表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

223/285

0223塔02(2158字)

 タリアが注意してくる。


「あんまりスライムを倒すと『影渡り』で影に乗っていくのが難しくなるよ。これからどっちへ行くの? 北? 南?」


 ラグネは適度にスライムを滅ぼしながら考えた。


「南のドレンブン辺境伯領のほうが近いですから、そこへ行きましょう。ガセールさん、取りあえず一緒にお酒でも飲んで打ち解けましょうよ」


 実に軽い口調に、ガセールは鼻白(はなじろ)む。


「あのな、余は一応冥王だったものだぞ。一緒に仲良く酒を飲んで語り合おうというのか?」


 苦情を申し立てた。しかしコロコも調子よくラグネの話に乗っかる。


「そうしよう、そうするべきよ、ガセール!」


 ラグネはガセールが何か言おうとするのにかぶせた。


「ここからなら南のドレンブン辺境伯領が近いですから、南に行くとしましょう! タリアさん、お願いします!」


「うん、分かった!」


 ガセールはしばらく開いた口が塞がらない、といった具合だったが、やがて苦笑して抗議をやめる。


 タリアの手首と足首を3人がつかみ、タリアは近づいてきたスライムの影に潜り込んだ。たちまち暗黒の空間に埋没(まいぼつ)する。ラグネとコロコは慣れたものだったが、初体験のガセールは少し混乱の雰囲気をかもし出していた。




 タリアはときどきスライムの流れから離れ、適当な木や岩の影から周囲を確認する。そのたびに「何だろう、あれ」とか「変なの」とかつぶやいた。いい加減気になったラグネは、何がおかしいのか尋ねてみる。


「いや、港湾都市ドレンブンに、でっかい塔が生えてるみたいなの。天を()くほどの高さの……」


 コロコが興味を示した。そうなると止まらない彼女だ。


「見てみたい! ちょっと影から出してよ、タリア」


 タリアはにべもなかった。


「無理だって。スライムに食われちゃうよ。あと少しで城壁だから、もうちょっと我慢して」


「ちぇっ、分かったわよ」


 ほどなくしてタリアが叫んだ。


「着いたよ。城壁の上からスライムたちに、いかずちや炎や風の魔法で攻撃してる。巻き添え食ったら馬鹿みたいだから、ここからは森の影のなかを移動するね」


 そうして囲壁の影に移って駆け上がり、最上部の歩廊に到達する。ここで4人は外へ出た。ラグネたちは問題のタワーをおのが目で確認する。確かに太い建物が、雲に隠れて見えなくなるまで垂直に伸びていた。


 北から押し寄せるスライムたちに抗していた人々は、いきなり現れた無秩序な男女たちに吃驚する。


「な、何だお前らは!」


「敵か!? 敵なのか!?」


「答えろ! 場合によっては容赦せぬぞ!」


 ラグネは突きつけられた剣に少し怯えたが、別に(やま)しいことはないのだと思い直す。そして、論より証拠だとばかり、背部に光球を発生させた。


「魔王アンソーを倒した『マジック・ミサイル・ランチャー』です。スライム退治は任せてください!」


 近づいてくるスライムたちが、光球より放たれた波のような光芒(こうぼう)にさらされ、次々に滅亡していく。歩廊の上の人々や哨兵たちから歓声が上がった。


「こりゃ凄い! はかどるはかどる!」


「魔王アンソーを倒したってことは、お前がラグネだな!?」


「すげえ、本物のラグネだ! 後でサインちょうだい!」


 それはいいんですが、とラグネは言った。


「あの塔は何なんです? まさかトータ伯爵が建造したとか?」


 若い哨兵はその冗談を気に入ったか、大笑いする。


「違うよ。3日前に突然現れて、人や家屋や店を跳ね除けながら天まで生えたんだ。しかもそれだけじゃないぜ。1階の出入り口から魔物たちが湧いて出てくるっていうんだ」


 コロコが光弾を撃ちながら、興味しんしんで尋ねた。


「魔物が……。それはどんな種類なの?」


「そうだな、昆虫系が多いかな。カマキリとか、カブトムシとか。とにかくでかくて人を食らうんだ。今はトータ伯爵様が部下を指揮して、魔物たちを撃退しているそうだよ」


 ガセールがラグネに耳打ちする。


「余は『マジック・ミサイル』を使わんぞ。目立つからな」


 そう、ガセールは「人間の仇敵」なのだ。下手に異能を行使すれば、知っている誰かが糾弾してくるかもしれない。そこで冥王をかばうことは、ラグネやコロコの立場では難しかった。


「分かりました。その辺で静観していてください。スライムたちも、底をついてきたみたいですし」


 本当のことだ。眼下で川のようにあふれていたスライムたちが、今はもう囲壁に群がる数百体しか残っていない。ラグネは大声で周囲の人間を励ました。


「もう少しです! 頑張りましょう!」


「おう!」


 魔法使いや僧侶、賢者、哨兵らがいっせいに声を上げる。元栓ともいうべきひん曲がった転移魔法陣は、コロコがとっくに破壊していた。もうスライムたちが増えることはないのだ。


 光の矢が液体生物を吹き飛ばす。火炎魔法が焼き尽くし、雷撃魔法が核を砕き、風刃魔法が切り刻む。


 半刻もしたころには、とうとうスライムたちは完全に影も形もなくなっていた。


「やったー……!」


 歩廊の上の人々は、その場にぐったり寝そべって疲労のなすがままとなった。その贅沢(ぜいたく)を、彼らは勝ち取ったのだ。僧侶が回復魔法をかけて回っている。ラグネも手伝った。


 これでドレンブンの街は安泰だろう。問題はあのタワーだった。何だかこう、冒険者心をくすぐられる。


「上ってみたいね」


 コロコが目をきらきらさせていた。ラグネはガセールに聞く。


「ガセールさんはどれだけの高さまで飛ぶことができますか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ