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0048『昇竜祭』武闘大会07(2237字)

 そうして、試合開始と同様に短槍を左脇に構える。サンヨウは相手の小癪(こしゃく)な態度に我慢ならなかった。


「ふざけるなっ!」


 サンヨウは今度は右胴から『無限秘太刀』を開始する。ハルドはそれを槍の()で受けた。東方の剣士は長刀の切っ先を相手の内ぶところへとえぐり込ませる。そのまま穂を払いながら心臓への突きを見舞う算段だった。


「見切ったと言ったはずだ」


 ハルドはそうしたサンヨウの動きを、まるで未来視したかのように読んでいる。外されるはずの槍の先端を持ち上げて、やっかいな刀を上へとそらした。そして――


 身を低くして、相手右胸に自身の右肩をぶつけた。


「ぐああっ!」


 もちろんそこは、さっき短槍で傷つけておいた部位だ。サンヨウが悲鳴を上げるのも無理はなかった。


 よろめくその右肩に、今度はハルドの槍の穂が叩きつけられる。派手な血しぶきを上げて、サンヨウは刀を取り落としてうずくまった。


「ま、まいった……」


 僧侶の審判が素早く割って入り、サンヨウに回復魔法をかける。主審はハルドの腕を取って高々と持ち上げた。


「1回戦第3試合、勝者、ハルド!」


 客席はやんやの喝采だ。そんななか、サンヨウがハルドに問いかけた。


「なぜそれがしの動きが読めたのだ……?」


 ハルドは肩をすくめる。


「『無限秘太刀』は連続攻撃としては素晴らしいが、ひとつひとつの攻めは軽い。すぐに次の一撃に移行するからだ。あの場合、こちらの突きを外すためには、長刀で穂先をどかさなければならなかった。それが分かっていたから、俺もすぐに対応できたんだ」


 サンヨウはがっくり肩を落とした……




「やったぜラグネ! ハルドが勝ったぞ!」


 ボンボが大興奮しながらラグネに声をかける。ラグネはもう泣いていた。


「ハルドさん……よかった……!」


 間に挟まれたチャムは小さく拍手する。そしてつぶやいた。


「次こそはゴルくんかヨコラさんの出番かな。ふたりとも予選で敗退しているなんてことはないですよね……」




 正門に戻ってきたハルドに、コロコはグータッチをした。


「勝つと思ってたよ、ハルドさん」


 ハルドは負かしたサンヨウの手前、控えめに微笑んだ。


「これでお互い2回戦進出だな」


 審判団が広場につどい、くじを引く。潮が引いたように静かになるなか、主審が高らかに宣言した。


「厳正なるくじ引きの結果、1回戦第4試合は『八つ裂き魔』ジャン/短剣 対 『喧嘩無敗』ゴック/長剣!」


『昇竜祭』武闘大会1日目のラストを飾るのは、ジャンとゴックの対決だ。


「やっとおでの出番が来たぜぇ! 楽しみだぜぇ!」


 ジャンはオレンジ色のモヒカンとくすぶった灰色の衣装が特徴だ。足がすらりと長い。


 いっぽうゴックは太くごつい体をしており、身長はさほどでもなかった。横幅の広さから、どことなく(いのしし)に似ている。


「あ? 何が『おでの出番』だ、あ? このゴックさまにやられる出番ってんなら合ってるけどな、ああ?」


 ジャン18倍、ゴック24倍。オッズが物語るように、この試合への関心は薄かった。『昇竜祭』武闘大会初日のトリがこの組み合わせとなったことで、会場を後にする客も少なくない。


「始め!」


 広場で両者をわけてから、主審が開始の合図を出した。すり鉢状の会場は7割ほどまで密集度が下がったが、それでも戦う両者に大歓声を送る。


 ゴックがジャンに口を開いた。


「お前、短剣で俺を殺せると思ってんのか、あ? 殺すぞオラ、あ?」


 ドスの()いた声である。まともな人間ならその恐ろしさに泣いて逃げ出すだろう。だがジャンは一切気にせず、短剣の刃を舐めた。


「あいにくだけど、それが殺せるんだぜぇ! まあビビッてないで、かかってきなよだぜぇ!」


「てめえ、誰に口利いてんだコラァ!」


 ゴックが怒り心頭に発して、ジャンへと跳びかかる。鋭い右逆袈裟斬りに、闘技場の誰もがジャンの死を予期した。


 だが、次の瞬間――


「何っ!?」


 ジャンの左足つま先から刃が飛び出て、ゴックの逆袈裟斬りを踏みつけていたのだ。そしてそれを乗り越えるように、八つ裂き魔は喧嘩無敗の顔面と腹部へ左右同時の突きを見舞う。


「ぐあっ!」


 ゴックは顔への一撃は、すぐさま頭を振って直撃はまぬがれた。しかし左耳を斬られて激痛にうめく。腹部への一刀は左手を緩衝材として差し出すことで、へその上を少し突き刺されたていどで済んだ。


「この野郎っ!」


 踏みつけられた長剣を引っこ抜きながら、ゴックは後方へと逃れる。耳と腹、そして貫かれた左手の痛みと出血が止まらなかった。仕方なかったとはいえ、左手はもう使えない。これからは右手だけで剣を振るわなければならなくなった。


 ジャンはくすくすと乙女のようにあざ笑う。


「どうだぜぇ! 『短剣で俺を殺せると思ってんのか』だっけ? これで分かっただろうぜぇ! 思ってんだぜぇ、このスカタン!」


 ゴックはまさか自分が窮地に(おちい)るなどとは、これっぽっちも考えてなかった。だが『喧嘩無敗』として、久しぶりの強敵相手にわくわくする自分を発見する。


「面白ぇ……! それなら()ってもらおうじゃねえか、できるならな!」


 ゴックは右足で踏み込みながら、右手の長剣を槍のように突き出した。ジャンは両手の短剣を交差させてこれを防ぎ、浮き上がらせる。そのまま剣の根元まで滑り込み、右膝を繰り出した。


 何と、この右膝からも刃が飛び出す。しかしゴックの動体視力は素晴らしく、右に倒れこむことでこれを未然に回避した。


 ゴックはそのまま地面を転がり、起き上がる。砂だらけになったが、その両目は死んではいなかった。


「てめえ、その体に何本刃を仕込んでるんだ? あ?」

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