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0030悪徳の街08(1929字)

 ゲマとコロコたちは、各方面の多彩な人物たちをうかがい、新町長の座につく覚悟があるかどうか()いて回った。ギルドマスターの打診に同意するものもいれば、難色を示すものもあった。


 夕暮れになって、新たな町長に前任のイミラ氏がつくと発表される。同氏は税金を自分の町長時代に戻すと宣言し、人々は拍手喝采でこの人選を受け入れた。


 こうして騒ぎは徐々に収束し、エヌジーの街は以前の平静さを取り戻していった……




「えっ!? ハルドさん、もうどこかに行っちゃったの?」


 コロコが冒険者ギルドで、ゲマの報告に大声を上げた。コロコの実家で爆睡した3人は、昼ごろになって、依頼探しにギルド会館を訪れていた。そこへこの話である。彼女が仰天するのも無理はなかった。


 生死をともにした仲なのに、何ともあっけない……。そう思っていると。


「実はハルドからお前ら()ての手紙を受け取っているんだ。読もうか?」


「本当!? 読んで読んで!」


 ゲマはひとつ咳をすると、手紙を手にして読み上げていった。




 今回は本当に世話になった。コロコ、ボンボ、ラグネ。ありがとう。


 言い訳させてもらうなら、俺がレヤン町長に雇われていたのは金と武勇のためだ。何しろ冒険者ギルドに人がいなさ過ぎて、パーティーが組めない。外へ出て行くための金もない。そういう状況だったので、ゲマの紹介で町長の腕利き用心棒の職についていたというわけだ。


 ときどき面白半分に試合をやらされたが、俺は常勝無敗だった。相手を殺したこともあった。レヤン町長の悪趣味に付き合わされただけだと弁明しておきたい。


 金も貯まったことだし、町長も死んでお役ごめんということで、俺は()くべき街へ向かう。コロコよ、またいつか、今度は両者万全の状態で試合をしよう。お前は強い。いずれ決着をつけたいんだ。


 最後になったが、その篭手(こて)は今回のお手柄として、コロコにプレゼントする。大事に使ってくれ。


 それではまた。3人とも、本当にありがとう。再会を楽しみにしている。




 ゲマが読み終えた。ボンボはコロコに笑顔を弾けさせる。


「よかったなコロコ! これでその篭手は正式にお前のものだな!」


「うん、そうみたい。ハルドさん、なかなかやってくれるじゃない!」


 篭手の拳部分を胸の前でかちりとぶつけた。


「さあゲマさん、何か依頼ある? お金を稼ぎたいんだ、私たち」


「それなら心配するな」


 ゲマがテーブルの上に大きな袋を置いた。なかで硬いもののぶつかり合う音がする。


「ここに30万カネーある。持っていけ」


 コロコは上下のまつげを叩き合わせた。


「えっ、何で? 何もしてないのにもらえないよ」


「安心しろ。レヤン町長が死んで、その秘蔵の金銀財宝が街の金庫に流れたんだ。そしてそこから、各施設・各機関に援助金が()かれている。我が冒険者ギルドもその恩恵に(あずか)ったってわけさ。30万カネーぐらいどうってことない」


「うーん、でもなあ……」


 コロコは(しぶ)る。黄土色の癖毛をかき回し、懊悩(おうのう)した。


「うーん……。そうね」


 やがて納得するように二、三うなずく。思い切って袋へ手を伸ばした。


「それじゃ、ありがたくいただいてくね。ボンボとラグネが背中百叩きされた分の慰謝料として……」


「ははは、それでもいいだろう」




「何!? 街を出る!?」


 コロコの両親は、娘の急な発言に驚いていた。コロコはうなずきつつ準備を進める。


「うん。旅費も手に入ったし、アンドの街へ行こうと思ってね」


 ボンボとラグネはもう旅支度ができていた。ラグネがコロコの父ショーに話す。


「僕は11歳より以前の記憶を失っているんです。覚えていたのは自分の名前『ラグネ』と、謎の『アンドの街』『ミルク』という、計三つの単語だけで……」


 コロコが背負い袋を(かつ)いで引き継いだ。


「そう、それで実在するアンドの街へ行ってみようって話になってさ」


 母のガッカがやれやれとばかりに首を振る。


「困った子ね。3年前にキンクイさんについていって、今度は3日と経たずに出て行くなんて。私たちの気持ちも考えないで……」


「ごめんね、父さん、母さん。私はこういう性格だからあきらめて。産んだ親の責任として……」


 ショーとガッカは娘を抱きしめた。しばらくそうした後、名残(なごり)惜しそうに離れる。


「俺たちは同じ空の下で一緒だ――いつでもな。そのことを忘れるんじゃないぞ」


「うん、父さん、母さん」


「ボンボくん、ラグネくん。娘をよろしくお願いします」


「任せとけ!」


「これからもコロコさんについていきます!」


 準備が整ったコロコたちは、『ショーのパン焼き工房』から出発した。馬屋で借りる2頭の馬は、もうとっくに予約が済んでいる。


「父さん、母さん、それじゃあね! また戻ってくるから! バイバイ!」


 見送られるもの見送るものが、かすかな涙を振り払うように、元気よく手を振った。

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