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0225塔04(2247字)

「さすがだな、ラグネ! 一瞬で魔物をやっつけおって……俺も鼻が高いぞ!」


 安全になってからやってくる辺り、あんまりいい為政者とはいえないかも。ラグネがそう思っていると、トータは自分の直接指揮下にある近衛部隊を突入させた。


「これほどの塔なら宝箱もあるだろう! 持ち帰ってきたものには4分の1を報酬として与えるぞ! さあ、じゃんじゃん稼げ!」


 不平を唱えた冒険者たちが後に続く。その邪魔にならないようによけながら、ガセールが髪の毛をかき回した。


「そもそも上の階に続く階段はあるのか? なければ塔とは言えんだろう」


 コロコはなかを指差しながら歩き出す。


「行ってみれば分かるよ。私たちも入ってみよう!」


 ラグネたちは内部に侵入した。1階は天井が高く、太い円柱が円を描くように列を成している。その中央にはほのかに光り輝く透明な水晶が浮かんでいた。


 それを前に、近衛部隊が後続を制している。


「触るな! このクリスタル、宝物じゃない! 人を飲み込むぞ!」


 人を飲み込む? どういうことだろう。


 そう思っていると。


「うわああっ!」


 水晶から魔物が出現した。巨大なカマキリだ。悲鳴を上げる隊員たちを、その鎌で切り刻む。そうか、魔物たちはこの水晶から現れているのか。


「任せてください!」


 ラグネは『マジック・ミサイル』を一本だけ放った。カマキリの頭部が消滅する。そのでかい図体が横倒しになった。周囲の人々がまた沸き返る。


 と、そのときだった。


「え?」


 いきなり地響きが起こった。轟音とともに床がうねり、壁がきしむ。


「地震だっ!」


「外へ出ろっ!」


「急げ、急げっ!」


 いや、違う――


 閉まっていく。この塔の、唯一の入り口が、上と下から同時に塞がっていく。この音と揺れはそのせいだ。


「閉じ込められるぞ!」


 ガセールがラグネに叫んだ。


「『マジック・ミサイル』で出入り口を開け! 早くするんだ!」


「わ、分かりました!」


 だがそこに殺到する人々が邪魔となり、撃つことができない。


「ぎゃああっ!」


 中途半端な姿勢で上下から挟まれたものが、肉と骨を砕かれて血を噴出させた。それでも扉は止まらない。


 やがて、出入り口は金属音とともに完全に閉鎖された。


「とっ、閉じ込められた!」


 1階の20名近い近衛部隊と冒険者たちが、パニックになってドアを叩く。だがびくともしなかった。


 ラグネは彼らの間を縫って扉の前に立った。


「大丈夫です! 僕が『マジック・ミサイル』で破壊してみます」


 周りが不安を払拭(ふっしょく)されたように生気を取り戻す。


「そ、そうだ、俺たちにはラグネさんがついてたんだ!」


「お願いします!」


「どうか外へ出してください!」


 期待の視線が背中に集中するのを感じつつ、ラグネは光球を発生させた。


「くらえっ!」


 光の束を出入り口に注ぎ込む。だが――


「えっ……!?」


 何と『マジック・ミサイル』が通じない。上下から閉まったドアは、光る矢を残らず吸い込んだのだ。


「そんな……!」


 あの『汚辱のタルワール』や『漆黒の天使』が使った鎧、『孤城』のように、何度撃ちつけても効果はなかった。背後から失意の声が上がる。


 そのとき、肩を叩かれた。コロコがラグネの隣に立っている。


「まかせて。私の光弾を使ってみる」


「……はい、お願いします!」


 コロコは右手を拳に握り、それを扉へ突き出した。力を込める。直後、光の球が発射され、ドアに炸裂した。


 しかし。


「駄目だわ……!」


 光弾もまた、光の矢のように表面へ吸い込まれるだけだった。


 ガセールが一歩進み出る。ラグネに目配せした。


「余の黒い矢を試してみよう。非常事態だからな」


「ガセ……じゃなくて、ザオターさん、お願いします」


 だが、ガセールの漆黒の怒涛も、やはり吸い込まれるだけだった。ヒビひとつ入れられない。


「むう……。これは破壊できそうにないな」


 失望と絶望が渾然(こんぜん)一体となって波及した。


「も、もう駄目だ……!」


「出口がないぞ! 俺たちはどうなるんだ!」


「助けて、神さま……!」


 その後、やけになった人々は、剣や槍、短剣や斧などの武器で壁や扉を攻撃してみた。ラグネ、コロコ、ガセールもドアだけでなく壁を破壊できないか試してみる。


 しかし、そのすべてが無益に終わった。誰も傷ひとつつけられなかったのである。


「うわっ! 出たぞ!」


 悲鳴に振り向くと、中央の水晶から巨大な蟻が、立て続けに3匹現れていた。しかし、ラグネの光の矢ですぐに滅ぼされる。


 ガセールがあごをつまむ。


「どうやらこの水晶が、余らに残された最後の出口、というわけだな」


 ラグネがぽかんとする。


「どういうことです?」


「さっきこの水晶について、『人を飲み込む』と言ったものがいただろう。そうではない。これは、この水晶は、おそらく上の階に続く『階段』だ。この1階で触れれば2階へ移動し、2階で触れれば1階へ移動する。そういう仕組みになっているのだろう」


 コロコが顔を青くした。


「じゃあ、さっき飲み込まれた人たちは……」


「まず死んでるな。2階は魔物の巣窟と見ていい。きっと捕食され殺されてしまっただろう」


 ラグネは不意に袖を引っ張られる。見ればタリアが心細げに立っていた。


「これからどうなるの?」


 ラグネは彼女の頭を手で撫でる。


「大丈夫、コロコさんもタリアさんもガセールさんも、ほかのみんなも、僕が全員守ってみせますから」


 そして中央で浮かんでいるクリスタルを見た。それが放つほのかな光が、ここの唯一の光源だ。


「僕が先陣を切ります。安全になったら呼びに戻りますので、みなさんはここで待っていてください」


 そうしてラグネは、水晶に向かって歩き出すのだった。


(続く)

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