0284大団円03(2124字)
クローゴは死者埋葬の作業から離れて、自身のハーレム要員を探しにどこかへ行ってしまった。
8人は銀行の建物へおもむき、現金4000万カネーと羊皮紙4枚を交換する。そこの番人には戦士が当てられていた。
ゴルが3つの袋を覗いて驚愕している。
「こんな大金、今までの人生で見たことねえぞ……」
「今後の人生で見せてやるさ」
ヨコラは3年後に『昇竜祭』武闘大会が開催できるよう、いろいろ尽力していくつもりだと話していた。彼女のことだ、いつかその舞台で優勝することも念頭に置いているに違いない。
ヨコラが手を差し出した。
「じゃあな、コロコ。また会おう」
「うん、また!」
ふたりは握手する。ゴルがラグネの肩に手をかけた。
「それではな、ラグネ。これからも健やかに」
「はい! ゴルさんもお元気で」
チャムは『悪魔騎士宅急便』の店舗候補を探すという。なお、駄目出しも忘れなかった。
「この店名は最悪です。『善魔騎士宅急便』に変えましょう。いいですね?」
デモントは承諾せざるをえない。
コロコがタリアの頭を撫で撫でした。
「いったんお別れね、タリア」
タリアはデモント、ケゲンシーとともに、隠者ジーラカのもとへ現金を運んでいく。これが彼女の人生初仕事だ。
「うん。でもまたこの街へ――『善魔騎士宅急便』に来て。再び会えるから。……ラグネも、コロコを泣かしたりしないようにね」
「もちろんです。初の労働、頑張ってください」
いつもは冷めた顔をしているタリアも、このときばかりは歳相応の微笑みを見せた。
ラグネはコロコを抱えて空を飛翔し、ルモアの街へと向かった。ここのギルドマスターはグーンとスールドで、後者はラグネの父ともいえる存在だ。この数ヶ月、ラグネはあちこち飛び回っていたため、まるで会えていなかった。
いや――
それ以上に、「本当の意味で」会えてはいなかったのだ。アンドの街で母ミルクと再会するまで、ラグネは自分がもと『生きた人形』であることに気づきさえしなかった。それほど左胸の赤い宝石は、一般人の心臓のような自然さで、そこにあったのだ。
そして、スールド――もとはサイダという名前だったらしい――は、彼が『生きた人形』ラグネの父親役をやっていた過去を話さず、あくまで一介のギルドマスターとしてラグネに接していた。職権を超える優遇を、ラグネに与えないようにするためだろう。
今度は息子として、彼の子供として会うことになる。「本当の意味で」再会するのだ。
しかし、ルモアの街は大丈夫なのだろうか。スライムたちは当然そこも襲ったはずで、街が耐え切れず侵入を許してしまった場合も想定される。そうなれば、街ごと潰れている可能性もあった。
二重の緊張で、我知らず喉が渇く。コロコがそれを察したか、話しかけてきた。
「ドキドキしてるの? 心臓がばくばくいってるよ」
「ええ、まあ、ちょっと」
笑ってかわし、ラグネは真正面を見つめる。あの山だ。あの山を越えたら、アンドの街の安否が分かる。
どうか、父さんが――みんなが無事でありますように……
山が近づく。ラグネは半ば目をつぶった。見たい、見たくない。相反する感情が、胸郭で嵐となる。
山を越えた。
「わあ、懐かしいね!」
コロコの声に、ぱっと目を見開く。そこには――
アンドの街が、スライム禍に耐え切った姿があった。
「よかったぁ……」
ラグネは安心のあまり墜落しかける。コロコがあわてて「浮上して!」と叫ばなければ、あるいは本当に地面と大激突していたかもしれない。
ラグネの父スールドは――元の名前サイダは――まだギルドマスターとして働いているだろうか。いや、それ以前に安否はどうなっているだろう。実際に会うまでは気が抜けなかった。
ラグネはいつか光球の特訓をした大公園に降り立ち、羽をしまう。周りから好奇心の目線や声が飛んできた。それらを一切無視し、ラグネとコロコは冒険者ギルドへと早足で向かう。
ルモアの街並みが懐かしかった。ここの隅っこの居酒屋で、ラグネはコロコ、ボンボとパーティーを組んだのだ。
ふたりはギルド会館に到着した。その両開きの扉の前で、いったんラグネは立ち止まる。深く息を吸い、大きく吐いた。ドキドキする胸を押さえて、「よし」と独語する。
扉を開けた。なかに入る。
「あいたっ」
いきなり何かにぶつかった。ごつい男の背中だ。彼は「おっと失礼」と振り返り、尻もちをついたラグネを見下ろした。
そして――
「ラグネ!」
その人物こそは、ラグネの父、スールドその人だった。ちり取りと箒で室内を清掃していたらしい。
ラグネはこみ上がるものを抑え切れなかった。立ち上がってすがりつく。
「スールドさん……! いや、父さん!」
父さん。その言葉に、言ったものより言われたもののほうが精神をかき乱された。
「父さんって、ラグネ……。そうか、ミルクに会えたんだっけな。知ってて当然か」
ラグネはにこりと微笑んで、父の顔を見上げる。
「『このクソ親父、よくも黙ってたな』!」
いきなりの汚い言葉に、スールドは面食らう。
「な、何だそれ?」
「ミルク母さんから言われてたんです。スールドのところへ行ったら、今みたいにののしれ、って」
スールドは理解して破顔した。
「まったく、あいつらしいことを……」
ラグネは涙で顔をくしゃくしゃにする。
 




