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0271ワールド・タワー46(2159字)

『そうか、魔人ソダンを倒したのはお前か。名は何と言う?』


「ラグネと申します」


『ふむ! (ちん)は魔神ガンシン。この塔の創造主にして支配者だ。10億カネーを用意したようだな』


 ガンシンは背を向けた。無防備な背中が丸出しになる。攻撃してこい、といっているようでもあり、攻撃できまい、と(あざけ)っているようでもあった。


 たくましい肉体が玉座に収まる。ガンシンは醜い顔をゆがめて笑った。


『魔人ソダンは朕の姿を映した玩具だった。それで、ソダンのダンジョンは――その実力は――面白かったか?』


 ラグネはさっきから震えが止まらない。魔人と魔神ではこうまで格が違うものか。ガンシンは圧倒的な威圧感と存在感で、ラグネを恐怖のとりこにしていた。真正面から戦えば、まず勝ち目はない――というか、一瞬で殺されるだろう。


 各世界に存在する『神々』。そのひとりが目の前の魔神ガンシンだ。ラグネはしょせん、神のしもべである天使に祝福された、一介の『神の聖騎士』に過ぎない。まさに神と虫けらのような、驚異的なまでの力の差をまざまざと感じていた。


 気がつけば全身汗びっしょりで、喉はからからに渇いている。ラグネはそれでも返答を試みた。


「面白いというか――『勇者の剣』がまったく効かない結界を張っていて――そ、そうです。ソダンは、僕に優しくしてくれた賢者アリエルさんを殺害しました。嫌いな相手でした」


 ガンシンは頬杖をつきながら、口角を持ち上げる。


『だからお前はソダンを殺害したんだな。報復として……』


 とりあえず魔神は怒ってはいないようだ。そのしゃべりは穏やかそのものだった。


「は、はい」


『見せてみろ。ソダンを殺した、お前の力を』


 といっても、どうすればいいんだろう。まさかガンシンさまにいきなり『マジック・ミサイル』を叩き込むわけにもいかないし……


 悩むラグネを見て、魔神がメユに目配せした。メユは部屋の隅にあった宝箱から、一枚の布を手にする。そして、それを床に広げた。そこには魔法陣が描かれている。


 メユは呪文を詠唱した。魔法陣がゆっくりと回転を始め、赤く光り出す。やがて中央から一匹の獣が召喚された。現れたのは、人間の顔と鳥の翼を持つ虎だ。


 ガンシンがラグネにあごをしゃくって合図した。攻撃してみろ、というわけだ。


 だが、ラグネは獣を撃てない。魔神が両目をしばたたいた。


『どうした。早く力を見せろ』


 ラグネは舌をもつれさせながら、どうにか言葉を撃ち出す。


「あの合成獣には別に悪いことをされていません。こちらから殺すことはできません」


 ガンシンはいかにもつまらなさそうに溜め息をついた。


『自分に対する縛りか。くだらないな』


 そして魔物に対して命令する。


『では悪いことをさせよう。虎よ、そこの少年を食べてしまえ!』


 にたりと笑った獣が、ラグネに襲いかかった。かなりの速度だ。その爪と牙をかわすのに、真横への一回転が必要とされた。ラグネは間一髪で逃れると、背部に光球を浮かばせる。


「『マジック・ミサイル』!」


 光の矢が飛び出して、こちらへ躍りかかってくる最中だった合成獣をあっという間に滅ぼした。ちりあくたも残さない一瞬の出来事だ。


 魔神ガンシンは驚きもせず、両足を組みかえた。


『ほうほう、これは見事だ。これなら魔人ソダンが殺されたのもうなずけようというものだ。だがしょせんは人間。朕のような神々に比べれば羽虫のお遊びのようなものだ』


 ガンシンはにやりと笑う。


『質問があれば何なりと答えよう。10億カネーを用意したのだ、それぐらいの役得はないとな』


 質問、質問……。ラグネはとりあえずいまだ不明なことを聞いておこうと思った。


「この『ワールド・タワー』はガンシンさまが建てたのですよね。なぜそうしたんですか?」


『ただの酔狂だ。人界・冥界・魔界の三つの世界に計30基ほど建てた。そのままでは面白くもないので、19階と20階以外は一定時間経過でランダムに入れ替わるようにした。30基の塔自体も、また別の長さの時間でさまざまな地へ転移するように仕掛けた。これはなかなか難儀だったぞ』


 酔狂……。ラグネはやや呆れながら、次の問いかけに移る。


「世界を斬るというマジック・アイテム『武神の剣』は、本当にこの塔に存在するのですか?」


『ふふ、やはりそれを尋ねてきたか』


 ガンシンは得意げだった。


『その噂をばらまくことで、朕の塔にはたくさんの挑戦者が現れた。人界・冥界・魔界問わずな。彼らの活躍や失態、定住や死などを聞くと、酒も進むというものだった』


 ラグネは目を見張った。


「まさか、『武神の剣』は噂だけで、実存しないんですか?」


『いや、ある。これだ』


 ガンシンは玉座の下から一振りの剣を取り出した。


 刃渡りは長剣と短剣の中間あたりか。細工の施された(つば)と、長い(つか)が異色である。灰色にぼんやり光っていて、この薄暗い空間では目を引いた。


 これが武神の剣か。頂上20階の魔神ガンシンさまが持っていたなら、そりゃ下の階を探しても見つからないよね……


『これこそが「武神の剣」、世界を断ち割る究極のひと振りだ。今まで10億カネーを積んでくる奴がいなかったので、朕と刀匠ユウダ、メユ以外のものが見るのは初めてとなる』


 ラグネは無理を承知で言ってみた。


「その剣が欲しいんですけど、いただけませんか?」


 一瞬ガンシンは目を丸くして固まったが、ついで大笑いする。

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