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0272ワールド・タワー47(2151字)

『朕を殺せればくれてやろう。もっとも、その可能性は皆無だがな』


 魔神は『武神の剣』をまた玉座の下へ戻した。


『ほかには何かあるか?』


 さっきからちょくちょく『人界・冥界・魔界』と出てきているのが、ラグネには気になっている。


「人間界や冥界のほかに、魔界なんてものがあるのですか?」


『そのとおりだ。朕がこの塔を作って住み着く以前、神々として雲上から見下ろしていた世界だ。魔物しか存在しないといえば分かりやすいだろう』


 ラグネは素朴に考えた。魔物しか存在しない? 何か毎日争いが起こってそうなところだなぁ、魔界って……


「この『ワールド・タワー』は魔神ガンシンさまが建築されたのですよね?」


『そうだ』


「では、人界に突然現れるダンジョンやタワーは、魔界の神さまがお作りになられたんですか?」


 魔人ソダン、魔人ウッドスが玉座に君臨していた各迷宮――あれはいきなり人間界に発生し、なかから魔物たちを排出した。


 それだけではない。人間界では昔から、迷宮や塔が忽然(こつぜん)と現れて、周囲の住人を苦しめている。


 そしてそのたび、冒険者たちがそれらを攻略し、あるじを倒していった。あるじを倒すと、その建築物のなかの魔物が消滅するからだ。


 そんな特殊な建造物を、一瞬で人間界に出現させる。これはもう、魔界の神々の力によるものとしか考えられない。


 果たしてガンシンは答えた。


『もちろんだ。魔界は窮屈な世界でな。次々に発生して暴れ回る魔物たちを処理するために、干渉しやすい人界へ定期的に一定数を放出するのだ。魔神に生み出された魔人をあるじとしてな。それがタワーでありダンジョンだ』


 ラグネは考える。では、勇者ファーミさん一行と潜ったダンジョンで、大きな狼や巨大コウモリなどに襲撃されたけど、あれは冥界の魔女ルバマさんが創成した魔物たちとは違っていたわけだ。どっちも似たようなものだけど……


「僕ら人間界の人々は、魔人ソダンや魔王アンソー、魔人ウッドスの尋常ならざる強さを見て、冥界の王が進出してくる前触れだと恐れていたのですが――ひょっとして、冥王や冥界とは一切関係なかったんですか? あのダンジョン群や、最深層の魔人は、すべて魔界の神々の仕業だった、と……?」


『うむ。冥界のものや冥界の神々に、ダンジョンやタワーを一瞬で作り上げる能力などないからな』


 そう言った後、ガンシンは何がおかしいのかくつくつと笑った。


『それにしても懐かしいな、魔王アンソーか。奴はその愚鈍さゆえ、魔界の上位種族に忌避(きひ)されていたのだ。その後は知らなかったが、まさか人界に追い出されていたとはな。……待てよ』


 ガンシンは今気がついた、とばかりにラグネを見やる。


『ひょっとして魔王アンソーもお前が殺したのか?』


「はい」


『ふむ、やはりアンソーごときならそうなるだろう。あいつはいきがるだけの小虫だったからな』


 魔王アンソーが小虫……。ラグネは(いちじる)しい喉の渇きを覚えた。相手の強さは絶対だ。それを忘れてはならない。それを改めて踏まえたうえで、足を踏み直して問いかけた。


「なぜ14階に飛行船が浮かび上がる仕掛けを(ほどこ)したんですか? 『トドロキ』『ザンキ』の2隻のうち、後者に僕の仲間たちが乗船して、地上へ向かって塔から発進してしまったらしいのですが……」


『昔はそこが最上階だったからだ。最初に比べて6階分増築されているのだ。……この塔は人界・冥界・魔界をまたいで転移しシャッフルされている――19階とこの20階だけを共通としてな。お前の仲間たちも、どの世界かは知らぬが、地上には降りられただろう。船は精巧にできているからな』


 どうか人間界に降りていてほしい。ラグネはそう願わずにはいられなかった。


 最後の質問に移る。


「僕や仲間たち13名は、あなたの作ったこの塔から外へ――地上へ戻りたいと考えています。人間界の『ロプシア帝国』のどこかへ……。それは可能ですか?」


 神はおごそかに答える。


『可能だ』


「本当ですか?」


 ガンシンは牙をむき出して微笑した。


『ただし、条件がある。……朕と戦え。もし朕を満足させることができたなら、ほかの仲間ともども人界の望む場所へ――ロプなんとかへ帰らせてやろう』


「もし満足させられなかったら……」


 魔神ガンシンは凄い目で威圧してくる。


『もちろんお前はここで死ぬ』


 ラグネは折れ砕けそうに震える両膝を、まずは左右の手で叩いた。そして中腰の姿勢になりながら、床を見つめて考える。額からの汗がぽたぽた落ちた。


 天使たちは神々の使いに過ぎない。『純白の天使』ワジクからもらった『マジック・ミサイル・ランチャー』も、羽も、この戦いでは役に立たないだろう。はるか上の存在――神にとってみればこけおどしにもならないからだ。


 それは、だいだい色の『孤城』があっても超回復薬(エリクサー)を持っていても、言えることだ。では、戦うのをやめるべきか。


 いや――


 ラグネには秘策があった。効くかどうかも分からない博打のような、そんな不確かな秘技。それでも試してみる価値はある。というよりそうでもしないと、ガンシンを満足させることはできないであろう。


 コロコさん、ボンボさん、みんな。僕に勇気を分けてください。


「……分かりました。戦います」


 ラグネが身を起こして放った言葉で、魔神はさも楽しそうに笑った。


『ふふっ、よかろう。おいメユ、19階へ戻れ』

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