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0046『昇竜祭』武闘大会05(2263字)

「オラはまだまだ修行が足りねえな。また戦おう、コロコ」


「うん!」


 コロコは客席の仲間を見た。3人は自分の勝利に喜んでいる。ラグネに至っては嬉しさのあまり号泣していた。


 心配かけちゃったかな。ごめんね。コロコは笑顔で手を振ってみせた。




 正門に戻ると、コロコとホラフをほかの出場選手たちがまばらな拍手で出迎えた。みな、次の試合は自分の出番かとそわそわしているのだ――そうでないものもいたが。ゴルとヨコラ、ハルドはコロコの勝利を素直に喜んでくれた。


 次の試合の出場選手がくじ引きで決まる。その結果――


「厳正なるくじ引きの結果、1回戦第2試合は『最強のモンク』タント/拳 対 『毒サソリ』ポッキ/猛毒の剣!」


 会場が大いに盛り上がった。この本選出場者のなかでもっとも弱いとみなされる、オッズ30倍のタントと、そこそこ強いオッズ10倍のポッキが当たるからだ。


 タントは大きく息を吐いた。つるっぱげの頭で、上下ともボロを重ね着している。眉毛の太さに強い意志が感じられた。額に赤い鉢巻きを巻いている。


「ありがたいです。拙僧は待つことが嫌いなのです」


 いっぽう、ポッキは針金のような体と手足だ。両腕が異常に長かった。槍の穂先のような鼻と大きく裂けた口が不気味である。


「私と当たるとは、タント殿も不幸なのだ」


 そうあざけりながら、剣に猛毒らしき液体をかけていた。コロコが審判のひとりに質問する。


「ねえ、あれってアリなの?」


「アリです。ただし、解毒薬の提供が必要ですが」


 何となく汚い所業のようにみえて、コロコはタントを応援したくなった。


 両者が広場に出る。そして主審によって左右にわけられ、開始の合図が行なわれた。爆発したような盛り上がりが両者を包み込む。




「タント殿、ひとつよろしいなのだか? なぜ篭手も手っ甲も付けぬ素手なのだ? この武闘大会は、武器ならどんなものでも使ってよろしいなのだが?」


 ポッキはそう問いかけつつ、剣を水平に突き出した。タントには届かぬ距離だったが、その長い腕と長い剣はタントに威圧感を与える。


 タントは恐れず答えた。


「決まっておるです。拙僧はモンク。まだまだ修行中の身です。その僧に、武器の携帯などあってはならぬことです」


 ポッキは怒りを込めて吐き捨てた。


「笑止なのだ! だからオッズ30倍、もっとも弱いと見られているなのだ!」


 そして長剣を構えて跳躍する。タントはすかさず後退して、最初の斬撃を空振りさせた。無骨な顔を緊張の(かげ)が斜めに横切る。何といっても、かすり傷ひとつさえ致命傷なのだ。


「ではポッキさん、あなたはどうなのです? そんな猛毒の剣を使ってまで勝ちを得たいのですか?」


「もちろん!」


 ポッキがどんどん踏み込んでいく。何しろ自分のほうが間合いが広いのだ。予選では相手をふところに入らせず、完璧な勝利を奪ってきた。今回もそうするまでだ。


「私の家族は、賭場でいかさまをすることで大金をつかんできたのだ! 勝負の世界にいかさまは必須なのだ! タント殿のように愚直に正直に戦ったところで、負けてしまえばただの馬鹿なのだ!」


 気がつけば円形の広場の端に、タントは追い詰められていた。もう逃げ場はない。


 タントは脂汗をかいた。どうする? 一か八かふところへ飛び込むしかないのか?


 いや……


「むっ!?」


 ポッキがあっけに取られた。タントは何と、この状況で鉢巻きをずらし、自身の両目をふさいだのだ。


 この常識外れの行動に、タント以外のあらゆるものが唖然とする。闘技場はどよめきに包まれた。


「タント殿、何の真似なのだ? 降参ととらえてよろしいなのだ?」


「まさかです。これは視力に頼るおのれを罰するためです。ポッキさんを倒すためにです……!」


 今まで猛毒の刃を見て恐れるあまり、積極的な行動が取れなかった。だから守勢に回ってしまった。だが何も見えない状況下に自分をおけばどうか。自由な攻撃ができるというものではないか。


 もちろんタントは物音や風、足音や衣擦れなどから、周囲の人物・動物・障害物・遮蔽物を聞き分け、まるで目で見ているかのように動くことができる。だがこの特技を実戦で使うことはほとんどなかった。


 ましてやここは雑音多かりし闘技場である。そこがネックといえばそうだった。


 ポッキは呆れから立ち直り、その切れ長の両目に憎悪を燃やした。馬鹿にされたと思ったのだ。


「私をこんなに愚弄したのはタント殿が初めてなのだ。殺してやるなのだ!」


 ポッキは毒の剣を大上段に構え、躍りかかると同時に一気に振り下ろした。タントが真横によける。こいつ、本当に見えているなのだ!? ポッキは怒りと困惑にとらわれたまま、地面を叩いた切っ先をすぐさま斜め上に跳ね上げた。これでタントは逆袈裟に斬り殺されるはずだった。


「けぁっ!」


 しかし、そこにいるはずのタントの姿はない。彼は空中高くきりもみし、ポッキの剣を完全にかわしていたのだ。そしてその右足かかとが、ポッキの脳天に炸裂する。


「うごぉっ!」


 ポッキは大の字になり、白目をむいて失神した。タントは着地して鉢巻きを元に戻す。どうやらうまくいったと、ほっと胸を撫で下ろした。


「1回戦第2試合、勝者、タント!」


 主審がタントの手首をつかんで高く掲げる。オッズ30倍の不人気モンクだったが、実力でその悪評を(くつがえ)してみせたのだ。会場は歓声の嵐となった。


 ポッキとタントに回復魔法がかけられる。意識を取り戻したポッキは自身の敗北を知らされると、泣いて悔しがった。タントがその背中を叩きながら、寄り添うように正門へと戻っていく。大観衆は総立ちとなって、健闘したふたりに拍手の雨を降らせた。

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