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0236ワールド・タワー11(2112字)

「ありがとうございます!」


 6階へのクリスタルに3人が入った。ラグネも後に続く。


 落ちることなく無事に床を踏んだ。そこは今まで同様、天井が高く設計されている。


 遠く反対側の位置に、7階への水晶体がにじむように光っていた。ラグネは光球を背部に浮かべる。それを中央に向けて、この階を照らし出した。


「どうですかお3人方。何が見えます?」


 ブラディが一拍置いて答える。


「特におかしなものはないね。真ん中に妙なラインがある以外は……。あれはいったい何だろう?」


 ラグネたちはその線へと近づいていった。フロアの中央を横断するそれは、金属でできているらしく光を受けて反射している――


 と、そのときだった。


「うわっ!」


 ある程度近づいたところで、いきなりラインから炎が噴き上がった。熱い! それはまるで壁を形成し、近づくものすべてを紅蓮の業火(ごうか)で焼きつくさんとするようだった。


「近づいたからか? 何にしてもこの火の壁、塔の端から端まで燃え盛っているようだな」


 ブラディたちはあまりの熱気に汗をかき始める。ラグネも同様だった。今度は火炎か。


「ちょっと光の矢で抑えられるかどうか試してみます」


 ラグネは正面を向いて、赤い灼熱を吐き出す床に、『マジック・ミサイル』の怒涛(どとう)を浴びせてみた。炎の一部が一時的に(しず)まる。だがひとたび手を(ゆる)めれば、また炎が燃え上がってしまうのだった。


「と、取りあえず離れようぜ。火を吸い込んだら火傷(やけど)しちまう」


 コラーデのもっともな意見に、4人は後退する。するとあの業火(ごうか)はまたたく間に消え、また6階に暗闇と静けさが戻ってきた。


 ロモンが額の汗を指で払う。


「どうします? 『マジック・ミサイル』で炎の発生を抑えることはできても、その上を渡ろうとしたら光の矢か炎を食らってしまいます。かといって水の魔法で消せる勢いではありませんし……」


 ラグネはブラディに頼んだ。


「もう一度あの線に近づいて、また火の壁を出現させてください。ちょっと上のほうがどこまで伸びているのか確認してみたいんです」


「分かった。コラーデ、ロモン、そこで待っていてくれ」


 ブラディが大人1.5人分程度の距離までラインに近づくと、またあの炎の板が形成される。


 ラグネは羽を広げて上昇してみた。天井付近まで近づくと、炎がそこまで届かずに終わっていることがはっきりと分かる。ラグネは空中で羽を羽ばたかせつつ、眼下のブラディに「線から離れてみてください!」と要請した。


 ブラディが後退する。しかし炎の壁は消えなかった。ラグネが浮遊したまま火炎から間隔を()けると、小癪(こしゃく)なことにふっと鎮火する。どうやら空中から近づいても仕掛けは作動するらしかった。


 ラグネは5階へのクリスタルのそばへ舞い降りる。ブラディたちとこの階の攻略法を話し合った。


「ラグネくんが『マジック・ミサイル』であの線の一部を叩いて、そこだけ炎を止める。そしてその上を、羽を持つものが味方を抱えて飛び越える。仲間を置いたらまた戻ってきて、次のメンバーを――」


 コラーデが頭の後ろで手を組んで、白い歯を見せる。


「それでいいんじゃね? キシシ」


 ロモンも大きくうなずいて賛成した。


「それしかないでしょう。では5階で待機するメンバーを、全員この階まで誘導しましょう」




 ラグネとブラディは5階の面々に状況と対策を説明する。そしてそう時も経たずに、25名全員を6階に移動させた。


 近衛隊員のなかでも最年長のドネムは、愛する妻と子の待つ家へ、一刻も早く帰りたいと念願している。


「家族のもとへ戻れるなら、どんな困難でもかかってこいって気分ですよ。今回は僕が真っ先に行きます」


 ガセールがドネムを背後から抱えた。ラグネが炎の壁の発生源である床の線へ、『マジック・ミサイル』を集中的に浴びせる。そうしてできた紅蓮の間隙を、ガセールは羽を羽ばたかせて通過した。


「どうやらうまくいきそうだな」


 ブラディは自分たちパーティーとラグネが作り上げた計画が、思った以上に滑らかに進行することに、鼻も高々だった。


 この成功は、近衛隊隊長カオカの嫉妬(しっと)をかき立てたようでもある。だが彼女は他人への称揚(しょうよう)に無言を用いるらしく、おとなしくタリアの羽で壁を越えた。


 こうして近衛隊隊員たち14名、冒険者7名、コロコたち3名の合わせて24名は、7階へのクリスタル前に(つど)った。最後に残ったラグネは、冥王ガセールの黒き矢で炎を抑え込んでもらい、その隙に羽を上下させて皆のもとへ飛翔している。


 近衛隊のゴメスが同じく近衛隊のロチェに言い寄った。


「ロチェ、お前さんは自分にもっと自信を持つべきだぜ。自己肯定感が薄いっていうのかな。それが普段のおどおどとした態度に結びついてるんだと俺は思うぞ」


 ロチェは挙動不審で、自身の黒い三つ編みを指でいじる。


「そ、そうですかね……。というか、何で私に話しかけてきたんですか? この塔はとても乗り越えられそうにないから、最後の思い出作りに、ですか?」


 ゴメスは笑いを弾けさせた。


「何いってんだよ、ロチェ。俺は塔から外へ出た後のことを――将来のことを見据えていってるんだぜ」


「そ、そうなんですか?」


「俺は前からロチェのことを気に入ってたんだ。俺は……」


 そこで近衛隊副隊長のトナットが割り込んだ。

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