0285大団円04(1673字)
「サイダ父さん……!」
「ラグネ……!」
ふたりはひしと抱き合った。ラグネは幸せだった。父さんがちゃんと生きていて、ちゃんとこの街で待っていて、僕をちゃんと息子と認めてくれて、そして、そして……
気づけばむせび泣いていた。サイダの胸の温かさは、そのまま愛情の深さだろう。たくましい筋肉で抱き締められるのはつらいけど、そんなことくだらなく思えるぐらい、もっと抱擁してほしかった。
「サイダ父さん……よくぞ無事で……」
「お前も息災のようだな……よかった……」
ふたりして人目もはばからず号泣する。そこへ割って入ったのはもうひとりのギルドマスター、グーンだ。
「おい、お前ら落ち着け。そこで再会を喜ばれたら、誰も出て行けないし、入ってもこれないだろうが」
「そ、そうですね」
スールドは鼻水をすすり上げた。ラグネのたまねぎ頭をくしゃくしゃ撫でる。
「ラグネ、積もる話は後回しだ。ギルドが取得している宿屋を紹介するから、そこで待ってろ。コロコと一緒にな」
「はい……」
離れがたかったが、ラグネはしぶしぶ腕を解いた。あっけに取られている周囲の視線を浴びつつ、スールドは清掃に戻る。ラグネはコロコとともに冒険者登録を済ませた。そして、グーンが紹介した宿屋へと向かった。
その夜はラグネの人生のなかで、屈指の楽しさだったかもしれない。ラグネが部屋でコロコとカードをやっていると、スールドとグーンが現れた。ふたりで小樽をかついで持ち込んできたのに驚かされる。スールドがそれを部屋の隅に置いた。
「中身は酒だ。今日はとことん飲むぞ!」
ラグネとコロコは満面の笑みで拍手する。
「さすが!」
「やったぁ!」
グーンが「それだけじゃないぞ」と意地悪そうに口角を吊り上げた。まだ何かあるのだろうか?
彼は扉の外の廊下へ合図した。
「入ってきてください!」
そうして現れたのは――何とラグネの母ミルクだった。ラグネと視線を交錯させると、お互い無言のまま引かれるように抱き締め合う。ラグネの腕にぬくもりが伝わってきた。
「母さん……! お元気そうで……何よりです……!」
「ラグネ……よくぞ帰ってきたね。あたしの息子……!」
スールドがそんなふたりに寄り添って腕を回す。親子3人が揃ったのは、ラグネの人間化後は初めてだった。
3人は大号泣する。それを横目に、コロコがグーンに尋ねた。
「ひょっとして、ミルクさんの所属する旅芸人リブゴー一座が、ちょうどこの街に来ていたの?」
「ああ、だいぶ前からな。スライムたちがこの街に殺到して、俺たちアンドの街は門を固めた。そのせいでリブゴー一座は外へ出られなくなったんだ」
「じゃあ私たちはぎりぎり間に合ったのね。ミルクさんたちの出発前に……」
「そういうことだ。スライムたちは根絶されたのだからな。一座は明後日に旅立ちだという……」
ラグネとミルクとスールドは、ようやく抱擁を解いた。
「母さん、お酒は飲めるの?」
「もちろんさ。今宵は朝まで鯨飲するよ!」
スールドは全員に酒の入った杯を渡す。その後音頭を取った。
「では、5人の再会を祝して! 乾杯!」
「乾杯!」
5人は一斉にひと口飲んだ。それからは、おもにラグネとコロコの波乱万丈な旅路を肴に、朝まで飲み明かす。
いろいろな人物。さまざまな国。多種な魔物。多様な生き方。そのすべてに意味がある。ラグネがこの数ヶ月間に体験した怒涛のような日々は、その裏づけだったといえるだろう。
そしてその最初は、あの魔人ソダンのダンジョンで、コロコとボンボに出会ったことだ。ふたりなくして今のラグネを語ることは決して不可能なのだから。
そう、すべては繋がっている。朝も昼も夕も夜も、そのまた次の日の朝も、切れ目なく連環が作られているように。人間たちも魔物たちも、分け隔てなく相関している。
ラグネはそのなかで、どうにかこうにか自分の幸せを享受することができた。できうるならば、もっと贅沢に、もっと貪欲に、幸せになりたいし、幸せにしていきたい。
いつか『マジック・ミサイル・ランチャー』がいらなくなるその日まで――
ラグネはコロコとともに、人生を歩んでいこうと思うのだった。
(了)




