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0251ワールド・タワー26(2162字)

「よく会話の内容は分かりませんが、ワジクさまがとんでもない大物であることは理解しました。よっ! 美人! 天才! カッコいい!」


 ワジクはお世辞にまったく関心がないらしく、ただ作り物の微笑をもって応える。コンボーイは焦ったようで、頭をかいてまくし立てた。


「自分はこの階で来訪者をときに迎え撃ち、ときに無視し、ときに厚遇して、毎日の時間を召喚魔法の研究に費やして過ごしています。まさか、そんなわてを無礼者だからといって斬らないですよね? ね? ね?」


 最後はただの懇願(こんがん)になっている。ワジクはひらひらと手を振った。


「関与しませんからご安心を。それより、よくわたくしの鎧『孤城』の透明化機能を見破りましたね。魔物使いの眼力というものですか?」


 コンボーイは額の汗をハンカチでぬぐい、卑屈に答える。


「魔物のなかには透明化を使う種類のものもいますから、いつでも見破れるよう自分自身の目を改造してあるんです。ほっほっほ」


 ガセールは聞きたいことはほぼ聞けたので、近衛隊長カオカと魔物使いコンボーイに話しかけた。


「ふたりとも、どうする? ワジクの存在をラグネたちに教えるか?」


 カオカは首を振った。ようやく現実の地平に着地し直したらしい。


「秘密にしておこう。天使だの人間界の管理だの、話が突飛(とっぴ)過ぎて説明しづらいからな。それに結局監視してくるだけなら、ワジクの助力に過剰な期待をするのは控えたほうがいいし、ならばほかのメンバーに打ち明けることもないだろう」


 ガセールはうなずいた。


「賛成だ。ではワジク、再び透明になってくれ」


「分かりました。懸命な判断、助かります」


 ワジクは溶けるように消えていった。


 それを確認したガセールは、黒い球を背部に発生させる。『マジック・ミサイル・ランチャー』の力を知っているカオカが、表情を曇らせた。


「何の真似だ、ザオター」


「コンボーイに全幅の信頼を置くにはまだ早すぎる。悪いがカオカ、下の階から残りの4人を呼んできてくれ。戻ってくるまではこうしていよう」


「ああ、そういうことか。分かった、じゃあおとなしく待ってろ。俺もお前も、殺気を生じるといろいろ問題が起きそうだからな――この階は」




 ラグネは近衛隊長カオカの無事の帰還に、まずはほっとした。副隊長トナットと回復魔法のかけ合いをして、今は体力・気力ともに万全である。


 カオカが水筒の水をひとくち飲んで、喉を湿らせた。


「15階は安全だ。ただ殺気を持ち込むとまずい。まあ気楽についてこい」


 冒険者で魔法剣士のブラディが彼女に質問する。


「誰もいなかったんですか?」


「いや、魔物使いのコンボーイという老人がひとりいるだけだ。無害だと判明している」


 コロコがまばたきした。


「魔物使いのコンボーイ……? どこかで聞いたことあるような……」


 カオカを先頭に、メンバーは15階へのクリスタルに身を投じる。天井すれすれの位置にある光球が、フロアの5分の1程度を明るく照らし出していた。柱や床にびっしり書き込まれた魔法陣が、この階のあるじの異様さをかもし出している。


 トナットが小声で皮肉をもらした。


「どうやらここの主人は生き物より魔法陣がお友達のようで……。結構なご趣味ですな」


 ガセールが中央付近にあるベッドの横に立っている。寝台の上には老人があぐらをかいており、こちらに気づいて髭を(しぼ)った。


「やれやれ、年寄りはわてだけか」


 ガセールは背中側に浮かんでいる黒い球を消す。ラグネたちと合流して緊張を解いたようだった。


「よし、では16階へ向かおうか」


 そのとき、老人が――この人がコンボーイだろう――コロコが肩から提げている鞄に目をとめる。


「ちょっと待った! それは……その鞄は……」


 老齢の魔物使いは、よたよたとベッドから降りた。コロコに近づき、その荷物を(のぞ)き込む。


「……間違いない。これは弟子のボボンボに与えた鞄だ!」


 コロコの突っ込みは冷静だった。


「ボボンボじゃなくて、ボンボ! ……って、これに見覚えがあるの? あなたはボンボの何?」


「魔物使いとしての師匠だ。わては行くあてのなかったあいつを引き取って、一人前の魔物使いに育てあげた。そしてあいつが旅立つ際にわしが与えたのが、その鞄というわけだ」


 ラグネは仰天していた。まさかこの塔の15階で、ボンボの先生に会えるなんて。と同時に、今は亡きボンボとの出会いを思い返す。


 最初の魔人ソダンのダンジョンで、ラグネは勇者ファーミたちから見捨てられた後、ひとりで迷宮の出口目指して引き返していた。そのとき、ラグネは巨大な狼に襲われる。それを助けてくれたのが、コロコであり、ボンボであった。


 あのとき、ボンボは魔法陣の布を広げて『鎧武者』を召喚した。そしてその魔物の剣撃ひとつで、凶暴な狼をしとめたのだった。


 その後ソダンを打ち破り、ルモアの街に帰還したラグネは、コロコとボンボにパーティー結成を持ちかけられる。そこから3人での旅が始まった。


 ラグネにとっては忘れようもない、懐かしく温かい思い出だ。


 しかし、ボンボはその後――コロコの話によれば――『悪魔騎士』の誕生のために命と魔力を奪われて、死んでしまったらしかった。ラグネが目にしたのは、彼の白骨死体である。


 ボンボのことを心のなかで振り返っていたときだった。コンボーイのしょげた声が聞こえてきた。


「そうか、ボンボーンのやつ、死んでしまったか……」

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