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0238ワールド・タワー13(2214字)

 コラーデが真っ先に立ち上がる。


「なるほど。考えたねラグネ。キシシ」


 ブラディが遅れて身を起こした。その顔が感激に満ちている。ラグネの話す内容に、すっかり感嘆させられたらしい。


「きみは僕らを導く救世主かもしれないな。ありがとう。これでこの階も無害となった。さすがは『神の聖騎士』だ。素晴らしいよ」


 こうまで()めちぎられて、ラグネとしても悪い気はしなかった。というより、むしろ図に乗ってしまう。


「そうですか? 何だか照れてしまいますね」


 ロモンが提案した。


「僕らは蜘蛛の巣を片付けるから、その間にこの階へメンバーたちを運んでくれませんか? 羽を持つザオターさんやタリアちゃんと協力して」


「はい! 任せてください!」


 ラグネは上機嫌でカオカたちの待つ6階へと向かう。羽で舞い上がり、クリスタルのなかへ戻った。


「あっ、帰ってきた!」


 もと僧侶の女近衛隊員ムドラが、クリスタルから帰還したラグネに真っ先に気づく。もと魔法使いの近衛隊員キシンレーが、根暗で通っている彼に似つかわしくない笑顔を浮かべた。


「よく無事だったね」


 コロコも立ち上がる。


「お帰りラグネ! ほかの3人はどうなったの?」


「もちろん無事です。これからタリアさんとガ……ザオターさんと一緒に、みんなをお運びします」


「この先は羽がないと死んじゃうのね?」


「はい。転落死してしまいます」


 近衛隊隊長カオカが部下たちを叱咤(しった)した。


「お前ら、気を引き締めろ! 先へと向かうぞ!」


 隊員たちが気分のよくなる返事をする。


「はいっ!」


 ラックリー、ベルシャ、キュービィー、ヨダイの単独冒険者たちも腰を上げた。


 半目で眠そうな戦士ラックリーが、さもいとわしそうに髪の毛をかき回す。


「俺たちも行くか」


 武闘家ベルシャが無言でうなずいた。あまりしゃべらない彼女である。


 傭兵キュービィーが18歳とは思えぬ貫禄のひとことを発した。


「むせる……」


 一番元気がいいのは14歳の賢者ヨダイだ。


「頑張りましょうね、みなさんっ! ファイト、ファイトですよ!」


 ラグネ、タリア、ガセールは羽を生やし、それぞれひとりあるいはふたりを同時に7階へ運んだ。


 ラグネはコロコを運ぼうとした際、彼女に指摘される。


「どうしたの、そんなにニコニコしちゃって」


「えへへ、僕は救世主らしいですよ、コロコさん!」


 救世主。何ていい響きなんだ。コロコさんは苦笑いしてるけど。


 こうして25名全員が7階へ到達する。その頃には蜘蛛の巣は、ブラディたち冒険者パーティー3人の手で、すっかり片付けられていた。


「さて、次は8階です。前例に続き、僕らとラグネくんが先行します」


 近衛隊隊長カオカは反論の種を探すというより、そもそも反論する気がないようだった。


「構わん。さっさと行ってくれ」


 ラグネが先頭に立って、ブラディ、コラーデ、ロモンの3人が続く。その後続としてガセール、カオカたち近衛隊、単独冒険者たち、最年少のタリア、コロコと並んだ。この体制なら確かに問題はなかろうと、さすがのカオカも認めているようだった。


 まずは羽を広げたラグネがクリスタルに入る。8階の出入り口は、どうやら床同士で繋がっているらしかった。ラグネはほっとひと息つき、羽をたたむ。両足で床を踏みしめた。


「何だこれ……?」


 目の前の薄闇に何か大きな石が置かれている。ラグネは羽をしまって光球を出現させた。その昼間の太陽のような光を向けてみると、浮かび上がったのは巨大な竜の石像だった。


 後ろ足で立ち、短い前足は宙で止まって、口は何本もの鋭い牙で飾られている。2本の角と左右に三つずつある目、とぐろを巻く尻尾と、今にも動き出しそうな迫力に満ちていた。これを作り出した芸術家ないし石工の、すさまじい想像力と実現力に感嘆してしまう。


 しばし当初の目的を忘れていたラグネだったが、そうだ調査だと、気を取り直した。フロアを探り歩く。しかし、次の9階へ続くはずのクリスタルは、どこを調べても見当たらなかった。


 こういうときはみんなで考えるに限る。たとえ僕が救世主といえども……


 ラグネは危険性のないことを確認すると、7階のメンバーを呼びに行く。そうして全員が8階に足を踏み入れた。


「何もない、だと?」


 ガセールがラグネの調査結果に沈思黙考(ちんしもっこう)する。今までのパターンが――1階以外は出入り口としてのクリスタルが必ず2つずつあることが、ここにきて崩れ去った。そのことを深く憂慮しているのだ。


「塔はここで終わりなのか?」


 近衛隊隊長カオカが、側近の副隊長トナットに問いかけた。トナットは冷笑的に答える。


「まあ、8階建ての塔なのかもしれませんな。雲まで届いてたのが単なる飾りだったとするなら、それもありかと愚考します」


 コロコがひょっとして、と前置きして、


「この竜の石像のなかにあるんじゃない? 次の階へのクリスタルが……」


 そう言った、まさにそのときだった。


 竜の両目が赤く発光したのだ。


 突然動き出した石像は、その太く長い尻尾を力強く振る。


「ぐぎゃあっ!」


 その軌道上にいたボンレッカ、ムドラ、ヨダイの3人が、いずれも軽々と頭を吹っ飛ばされた。ラグネは目の前で起きたことが、3人が急に、しかも完全に死んでしまったことが、信じられない。


「うわああああぁっ!」


 体の奥底から恐怖と驚愕の叫びが吐き出された。そんな馬鹿な。25名全員で塔を――この試練を乗り越えて、地上に戻る。それを目指してきたのに。そんな夢想がはかなくも砕け散り、ラグネは受け入れがたい現実に打ちのめされる。

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