いで、相手のルルンの自滅で勝利したね。今回も僕の自滅を待っているのかい?」


 軽侮(けいぶ)された側のヨコラは、少しも動ぜず返した。


「いいや。あんたが自滅する前に倒すつもりだ」


「生意気なことを」


 あたかも海藻(かいそう)のように、クローゴは双剣を揺らめかせる。


「こちらから仕掛けてやろう。お前の剣を見極めたい」


 クローゴが地面を蹴った。ヨコラの間合いへと走り込む。『疾風剣士』の異名は伊達(だて)ではなく、その足さばきは達人の域にあった。観客が気が付いたときには、クローゴは万全の体勢でヨコラに迫っている。


 ヨコラが裂帛(れっぱく)の気合を放った。まずクローゴの右の袈裟斬(けさぎ)りを、半歩後退しつつ剣で弾く。続いて左の胴斬りを細い長剣の柄頭(つかがしら)で受け止めた。クローゴが自分の目を疑ったようだ。


「何だとっ!?」


 ヨコラの隠れた腕力と技術がなせる、二刀流への素晴らしい返しだった。


 そしてもちろん、それだけでは終わらない。ヨコラはここぞとばかりに鋭い突きを放った。それは狙った心臓こそ逃したものの、内から外へとクローゴの左肩を切り裂く。


「ぐっ……!」

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