0228ワールド・タワー03(2133字)
今度は冒険者たちの自己紹介となった。
「僕はブラディ。パーティーメンバーはコラーデとロモン」
残りは冒険者4名。
「俺は戦士のラックリー。単独でこの塔に入った。よろしく」
23歳ぐらいの見た目の彼は、半目で眠そうにしていた。銀色の髪が肩まで伸びている。無精ひげがイケメン度を増していた。鎖かたびらに長剣という姿だ。
「わらわは武闘家のベルシャ。同じく、単独でここに閉じ込められた。それ以上、特になし」
ラックリーぐらいの年齢の彼女は、ふさふさの桃色の髪を後ろで縛っていた。切れ長の目は碧空のようである。大柄で筋肉質な体を覆うのは布の少ない過激な衣装だ。鉄の爪を右手に装備していた。
「俺の名はキュービィー。戦いのなかでしか生きられない孤独な男だ。むせる……」
彼は18歳の見た目ながら、すでに何かを達観し悟りを開いているようだった。水色の短髪と緑色の瞳は、なるほど戦闘に飢えているような印象をもたらす。革の鎧を着込んでベルトから長剣を吊るしていた。
「私は賢者のヨダイです。単独です。あのっ! 絶対! お役に立ちます! だから置いてかないでくださいね……」
14歳ぐらいの少女で、緑色のふわふわした髪がうなじの上で揺れていた。茶色のククルスに同色のチュニック、ズボンである。すがっている木の杖のほうが主人に見えた。
近衛隊、冒険者ときて、次はラグネたちの番となる。
「僕は僧侶のラグネといいます。その……」
軽そうな声が割って入ってきた。
「知ってるぜ! 魔王アンソーを倒した『神の聖騎士』ってやつだろ?」
ラグネは音源のほうへ面を向ける。そこには3枚目な顔で、派手なファーに奇抜なチュニック、極彩色のズボンの男がいた。確かゴメスとかいう近衛隊員だ。年齢的には三十路に見える。左右の腰に短刀を佩いていた。
「お前の勇名はドレンブン辺境伯領にも届いてたからな。有名人なんだよ、お前。後で服にサインくれよな。俺の女友達に見せびらかしてやりたいからさ」
「は、はあ……」
ずいぶんのん気な性格の人だ、とラグネは内心苦笑する。
コロコが次は自分の番だと思ったか、一歩進み出た。近衛隊長カオカが反応し、コロコに先んじて問いただす。
「お前は1階の壁を破壊しようと、光の球を壁に向けて撃ってたな。あれはかなり強力そうに見えたが……。魔法の一種か?」
コロコは首を軽く振った。
「違うよ。隠者ジーラカの秘薬を飲んで手に入れた力よ。ある部分ではラグネの『マジック・ミサイル』をしのいでると自負してるの」
改めて自己紹介する。
「私は『夢幻流武闘家』コロコ。冒険者よ。『昇竜祭』武闘大会の優勝者でもあるわ」
コロコは感嘆の声が上がることを期待した。しかし武闘大会の結果はドレンブンの近衛隊にまでは伝わっていなかったのか、思ったような反応は得られない。
カオカが眉をひそめてつぶやくように言った。
「知らないね」
コロコは少ししょげて引き下がる。今度はタリアが自分の胸に手を当てた。
「私はタリア。ラグネの付き添いよ」
年齢的にどう見ても付き添われる側のようにしか捉えられなかったが、子供のいうことだとみんな気にしない。
最後のガセールは、ラグネに設定された名前を名乗った。
「余は冒険者のザオターだ。魔法使いで、まあラグネと似たようなものだ」
近衛副隊長トナットが顎をなでる。その鋭利な視線がガセールを串刺しにした。ふたりの間に独特の緊張感が走る。
が、先に目線を外したのはトナットだった。
「私は嘘をつかれるのは大嫌いです」
「余が虚偽を話したというのか?」
トナットは肩をすくめた。
「私の勘では、ね。ですが今は、黒い矢を操る強力な仲間として、一緒に行きましょうか。首尾よく外へ出られたら、また尋ねさせていただきます」
「うむ」
自己紹介が終わったところで、ラグネたち4人の代表コロコが、冒険者代表のブラディと近衛隊隊長のカオカを相手に交渉を開始した。1階中央のクリスタルに照らされながら、共通したのは「対立の排除」だった。
「ここでいがみ合っても仕方ないよ。みんな仲良く、一致団結して、この塔を上っていこうよ。ね、それでいいよね?」
「もちろんその姿勢で臨んでるよ、コロコくん。カオカ隊長もここは譲ってくださいよ」
「当然そのつもりだ。だが、何度も言うが指導者は絶対に必要だ。そしてそれには、俺がもっともふさわしい。俺の指揮系統に入っての団結なら、喜んで応じよう」
コロコが目をすがめる。この分からず屋、と言いたげだった。
「別に近衛隊長だからってこの塔でもリーダー気取る必要はないでしょ。最強はラグネなんだから、ラグネが取り仕切るのがベストよ」
いきなり自分の名前が出てきて、ラグネは背筋が伸びる思いだった。カオカは気づかず反対する。
「いいや、俺だ。このカオカが仕切らせてもらう」
「ラグネ!」
「俺!」
ふたりが詰め寄り、額同士をぶつけ合わせる。冒険者代表ブラディがあわてて間に入った。
「ふ、ふたりとも落ち着いて! そうだ、ここは多数決にしましょう! それならどちらも納得できるでしょう?」
その意見にカオカが満面の笑みになる。コロコが怒りで頬を朱に染めて、ブラディの胸ぐらをつかんだ。
「あのね、多数決じゃ近衛隊14名を保持するカオカが勝つに決まってるでしょ! 単純な計算もできないの?」




