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0255ワールド・タワー30(2160字)

 トナットが叩きつけるように怒声を放った。


「私はあなたの自己紹介のときに断ったはずですがね! 『私は嘘をつかれるのは大嫌いです』と。ところが――」


 槍を構える。一瞬でガセールの心臓を貫けそうな、そんな気迫に満ちていた。


「あんたは大嘘つきだったってわけだ。この落とし前、どうなさるおつもりで?」


 冥王はどうでもいいことのようにぶっきらぼうだ。


「落とし前も何も、余には関係のない話だ。余は自分が塔の外に出られればそれでいい。そのためならなんでもするつもりだ。同行者が反発するなら、大人しくさせて従わせるまでだ。第一――」


 ガセールは冷笑した。


「トナット、お前の疑心は塔の外に出るまで取っておくはずだったのではないか?」


 ブラディが長剣の柄を握り締め、その切っ先をガセールに向けている。しかし、この状況で何らひるまないガセールに、我知らず体が震えた。


「カオカ隊長、どうしますか?」


 カオカは剣を中段で維持している。


「この先障害となるようなら、今のうちに殺しておくべきだろう」


 殺気だった状況に周囲の魔法陣が反応しだした。最強の魔物使いコンボーイがあわてて叫ぶ。


「こらっ! 殺気立つな! 召喚獣たちが出てきてしまうぞ!」


 師匠からもらったローブを着込みつつ、ボンボが仲裁(ちゅうさい)に入った。


「何だか知らねえけど、戦うならここじゃなくてほかでやれ。師匠の研究の邪魔をするなよな」


 ラグネも加わる。


「待ってください、皆さん! ガセールさんが冥王だったのは昔のことで、今は悔い改めて人間界に落ち着いているんです! どうか、どうか見逃してください!」


 正確には、ガセールが冥界に反逆の意志を持ったから、力の大小に関係なく戻れなくなった、ということなのだが。


 トナットがラグネに矛先(ほこさき)を向けた。物理的ではなく論理的に、である。もっとも注ぐ怒りは同量だったが。


「なら何で嘘をついた! お前も冒険者ザオターって言ってたと思うんだがね」


 ラグネは嘘が苦手だ。かつて傀儡子(くぐつし)ニンテンに会ったとき、再三疑われたほどの下手さだった。


「それは、ガセールさんを一介の冒険者として、パーティーメンバーに加えるためで……」


 カオカがかたわらに唾を吐き捨てる。言葉の剣先で鋭くつついてきた。


「本名を明かせないほど酷い奴ってことだろ、要は」


 これは言い返せない。ラグネはぐっと詰まった。


「うう……」


 ブラディが怒りのあまり涙を流している。


「スライムが魔物だってことは、そいつは――ガセールはスライムたちの王様なんだろ? よくも無数のスライムで帝国土を汚したな! どれだけの人が死んだと思ってるんだっ!?」


 一族郎党をスライムに殺されでもしたのか分からないが、ブラディの憤激はリアルなものだった。


 コンボーイは反対にしらけて、自分の書斎ともいうべき机の椅子に座る。ボンボを手招きして、何やら教え始めた。


 ラグネは頼りになりそうな最後の人物にすがるしかない。


「コ、コロコさん、どうしましょうか?」


 コロコはボンボが離れたので、立ち上がって3人を眺め渡した。


「カオカ、トナット、ブラディ。私やラグネ、ガセールが嘘をついたことは認める。謝るよ。ごめんなさい」


 ぺこりと頭を下げる。しばらくしてからゆっくり戻した。


「でも、だますつもりはなかったの。ガセールが改心したのは事実だから。彼が涙を流して、自分の重ねてきた悪行(あくぎょう)を悔いる姿を、私もラグネもこの目でしっかり見てきたから……」


 3人の構えは一向解かれない。だが殺気はじゃっかん弱まったようだ。コロコは続けた。


「それに、3人も目の当たりにしてきたでしょ? ガセールの黒い『マジック・ミサイル・ランチャー』は、この塔を上る間に魔物しか殺さなかった、ってことを。私は沼地で巨大トカゲに襲われたけど、ガセールは漆黒の矢で助けてくれた。残酷非道だった冥王はもういなくて、ただこの塔から脱出する道を探している仲間がいるだけよ。それを分かってほしい」


 弁護されているガセールは、別にそれで感情を動かされたりはしないようだ。それともこの人の性格上、誰かに助けられることが嫌いなのか。


 コロコが締めくくった。


「最悪、ガセールを信じられなくてもいいの。このガセールを信じる、私とラグネを信じてほしい。それじゃ駄目かな?」


 ここでボンボが戻ってくる。彼はラグネの背中を景気よく叩くと、3人に訴えた。


「さっき見たように、おいらをスライムから人間に戻してくれたのがそのガセールとかいう人だ。おいらとしては感謝しかない。というわけで、どうか殺さないでほしいんだけど。……つうか」


 ボンボが3人に、周りを見るよう顎でうながす。カオカ、トナット、ブラディが武器を構えたまま、視線を周囲にそらした。


「ひっ……!」


 そこには名状(めいじょう)しがたい魔物たちが、3人の退路を塞いで並びそびえ立っている。交戦意欲を満々にみなぎらせていた。


「仲直りしなかったらこいつらがあんたらに襲いかかる。止められるのは師匠かおいらだけだ。その槍や剣で、この数を相手に戦ってみるか?」


 3人同時に襲いかかれば、ガセールに致命傷を与えられるかもしれない。今はそれだけの近距離にあった。だがそうすれば、無数の魔物たちが自分たちに攻撃してくる。おまけに、ガセールには『マジック・ミサイル・ランチャー』が備わっている……


 3人はほぼ同時に唾を嚥下(えんか)した。見かねたコンボーイが語を()える。

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