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0261ワールド・タワー36(2233字)

 タリアの説明は長かった。皆立ったり座ったり横になったり壁にもたれたり、思い思いの姿勢で拝聴する。11歳少女のつたなく長時間の解説に、真剣に耳を傾けた。


「でね、ケベロスの街近くに魔法陣が突然現れて、デモントとケゲンシーと私とホーカハルとで向かったんだけど……。すでにそこはスライムたちの濁流になってたんだ」


 嘘である。『悪魔騎士』4人が魔法陣を生み出し、ラグネがそれを光の矢でひしゃげさせたのだ。スライムはそこから発生したというのは事実だが、『魔法陣が突然現れた』などとは捏造(ねつぞう)もはなはだしい。


 しかしこう話しておかないと、『悪魔騎士』4人が敵視されてしまう。自分も例外ではないのだ。


 そんなこんなであれこれ話し、さっきのユラガとの会話まできたところで、ようやく語り終えた。


 ロモンとナルダンは傾聴していたが、コラーデは途中から眠っている。ロモンに起こされると、大あくびをしながら背を伸ばした。


「せっかく鳥肉を腹いっぱい食う夢見てたのにさ。やれやれ。……で、何て?」


 彼女の頭に3人のチョップが決まる。そこへユラガがやってきた。


「終わったようね。どう、わらわの大活躍の話は?」


 ナルダンはそっけない。


「お前がコロコの光弾とラグネの『マジック・ミサイル』で殺されかけたってことは、その大活躍の話のなかに入るのかな?」


 ユラガはタリアをにらみつけた。


「このチビ、余計なエピソードを……」


 コラーデはかなり怒っている。


「そんな強い鎧を持っているなら、初めからその姿でいてくれればよかったのに。特に、お前の姉ちゃんのワジクとはぐれたんなら、なおさら……」


 ロモンがコラーデの腕をつかんだ。彼女がユラガに殴りかかりそうな勢いだったからだ。実際コラーデは仲間の制止にも黙らない。


「だってそうだろ、お前が力を貸してくれるとなれば、オゾーンやロチェたち6人は、飛行船に乗らなかったはずだ。あの6人は『塔を突破できないから』という理由で乗船して地上を目指したんだぞ」


 なじるような口調だったが、一理あることは誰にも分かった。


 しかしユラガは冷笑する。


「何か勘違いしてるみたいね。わらわはあの6人の――いや、きみたちをあわせて10人の――子守りじゃないよ。それともきみは、誰かの庇護(ひご)がなければ怖くて一歩も動けなくなるの? 赤ん坊みたいに?」


 コラーデは顔を真っ赤にしたが、反論はできなかった。ユラガがその様子を嘲笑する。


「神々や冥界人はともかく、天使も人間も魔物も、その命は有限なの。そしてその人生は意識的か無意識的かはともかく、数々の選択肢を選ぶことによって決まっていく。そうであるからには、この塔は生涯の縮図といっていいよね」


 ユラガは飛行船『ザンキ』が飛び立っていった外を見やった。透明の壁はしっかり閉まり、夕日を一部取り込んでいる。


「この塔は、選択を間違えれば死ぬ世界よ。あの6人は間違えたのか――あるいは正しかったのか――それは分からない。けど、その選択が引き起こす結果を甘んじて受け入れなくちゃいけないわ。不平不満を口にすることなく、ね」


 ナルダンはユラガの言は正しい、と認めた。だがいっぽうでは、その厳しさに心の隅で文句もいいたくなる。無数の選択に向き合うたびに、いちいち何が正解か何が間違いかなんて考えていたら、人生なんてとても歩めやしないだろう。


 ユラガは紫の球を頭の上に載せた。それは溶けるように全身へと滑り落ち、紫の甲冑へと変化する。両目が光った。


「何にしても6人は飛び出ていった。これ以上はもう、どうしようもないことだから。さあ、先へ――15階へ向かおっか」




 僧侶ラグネは近衛隊長カオカを抱えて、彼女とともにクリスタルのなかに入った。17階だ。


 そこはまるで夜空のようだった。上下左右手前奥に、星のような光が無数に輝いている。そして物体を地面へと抑えつける力が消失したかのように、ラグネたちは「ふわふわ」した。


「なっ、何だこの階は……! 空中に浮いてるぞ、俺たち!」


 カオカがわめいている。ラグネは彼女を背後から抱えたまま、一応やっておくべきかな、と羽を広げた。この「ふわふわする空間」がいきなり終了すれば、遠い床に落下して死ぬ可能性があるからだ。


 だが……


「うわっ!」


 ラグネは羽ばたいてみて驚愕した。まっすぐ飛べない。カオカもろとも、宙の一角でぐるぐる回り始めたのだ。それは翼を使えば使うほど高速化する。目が回って吐き気を催した。


 カオカが怒鳴る。


「も、もとに戻せ! このままじゃ頭がどうにかなりそうだ!」


「はい、すみません!」


 ラグネは羽を引っ込めた。しかし回転は続く。まったく減速されなかった。


「何やってんの、ラグネ!」


 コロコの声だ。ガセールに背後から抱えられて、クリスタルから登場した。ゆるゆるとこちらへ近づいてくる。このままでは激突してしまう。


「だ、駄目ですコロコさん! 危ないです、止まってください!」


 しかし、コロコとガセールもクリスタルから出てきた勢いのまま、ラグネとカオカに衝突した。


「あ(いた)っ!」


「うおっ!」


 ラグネの後頭部とガセールの後頭部がぶつかり、鈍い音がした。


 しかしこれでラグネたちの回転は減速される。ラグネは天井方向へ、ガセールは床方向へ、それぞれ弾かれた。


 カオカが優しい声をかけてくる。


「凄い音がしたぞ。大丈夫か、ラグネ」


「……ええ、ちょっと失神しかけたぐらいです」


「それはよかった」


 やがてカオカは柱の一本につかまり、ラグネとともにどうにか体勢を立て直した。


「大丈夫か、ガセール! コロコ!」

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