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0275ワールド・タワー50(2161字)

 冥界の管理者『漆黒の天使』ユラガが、『武神の剣』を見つけて手を伸ばす。


「いっただき!」


 だがそれより先に、人間界の管理者『純白の天使』ワジクに獲物をさらわれた。


「ちょっとワジク姉さん! それわらわにちょうだいよ! そのためにこんな腐れ塔を上ってきたのに!」


「駄目です。これは最高出資額5.1億カネーのバン氏に渡します。何にせよユラガ、あなたには今度こそ神々の審判を仰いでいただきますからね。覚悟しなさい」


「ひえぇ……」


 そのときだ。


 魔神ガンシンがラグネたちに鋭く命じた。


『お前ら、朕の後ろに隠れろ! でかい岩のようなものが飛んでくる……!』


 ラグネとボンボとコロコは泣きやんで、そそくさと魔神の背後に回りこんだ。この辺の危機意識は冒険者ならではである。見れば近衛隊長カオカや副隊長トナットも、ブラディたち冒険者たちも、タリアとガセールも、いっせいにガンシンの後方へ移動していた。


『来るぞ……! かなりの質量だ』


 魔神の周辺に物理防御結界が広がる。もちろんそれは人間たち11名もなかに収めていた。


 そして、それは飛来する。塔の最上階であり、玄室となっている20階。その壁を突き破って、何なら天井ごと刈り取って、なだれ込んできたのは――


『ふむ、飛行船か』


 ひとり冷静なガンシンのつぶやきが、めった打ちといってもいい轟音の前に押し潰される。大量の瓦礫(がれき)が反対側に立つ魔神の側に炸裂し、結界に沿って流れていった。あとはもう振動と爆音が、開けっぴろげになった最上階で乱舞するのみだ。


 ラグネたちのなかには、恐怖に悲鳴を上げたり失神しかけるものもいた。だが魔神ガンシンの防御結界は頑丈で、横倒しで滑ってくる船を小揺るぎなく受け止める。


 そして、また辺りは静寂を取り戻した。


「お……終わったのか?」


 ブラディが土下座のような状態から身を起こす。コラーデとロモンが無事であることを確認してほっとひと息ついた。近衛隊長カオカも、部下のトナットとナルダン相手に視線を交錯させ、安堵の溜め息を吐く。


 ラグネはコロコにボンボ、ガセールとタリア、天使のふたり――ワジクとユラガの姉妹が傷ひとつないことで安心した。


 20階は半壊し、空が見えるようになっている。星々がきらめき、浮遊する雲はだいぶ下のほうだ。こんなところまで上っていたのか。


 それにしても息苦しい。人間だけでなく、天使たちもまた、空気を求めてあえいでいた。その様子にガンシンが気づく。


『やれやれ……』


 20階全体を何かが覆うような感覚がある。途端に空気と熱がそのなかで発生し、ラグネたちは蘇生する思いだった。


『人間も天使も、朕に比べればもろいな。まあ、魔神なのだから当然だが』


 そこで飛行船の蓋が開いた。なかから転落するように落ちてきたのは――フォニだ。


「フォニ!」


 コロコが駆け寄った。確か『ザンキ』という名の飛行船に乗り込み、塔から出ていったはずではなかったか。


「コロコ! 生きてたのね!」


 フォニとコロコは冒険者同士で抱擁し、再会を喜び合う。さらにゴメス、ロチェ、オゾーン、ジェノサ、ケバンが、次々に降りてきた。見知らぬねずみ頭や普通の人間の剣士などもいた。


 近衛隊一の女好き、ゴメスがぼやく。


「ここって地上じゃないよな? つか、塔の最上階じゃねえの、もしかして……」


 ロチェが涙ぐんで恐怖に震えた。


「また塔に戻ってきた……何で……何で……?」


 近衛隊最年少のオゾーンは、タリアを見つけて文句を言い出す。


「何でガキンチョが最上階に居やがるんだ? 絶対ズルしたに違いねえ!」


「何よ、この(ふん)! ジェノサの後ろにくっついてなきゃ何もできないはなたれ坊主!」


「言ったなー!?」


「言ったわよ!」


 オゾーンの師匠である近衛隊員ジェノサが仲裁に入った。


「まあまあ、夫婦喧嘩はほどほどに……」


「「夫婦じゃない!」」


 近衛隊のなかの最強戦士ケバンは、ぼけっとして空を眺めていた。


 ねずみ頭の魔物や人間の戦士は、何で塔の、しかも最上階に戻ってきたんだ、と人々に質問する。もちろん誰も知らなかった。


 あちこちで交歓の輪ができるなか、特にはしゃいでいるのがゴメスだ。


 塔が転移しシャッフルしたとき、もう二度と会えないだろうと思ったラグネたちにも。


 飛行船で飛び立ったとき、やはり地上に降りて再びまみえることもないだろうと考えたナルダンたちにも。


 今、こうして生きて再会できた。


「へへ、嬉しくて涙が出らぁ」


 ロチェがゴメスにハンカチを手渡す。ゴメスは遠慮なくそれで目元をふいた。


 いっぽう、ラグネはボンボを紹介しながら、頭の隅で考えている。


 なぜ14階から出発した飛行船が、20階に戻って体当たりしてきたのか。また、何で光の矢も光弾も吸収してしまう塔の壁や天井や柱を、この飛行船はたやすく破壊できたのか――


 ボンボがその童顔ぶりをからかわれて打ち解けていくのを後に、ラグネは魔神ガンシンに疑問をぶつけた。


『それは朕も考えていた』


 魔神は重々しくうなずく。


『飛行船は20階に戻ったのではない。30基ある塔のどれかの最上階へ、突如進路を変えたのだ。19階と20階はいずれの塔でも並行して存在し、そのどれもが同一だから、何もおかしなことはない』


 なるほど。ラグネは()に落ちた。しかし、そうなると問題は、なぜ地上ではなくどこかの塔の最上階へ飛ぶよう変更されたのか。だれがそんな真似をしたのだろう?

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