0283大団円02(2145字)
「ああ、あと半日ほどひと踏張りすれば、それでようやく全部片付くぜ」
「じゃあ僕たちも手伝います。みんなを埋葬してから、その後で話しましょう」
ヨコラは髪をかき上げる。不満を追い払うようなしぐさだった。
「いいだろう。……じゃラグネ、タリア、羽のあるお前たちはデモントたちを手伝って。コロコはクローゴと一緒に墓穴に土を入れて埋めて」
ぱん、と手を叩いた。
「さあ、さぼってないで始めよう!」
日が暮れる前に、ようやくすべての死体にけりがついた。ラグネたちと作業にかかわったほかのものたち32名は、酒場に集まって死者に杯をたむける。スライムもすべて撃滅したことだし、これから人口が回復してくれればいうことなしだ。
がやがやと騒々しい居酒屋で、ラグネ、コロコ、タリア、ヨコラ、ゴル、チャム、クローゴ、デモント、ケゲンシーの9名は、同じテーブルを囲む。
「じゃ、話してもらおうか」
ヨコラがラグネに要請した。ラグネはしゃべり出す。
そういえば、勇者ファーミ一行と魔人ソダンのダンジョンへ潜ったとき、魔法使いシュゴウが言っていた。『ほらほらその態度! 言いたいことを言わずに黙ってるその姿がムカつくんだよラグネ!』。
僕は今までの旅で変われただろうか。そう心で自分自身を問い直しながら、ラグネは長い長い話を語っていった。
「長えよ……」
気がつけば明け方になっていた。ラグネの冒険だけでなく、ガセールの生誕や魔女ルバマの魔法陣追求まで盛り込んだため、物語はとてつもなく長くなっている。デモントの率直な感想は核心をついていた。
ラグネはようやく話し終えて、安堵とともにブドウ酒をちびちび舐める。正対するヨコラは、胸の前で組んでいた両腕を解いた。
「……なるほどな。それで『冥王』ガセールとともに、魔神ガンシンの塔を攻略したというわけか」
じゃっかん気落ちしたように、杯のなかの水面を見つめる。ガセールの変化を認めないわけにはいかなかったのだろう。ぐっと酒をあおった。
「すまなかったな、コロコ。お前に会って早々ビンタすべきではなかった」
「いや、いいよ。気にしてないから」
美貌の双剣、『疾風戦士』クローゴはコロコとヨコラに輝くような笑顔を見せる。
「どうだいふたりとも。僕のハーレムは壊滅状態だし、ここは手を取り合って素晴らしい子供を生んでみないか?」
「やだよ。私にはラグネがいるし」
「ハーレムなど入らん。だいたいあたしは人妻だぞ」
クローゴはやけ酒が止まらない。
いっぽう、デモントとケゲンシーは傀儡子ニンテンの訃報に愕然としていた。
「じいさん、死んじまったか……」
「最後の最後にそんな話が待っていたなんて……びっくりしました」
起きている皆で、杯を掲げる。
「偉大なる人形作家、ニンテンに」
『悪魔騎士』たち――デモント、ケゲンシー、タリア――にとっては親のようなものである。彼が『生きた人形』を作り、それが人間化したことで、デモントたちは生まれたのだ。胸にぽっかり穴が開いたとしても仕方のないことだった。
「俺さまとケゲンシーは最後にニンテンと酒が飲めたけど……タリアはほとんど会話もせずに終わっちまったな」
タリアは首を振った。
「私には心臓の代わりに赤い宝石が埋め込まれているから。これを意識すれば、いつでもニンテンと交信できるような気がしてるよ。デモントとケゲンシーもそうでしょ?」
「まあ、な」
「ええ」
ラグネは3人に尋ねた。
「これからどうするんですか? ここでの埋葬作業は終わったんでしょう?」
デモントはうんうん首肯する。
「『悪魔騎士の宅急便』をやろうと思ってる」
「へえ、それはどんな?」
「名前どおりさ。羽を使った飛行で、どこよりも早く人物・軽荷物をお運びします! どうだ、面白い商売だろう?」
ふうん。確かに便利でいいかもしれない。
「羽を持つ俺たちにしかできない仕事だ。ラグネ、ケゲンシー、タリア、金に困ったら俺さまを頼れ。こき使ってやるからよ」
コロコが手酌で酒を注ぎながらぼやく。
「確かラグネは魔王アンソー討伐の報酬、残り9000万カネーを辞退したのよね」
ああ、そういえばそうだった。皇帝ザーブラに問われて、
『いえいえ、アーサーさんが治めているメタコイン王国にでも渡してください。僕は辞退します』。
そんなこと言っちゃったっけ。
「やっぱりもったいなかったかな……。まあいいですけど」
コロコが膝を叩く。
「そうそう、私も隠者ジーラカに4000万カネーを現金で渡さなきゃいけなかったっけ。あんな重たいもの、どうやって持っていこう……」
耳ざといデモントがコロコに揉み手をした。
「お客さん、早速『悪魔騎士の宅急便』をお使いください。俺さま、ケゲンシー、タリアの3人が4000万カネーを3分割して、即行でお運びしますよ」
コロコはその話に乗る。ラグネの手をつかんだ。
「いいわ、お願いします。代金はラグネが後払いするから。『逆さま山』の場所を教えるから行ってきて!」
「毎度あり! ラグネ、報酬は300万カネーぐらいを見込んでるからな、よろしく」
「ぼったくりじゃないですか」
しかし、自分の過ぎたお金の使い道は、案外こういうことなのかもしれない。
「後払いでお願いします」
ラグネの回復魔法で、ほかの8人は酔いと眠気から覚めた。ラグネ自身は賢者チャムに回復魔法をかけてもらう。




