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0259ワールド・タワー34(2135字)

 オゾーンが2歳下のタリアをからかう。


「ガキのくせに一丁前な態度を取るなよな。本当は離れて悲しいーっていいたいんだろ?」


 タリアはシカトした。オゾーンは鼻で笑ってから宣言する。


「俺は飛行船に乗る。ジェノサ師匠はどうすんの?」


「オゾーンが外へ出たいというなら、もちろんわしもついていく。何せ剣の師匠だからな」


「さっすがぁ! ありがとよ、師匠!」


 この11人では一番強いであろうケバンも同調した。


「俺も乗船する、この塔は自分には窮屈すぎるからな」


 ゴメスは彼の肩に肘を載せる。


「俺も乗るつもりだ。まだ見ぬ地上の女たちを攻略しにかからないとな」


 彼はそれがさも面白い冗談であるかのごとく、盛大に笑った。


 ロチェはナルダンたちにぺこりと頭を下げた。


「わ、私も船に乗ります。もう怖いのは嫌です……」


 オゾーンが明朗快活(めいろうかいかつ)に微笑む。


「じゃ、ここでタリアたちとはお別れだな。行こうぜ、師匠!」




 ゴメスたち5人は鳥頭に話しかけ、2隻目の飛行船『ザンキ』に乗り込んだ。物々交換として、革鎧や短剣を差し出す。ジェノサは背中の斧を渡し、オゾーンは姉の形見という宝石をあげた。


 船内には魔物のねずみ頭や普通の人間の戦士などが、すでに着席している。ゴメスたちは悠々(ゆうゆう)と椅子に腰を下ろした。まだ満杯には2席ほど埋まっていない。


「なあおっちゃん」


 ゴメスがねずみ頭へ気軽に話しかけた。


「おっちゃんは9階で魔神ガンシンをあがめていたひとりかい?」


 ねずみ頭は迷惑と受け取ったらしい。やや(おび)えつつ返事をする。


「ああ、そうだよ」


「もうガンシンへの祈りはやめたのかい?」


「生き延びるためにやっていた。この飛行船で地上に戻れば、もう信仰はしない」


「へえ、そうなんだ」


 窓がないため外が(のぞ)けない。まあ隙間風が入る余地があれば、自分たちは地上に辿り着く前に凍死しかねない。これでいいのだろう。


 鳥頭が船内の乗客に口頭で告げた。


「すでに旅立った『トドロキ』も、ふた月前の『ヒビキ』『イブキ』の両飛行船も、操縦はこの船そのものが行なっています。我ら鳥頭にできるのはここまでです。それではよい旅を!」


 そのときだ。


「待って! やっぱり私も行く! 乗せて!」


 若い女の声は、フォニだった。オゾーンがびっくりする。


「えっ、フォニも来るの?」


「うん! 私はもともとこの塔から出たくて、そのためにみんなと行動をともにしてきたの。最上階へ行くのは、残りのメンバーからして難しそうに思えて……。だから……」


 オゾーンは手を差し出した。


「歓迎するよ、フォニ!」




 鳥頭が船の(ふた)を閉め、外へと下りた。『トドロキ』同様、『ザンキ』もまた6羽の翼を動かし、雄々(おお)しく進み始める。


 そのさまを苦い顔で眺めるのはタリアだった。


「まさかフォニまで向こうに行っちゃうなんて……」


 飛行船は旅立っていく。透明の壁が元どおりに閉まり、その向こう側で『ザンキ』がどんどん小さくなっていった。


 どうか彼らに祝福がありますように。タリアはそう祈るしかなかった。


 残されたのは、近衛隊員随一の美貌の男ナルダン。冒険者ブラディのパーティーメンバーである盗賊コラーデと僧侶ロモン。相変わらず無口な武闘家ベルシャ。そして悪魔騎士のタリア。以上5人だ。


 甚大(じんだい)な喪失感とともに、5人は次の15階へ続くクリスタルへと歩き出す。


 そのときだった。


 鳥頭のリーダーがタリアたちに殺気に満ちた目を向ける。


「さてと、無事に2隻とも送り出したぞ。そのごほうびに――」


 20人の鳥頭が次々と剣を抜いた。標的はもちろんタリアたち5人だ。


「お前らを殺して焼いて食ってやる!」


 なるほど。次の船がふた月後に魔法陣から浮かび上がるまで、その間の食い扶持(ぶち)は、物々交換したものだけでは足りないらしかった。乗船客からせしめた武器・鎧・食糧・酒・硬貨などとは別に、ボーナスが欲しいというわけだ。


 鳥頭20人が襲いかかってきた。ナルダンは魔法防御の魔法を自分たちにかけると、躍りかかってきた鳥頭を剣で斬り捨てていく。コラーデは短剣二刀流で僧侶ロモンを守った。ベルシャが優れた武技で鳥頭たちを殴り、蹴り、放り捨てる。タリアは影のなかから相手の足をすくったり斬ったりして助力した。


 だがそれでも数的差は埋まらない。やがてナルダン、ロモンが深手を負った。ナルダンの傷はロモンが治せるものの、そのロモンは誰からも治癒してもらえない。僧侶は自分自身に回復魔法はかけられないのだ。


 戦況は鳥頭たちの優勢で進む。タリアが死を覚悟するほど、敗北はその黒い手で足首を引っ張りつつあった。


 そのときである。


 無口なはずのベルシャが、呆れたようにつぶやいたのだ。


「何よあんたら、弱くてだらしないわね」


 彼女が皮膚の下から発光する。ほかの4人も、鳥頭たち14人も、その光景に度肝(どぎも)を抜かれた。そのまばゆい輝きのなかで、ベルシャは小さく、ごつくなって、紫色の鎧に変身する。


 タリアが仰天した。


「あの甲冑は……『孤城(こじょう)』!?」


 孤城は驚くほどの速さで、鳥頭たち14人を斬り捨てていく。武器はその手刀であり、そこから放たれる鋭利極まりない衝撃波だ。それを受けた魔物は例外なく、青い血しぶきを上げて崩れ落ちた。


 縦に、横に、あるいは斜めに斬りつけられ、鳥頭たちはみるみる数を減らす。ついには最後のひとりにまで追い詰められた。

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