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0222塔01(2200字)

(35)塔




 ルバマが人間界と冥界を行き来するために使った、単身用の転移魔法陣。それは力あるものが冥界から人間界へ行くために使用することはできない。特に『悪魔騎士』のリューテやツーン、『特別な悪魔騎士』であるガセールが渡るなど不可能である。


 だが、その逆、人間界から冥界へ帰るには、力の有無に関係なく可能だそうだ。




 ガセールたちは巨漢ケロット、侍ジャイア、学者トゥーホらの墓を作った。黒き矢で地面に穴を穿(うが)ち、そこへ遺体を収める。


 しかし、作った墓はそれだけではなかった。墓標だけの妻ラネッカ、子供、ルバマの3人のそれも作ったのだ。


 埋葬(まいそう)を終えると、ガセール、リューテ、ツーンは献花して黙祷(もくとう)を捧げた。見守る天使たちも厳粛な面持ちだ。もちろんラグネも花を(そな)えて冥福を祈る。


「では、冥界に帰るとしよう」


『漆黒の天使』にして冥界の管理人、ユラガの作った転移魔法陣。多重円が回転し、金色の唐草紋様が鮮やかなその中央に、冥界への入り口が開いていた。リューテがコロコへ惜別の辞を送る。


「じゃ、帰るか。お先に失礼するよ。コロコ、好きだったよ」


「早く帰りなさい」


「ちぇっ、つれないな」


 リューテが名残惜しそうにしながら、冥界への門を潜った。


 続いてツーンだ。派手な黄色い衣服が夜闇に目立つ。


「あたしはやられてばっかりだったけど、冥界では料理を学んで一人前の職人になるわ。いつか食べに来なさい、ラグネ、コロコ、タリア。……それじゃあね」


 彼女もリューテに続いた。最後はガセールだ。まだ泣いた跡が残っていて、鼻が赤い。


「余らは多くの人間を殺した。ただ人間である、という理由だけでな。それを反省はしない。余と妻ラネッカ、そして余らの第一子を殺したのは、人間であるからだ。そこはぶれることはない。ただ……」


 言い(よど)んで、ためらいを振り切る。


「後悔はしている。人間を守ろうとするラグネたちと、思想は違えど、根本(こんぽん)は同じだったように思うからだ。ラネッカと子が息災だったとき、余は確かにふたりを――人間を守りたいと願った。それは嘘偽りようのない事実だ。もし1000年前のあのとき、ラグネたちがそばにいてくれたら――余は道を踏み誤ったりはしなかっただろう。それは悔やまれるところだ」


 魔法陣に手をかける。


「こうして生きて冥界に帰るのも後ろめたい気がするが……。さらばだ、『神の聖騎士』ラグネよ。おそらくこれが今生(こんじょう)の別れだろう。達者でな」


 ガセールはそう述べると、魔法陣に入ろうとした。


 だが――


「むっ!?」


 入れない。魔法陣の中央に何度足裏をぶつけても、まったく沈み込みはしなかった。


「どういうことだ、ユラガ」


 焦るガセールに、ユラガはぷっと吹き出した。


「ガセールが冥界に反逆の意思を持ったから、力の大小に関係なく戻れなくなったのよ。バーカ!」


「何だと……!?」


 ガセールはしつこく魔法陣に入ろうとするが、どうやっても受け入れてもらえない。やがて魔法陣は有効期限が切れたのか、縮小して消え去った。


 タリアがつぶやいた。


「捨て台詞を残して帰れないってダサいね」


 ガセールを除く一同は爆笑した。冥王は赤面している。


 ラグネはワジクに質問した。


「ワジクさんは人間界を、ユラガさんは冥界を管理しているんですよね。だから危機に際し、『神の聖騎士』やルミエルたちを作り出した。冥界を統一するために、ガセールさんを『特別な悪魔騎士』に仕立て上げた……」


 そのとおりです、とワジクはうなずく。ラグネは続けた。


「結果として冥界はガセールさんによって統治されました。人間界では魔人や魔王、冥王一派の排除が成し遂げられました。これ以上なく管理されています。でも……」


 ガセールを見やる。まだ頬を朱色に染めていた。


「ガセールさんは帰れなくなりました。盟主を失った冥界は荒れるでしょう。この決着でいいのでしょうか」


 これにはユラガが答える。


「大丈夫だよ。一度組み上がった統治機構がそう簡単に瓦解することもないだろうし。リューテとツーンがうまくやるでしょ」


 ワジクも賛成した。


「やはり神々から私たち天使に管理を任され、その世界の住民に信託された世界です。できる限りその世界の流れに任せて、わたくしたちはその手綱を操ってよい流れを作りたい、そう考えております」


 ワジクとユラガが立ち上がる。東から陽光が差してきた。もう夜明けだ。


「では、神々にユラガのお尻を叩いてもらいましょう。わたくしたちはもう行きます」


 コロコが名残を惜しんだ。


「もう会えないんでしょうか?」


「今回のようなことでもない限り、もうお会いすることはないでしょう。あなたの光弾は興味深いですが、どうやら正しくお使いのようですし、特に問題になるとは思っておりません」


 天使たちが手を繋いだ。その姿が揺らぐ。


「それでは、さようなら」


 お別れだ。ガセールを除くラグネたちが手を振った。


「さようなら! またいつか、ぜひ!」


「では……!」


 天使たちがぼやけて拡散し、やがて消え去った。


 と同時に、周囲のスライムたちが急に距離を詰め、ラグネたちに襲いかかってきた。ガセールが鼻で笑う。


「現金な奴らだ。余をあなどりおって……。冥王の恐怖を思い出させてやる!」


 黒い『マジック・ミサイル・ランチャー』が発動し、近寄るスライムたちを容赦なく叩きのめす。ラグネも光の矢、コロコも光弾で対処する。スライムたちはまたたく間に消えていき、残ったものは逃げるように南下または北上して逃亡した。

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