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0043『昇竜祭』武闘大会02(2237字)

 後は言葉にならなかった。目を閉じてむせび泣く。しばらくラグネの泣き声が室内に反響していた。


 コロコは黄土色の癖毛をかき回すと、その場にしゃがみこむ。そしてラグネを優しく抱き寄せた。驚くラグネに、とびっきり優しい声で語りかける。


「まずはごめんね。きみがそんな風に考えて、ひとり追い詰められていたなんて、私もボンボも気づけなかった。謝るよ」


 ボンボがふたりに近づいて、同じく腰を下ろした。コロコとラグネの肩に腕を回す。泣き震える声を出した。


「ラグネ、おいらたちを見損なってねえか? 元が人形だろうが魔物に近かろうが、ラグネはおいらたちの大切な、大切な仲間なんだ」


 コロコも涙でぼやけた視界で、精一杯の気持ちを込めて、ラグネに伝える。


「ラグネが人形だろうと何だろうと、私たちは地の果てまで付き合うよ。もう家族ぐらい大事な友達なんだから……! だから、そんなに卑屈にならないで。自分を見損なわないで。自分で自分を傷つけたりしないで……!」


 ラグネの氷結していた心が、ふたりの温かさで溶かされ(いや)される。


「うう……」


 ラグネの涙腺(るいせん)は、今度は歓喜でゆるんだ。コロコとボンボの肩に腕を回す。


「ごめんなさい……許してください……! 僕が、僕が馬鹿でした……」


「そうよ、大馬鹿よ」


「だな」


 コロコとボンボ、そしてラグネは、しばらくそうして号泣するのだった。




「では出発しましょう」


 ラグネは今まで心を覆っていた暗雲が晴れて、すっかり元気になっている。なお、じゃんけんで勝ったのはコロコで、普通にベッドを占拠して譲らなかった。


 3人ともあくびしながら馬の背に乗る。コロコの馬には鉄鍋をはじめ、野営道具が積載されていた。ラグネとボンボの乗る馬には、重たい貨幣が積まれている。


 ルモアの街までほぼ直進するため、()きとは違って『ラアラの街』へ立ち寄ることとなった。その名前に、コロコはピンときたらしい。


「ラアラの街といえば、3年に1回開かれる武闘大会『昇竜祭(しょうりゅうさい)』よ! この季節じゃなかったかな?」


 そのとき、こちらへ近づいてくる2騎の馬が視界に入った。コロコたちは一気に警戒モードに入る。このまま速度を落とさず直進すれば、ちょうど交差するはずだった。


 しかしそのとき、相手のうちのひとり、20歳そこそこらしい男が呼びかけてきた。


「おーい! お前らも冒険者か?」


 彼は黒い弁髪と眉毛以外の毛が、頭部に一切ない。緑色の服の上からでも、発達した筋肉が分かった。コロコが応じる。


「そうだけど、きみたちは?」


「我らも冒険者だ! ちょっと話さないか?」


 お互い馬の速度をゆるめて、距離をおいて停止した。男が白いまぶしい歯を見せる。


「我の名はゴル! 職業は戦士だ。こちらはヨコラ、こっちはチャムという」


 ヨコラは金色の長髪をひとつに束ねて垂らし、両目は細かった。しなやかな体つきで、猫のようにも見える。


「あたしがヨコラだ。女ながら魔法剣士をやってる。よろしく」


 チャムはフードつきの藍色ローブに全身を包んでいた。ヨコラに抱きついて、馬には横乗りしている。恐怖に震える声を出した。


「わ、私はチャムといいます。賢者です。あの、そんなににらまないで……」


 コロコたち3人は普通に見ていただけだが、チャムはそれを「にらんでいる」と取ったらしい。臆病なのだろう。


 コロコたちも自己紹介した。それが終わると、「実は……」とゴルが切り出した。


「我らはラアラの街を目指している。『昇竜祭』武闘大会に参加するためにな」


「あっ、やっぱりそうだったんだ。始まるんだね、武闘大会」


「ああ、明日にはな。ここで会ったのも何かの縁だ。一緒に行かないか?」


 ラグネはゴル、ヨコラ、チャムを改めて眺めた。特に不審な点はない。それだけで「いい人たちだ」と早合点したりはしないが、少なくとも極悪人ではなさそうだ。


「そうね、いいよ。私たちは大会を見物するつもりだから、せめて客席から応援してあげるね」


 ゴルは豪快に笑った。


「そうか、よろしく頼む! では行こうか」




 ゴルたちが先導する形で、その日は日暮れまで走る。野営は何事もなく、ふたつのパーティーはお互いの冒険の数々を(さかな)に、いろいろとしゃべり合った。


 翌早朝には出発する。やがて大きな街が見えてきた。


「あれがラアラの街だ! 3年前は本選で敗退してしまったが、今年こそは勝つ!」


 ゴルが勇ましく()える。


 街の外では『昇竜祭』を観戦しようと、大勢の人々が入り口に列をなしていた。その最後尾にコロコとゴルの各パーティーも並ぶ。自分たちの番が来るまでの暇潰しに、コロコがゴルたちから詳しい大会ルールを聞き出した。それによると――


 試合は「魔法・召喚魔物は一切使ってはならない」「武器以外の装具はつけない」「相手を殺したら敗退」「試合続行不可能または降参で敗退」という規則のもと行なわれるらしい。


 魔法・召喚魔物が使用禁止!? ラグネは歯噛みした。それじゃ僕もボンボさんも出場できないのか。いや、もちろん武闘に自信があるなら、出ることは可能だけど――どちらも1回戦で敗退するだろう。


 マジック・ミサイル・ランチャーで無双することはできないんだ。それが残念だった。


「それで、決勝戦で勝って優勝すると、どんな見返りがあるの?」


 これには魔法剣士ヨコラが答えた。


「準決勝と決勝が行なわれる最終日には、ヤッキュ皇帝とレイユ皇后が照覧に訪れるという。そして優勝者と準優勝者には、陛下の手渡しで目録が渡されるのだ。名誉あることだぞ」


 コロコが目を輝かせる。


「へえ、ロプシア帝国の頂点に立つ方が……! 凄いね」

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