0282大団円01(2105字)
(37)大団円
3人はまず、エイドポーン国王の治めるコルシーン国・王城城下町へと飛んだ。『冥王』ガセールたちと総力を挙げて激突した場所であり、数十人の市民が巻き添えを食って死んでしまった場所でもある。
そして、傀儡子であり『神の聖騎士』であるニンテンが、娘と孫とともに家を構えている街だった。
「でも、おかしいな……」
「どうしたの、ラグネ?」
「『ワールド・タワー』の3階で、僕はニンテンさんと通信して会話しました。あれから幾たびか通信を行なおうとしたんですが、一度も成功することがなかったんです」
「今は?」
「試みています」
そういえば、あの通信の最後で、ニンテンはこう言っていた。
『酒のせいか知らんが、何だか頭痛がするんでな』。
まさか……
ニンテンの60歳という高齢も気にかかる。不安と焦燥がつのり、ラグネは全力で羽を羽ばたかせた。
「はい。父は数日前に亡くなりました」
ニンテンの娘ターシャはがっくりとうなだれ、号泣した。まだ幼い孫のクナンが、母ターシャの泣きように困惑している。
ラグネ、コロコ、タリアもまた、沈痛な面持ちで死別を嘆いた。
「僕と最後に通信したときは、あんなに元気だったのに……」
ラグネは指で眉間を押さえる。ターシャは両手で顔を覆った。
「いきなり頭が痛い、と騒ぎ出して、そのまま倒れたときにはもう意識がありませんでした。最期の苦痛が長引かなかったことが、せめてもの慰めです」
コロコの目尻と鼻が赤い。
「お墓はどちらに?」
「お時間があるのであれば、案内いたします」
「ぜひ……!」
王城城下町は復興の途にあった。石大工が門を修復し、さまざまな資材が荷馬車で運び込まれている。人々の往来も活発で、3枚目のエイドポーン国王にこんな指導力があったのかと驚かされた。
「ここです」
ターシャが手で指し示した。真新しい半円の墓石に、ニンテンの名前が刻まれている。
「ニンテンさん……」
この土の下、棺桶のなかに、あの人形作家のニンテンが眠っているのか……。ラグネは途中で摘んできた花をたむけた。コロコ、タリアもそうした。
ニンテンは魔女フォーティが完成させた、最初の『生きた人形』だった。そして、『純白の天使』ワジクに祝福を受けた『神の聖騎士』でもある。
もっと長生きしてほしかった。ラグネは静かに涙する。いつか、自分の母・ミルクと会って、傀儡子談義に花を咲かせてほしかった。
さようなら、ニンテンさん。いつかまた来ます。
3人は次にラアラの街へおもむいた。『昇竜祭』武闘大会の会場である闘技場を持ち、冥王一行に多数の人間が虐殺された場所でもある。
ニンテンのように、棺桶に容れられ深く埋葬された上に、墓石も建ててもらえるような扱いは、ここにはなかった。死んだ人間が多すぎて、あちこちで火葬されたのだ。そしてまるで粗大ゴミを捨てるように、遺体は深くうがたれた巨大な穴に放り込まれていった。
その作業を監督しているのは『魔法剣士』ヨコラだ。ラグネたちはその近くに舞い降りた。
「ヨコラ!」
ヨコラはコロコの声に、ぱっとこちらへ振り向く。その顔はだいぶやつれていたが、回復魔法を使えるものがいるのか、血色が悪いということはなかった。
険しい顔がほぐれていく。
「コロコ! ラグネ! タリア!」
ヨコラが駆け寄ってきて、コロコと抱き締め合った。それが終わると、ラグネとタリアに連続で握手する。
「デモントとケゲンシーから聞いたぞ。お前ら確か、『冥王』ガセールと一緒に、ドレンブン辺境伯領の塔に入ってたんだよな?」
「うん。私たち協力し合って、無事に塔を出られたんだ――」
乾いた音が鳴った。ヨコラが思いっきりコロコの頬を引っぱたいたのだ。いきなりの不意打ちに、コロコは少しよろける。
「え?」
ヨコラは凶暴な虎のような目でコロコを見つめた。今にも噛み裂かんばかりである。
「ガセール一派はこのラアラの街をメチャメチャにした連中だぞ! 何でそんなのと一緒にいて、何で協力し合ったんだ? ふざけるなよ!」
ヨコラの怒りはもっともだった。冥王ガセールと戦うためにラアラの街を出発し、コルシーン国・王城城下町へ向かったはずのラグネたちである。
それが、どうして塔のなかで仲良く冒険しているのか。さすがに納得がいかず、理性より先に感情が走ってしまったのだろう。
ラグネはコロコをかばった。
「いきなり叩くことはないでしょう! まずは僕らの話を聞いてください」
「それは俺たちも聞きたいところだな」
懐かしい声はヨコラの恋人『怪力戦士』ゴルのものだ。彼のかたわらに賢者チャム、『疾風剣士』クローゴがいた。男2人は仏頂面である。チャムは相変わらずフードを被って、あわてるように彼らの後ろについてきた。
斜め上から男女が呼びかけてくる。
「よう、来たな3人とも!」
「どうにか塔を出られたようですね」
『悪魔騎士』三叉戟のデモントと、同じく『悪魔騎士』無詠唱魔法のケゲンシーのふたりだった。ニンテンと最後に通信したとき、ラグネは彼らに「ラアラの街へヨコラたちの手伝いに行ってほしい」と要請している。
デモントとケゲンシーは、ちゃんと約束を守ってくれたのだ。
ラグネはデモントに尋ねた。
「作業はいつごろ終わりそうなんですか?」




