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0269ワールド・タワー44(2234字)

 ワジクは理由を説明する。説得にかかったといってもよかった。


「まず第一に、ラグネには金の翼があります。もしクリスタルに入ったと同時に転落死するような状況でも、翼があればその奇禍を防げます」


 コロコが少し肩を落とした。自分に翼がないことが恨めしかったのかもしれない。


「第二に、ラグネの『マジック・ミサイル・ランチャー』は、背後に浮かび上がる光の球です。その光があれば、暗闇の部屋でも視界は確保されるでしょう」


 ガセールが不満を押し殺した。彼の黒い球では明かりにならないからだ。


「第三に、『マジック・ミサイル』の威力。17階の無重力空間でも、ラグネの光の矢は影響を受けることなく魔人ブラムを滅ぼしました。ユラガの『孤城』による衝撃波が、無残なほど役に立たなかったのとは対照的です。もし無重力空間がこの先にあったとしても、ラグネなら乗り越えられるでしょう」


 ユラガが嫌そうにそっぽを向いた。


「ワジク姉さんの祝福によって『神の聖騎士』と化したラグネが、この5人のなかで最強だっていうの? 何か馬鹿みたいじゃない、わらわたち天使は」


「しかし、それが現実です。……どうですか、ラグネ」


 ラグネは渋った。本当に僕なんかが魔神ガンシンさまに謁見していいんだろうか。


――だが、別にガンシンさまに戦いを挑むわけではない。平和裏にことが運んで、13人全員が塔から出られさえすれば、それでいいのだから。そうなるよう努力することは、別に悪いことでも何でもない。


 それにまた、ワジク、ユラガ、コロコ、ガセールのうち誰かひとりが、僕の代わりに進んで、最悪の結果が出たとしたら――。僕は、とても耐えられるような強心臓でもなかった。


 ワジクが『孤城』のポケットから何かを取り出す。だいだい色の球と、蓋をされた水筒だ。


「これは『孤城』のもとと、超回復薬(エリクサー)です。ラグネ、あなたに預けます。どうか、19階の審判の階を通過し、20階まで到達してください。お願いします」


 ここまで期待されているんだ、僕は。ラグネはそのふたつのアイテムを受け取った。


「分かりました。(つぐな)いのためにも――引き受けます!」


 ワジクがまばたきを繰り返す。


「償い? 何のですか?」


 ラグネは、色あせるには程遠い直近の出来事を回想した。


「もともと僕は、この塔に閉じ込められた25名全員を無事に、無傷でもとの地上に帰すことを念願としていました。でも――」


 塔8階、竜の石像に倒された人々を思い返す。当時の悔しさと悲しさがぶり返してきて、ラグネは目頭を押さえた。


「僕の力量不足で、願いは早々に挫折したんです。僕はそんな凄い人間でも偉い人間でもありませんでした」


 近衛隊長カオカが口を挟む。


「お前のせいではないぞ。気にするな」


 ラグネは目尻を熱くしながらこうべを垂れた。


「だから、ここまで来れなかった人々に――途中で亡くなられた方たちに、償いの意味で、今度こそ決着をつけてきます。ガンシンさまから平和裏に塔から出してもらえるように――僕、頑張ってみます」


 魔物使いボンボを皮切りに、『悪魔騎士』タリア、近衛隊長カオカ、近衛副隊長トナット、近衛隊員ナルダン、魔法剣士ブラディ、盗賊コラーデ、僧侶ロモンが、続々と拍手し始めた。天使ふたりや観客の一部も同調する。


 だが、コロコとガセールはその輪に加わらなかった。


『冥王』は拍手のなかでラグネにささやく。


「相手は神々のひとり――魔神ガンシンだ。天使さえも歯が立たないぐらいの存在と考えればいい。決して逆らうな」


 ガセールが離れると、代わってコロコが真正面に来た。その両目が(うる)んでいる。


「行くのね、ラグネ」


「はい。行ってきます」


 コロコがラグネを手繰り寄せるように抱き締めた。肩にあごを載せる。


「ごめんね。いつも頼ってばかりで……」


 ラグネはこちらへ視線を向けているボンボを見た。目顔(めがお)で意思を疎通させる。


 もし僕が帰ってこなかったら、コロコさんをお願いします――


 ラグネはコロコを離した。彼女の双眼から流れる涙を見て、意志がくじけそうになる。だが何とかこらえた。


「大丈夫、きっと戻ってきますから」


「約束よ」


「はい」


 コロコは目元を手首でごしごしこする。泣きじゃくっていた。


「私もボンボも、きみのことをずっと待ってるから……。この塔から出られたら、また3人で冒険者ギルドの依頼でもこなそうね。待ってるよ、ホントに……」


 想いをこめたコロコの言葉に、ラグネももらい泣きしてしまう。これが永遠の別離になる可能性もなくはなかった。そう思うと離れがたい。


 だが、ラグネはコロコに背を向けた。それには全力が要求された。


 鉄くず巨人となったクネスが、ラグネに確認してくる。


「もう出発していいんだな?」


「はい。19階へのクリスタルまで案内してください」


「よし。では司会さま、バンさま、ミオスさま、そのほかの方々。行ってまいります」


 さらに膨れ上がった拍手で、ふたりは見送られた。




 大きな絵画――17階の模様を映し出している――とひな壇は向かい合って存在している。そのひな壇の裏、列柱回廊に水晶体は存在していた。床からわずかに離れて浮かんでいる。ぼんやり鈍く発光していた。


 クネスとラグネはそこへ歩いていく。


「実は前にも19階へ入ろうとしたものが何人かいた。だがどいつも帰ってきては『19階には10億カネーを用意しないと入れない』と述べるのみだ。あたしは彼らがどんな目に遭ったか探ろうとしたが、誰もが口を割らない。今回はお前の付き添いとして19階へ上がることができる。謎解きが楽しみだ」

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