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0221天使05(1987字)

「何で僕とニンテンさんが『神の聖騎士』に選ばれたんですか?」


 ワジクはけぶるような微笑を見せる。美しかった。


「赤い宝石『核』を左胸に埋め込まれ、それを心臓として誕生するのが『生きた人形』。それをさらに人間化したものが『悪魔騎士』です。ただし、『生きた人形』時代にわたくしの祝福を受けたものは、『悪魔騎士』とはならずに『神の聖騎士』となります。『神の聖騎士』を作り出すことは、冥界の魔法使いルバマが企図したこと――『悪魔騎士』4人を作って冥界と人間界を巨大魔法陣でつなぐ――を未然に防ぐという意味があります」


 ただ、とワジクは繋げる。


「それだけではなくて、『神の聖騎士』は異世界より侵入してくる存在――液体生物(スライム)であったり、冥王ガセールであったり、そのほか突如現れるダンジョンやタワーの魔物たちであったりを、倒すために補充されてもいるのです。そして、なぜラグネとニンテンを選んだかについてですが――」


 ワジクは人差し指を立てた。


「『神の聖騎士』は、人間たちを守るためにその強大な力を使えるものでなければなりません。わたくしは汚れを知らない『生きた人形』の魂に、先物買いとして祝福を与えました。それが羽であり、僧侶としての資質であり、『マジック・ミサイル・ランチャー』や『削る腕』などの力です。もちろん悪用などして悲惨な結果を生むようなら、わたくしが直接処断しなければならなくなりますが……その必要はありませんでしたよね? わたくしこう見えても、魂の清らかさなどを鑑定する目利きに自信があるんです」


 コロコがラグネを肘でつつく。


「私も目利きに自信があるよ。ねえ、ラグネ?」


 ラグネは単純に照れた。それをごまかすべく、ワジクにもうひとつ大事な質問をする。


「僕とコロコさんはタリアさんの『影渡り』でここまで来ました。その途中で、僕はガセールさんとルバマさんの記憶を見たんです。あれはワジクさんの仕掛けたことですよね?」


 ワジクは首を傾けた。いかにも初耳といいたげだ。


「そんな真似は『純白の天使』にも『漆黒の天使』にも不可能です。きっとガセールの妻ラネッカと赤子、それからルバマの魂が、どこかからガセールを見守っていて、そのありったけの知識をラグネに教えたのでしょう。ルバマの命と魔力で人間化した、タリアを通じて……」


 ガセールが目を見張っている。その額にほつれ毛がはらりと張り付いた。ワジクは目を細める。


「人間界を管理するわたくしワジクも、冥界を管理する妹ユラガも、ただその役目を与えられているだけです。だからときおり、守ろうとしているものからそうした秘めたる力を見せ付けられて、深くうならされるのです」


 ガセールはうなだれていた。力のない声を出す。


「ラネッカも子供もルバマも、ラグネに記憶を託すことで、余の暴走を止めようとしていたのかも知れんな……」


 どすん、と音がした。ガセールが地面に拳を叩きつけたのだ。


「人間界で死んだラネッカ、子供、ルバマは、冥界で赤子となったかスライムとなったか……。もう分からないのか、ワジクよ」


「残念ながら……」


 リューテとツーンが心配そうに、ガセールの頼りなげな背中に声をかける。


「ガセール陛下、気を落とさないよう……」


「あたしたちがついてますわ」


 だがあるじの耳には届いても、心にまでは響いていないようだった。


「……余は妻と子供の死に狂った。狂って狂って狂いまくって、人間を憎悪して怨嗟(えんさ)して憤激していた。人間界に戻ったら、必ず誰であろうが皆殺しにしてやると誓っていた。だが……」


 その声が震えている。


「余は馬鹿だった! それでは自分が憎んだ相手――一揆(いっき)の指導者キョコツや占い師ジルワード、山賊どもと、何ら変わらぬではないか! 『マジック・ミサイル・ランチャー』の凄絶な力にうぬぼれて、そのことに気づくことができなかった。正義は自分にあると、信じ込んでやまなかった……!」


 ラグネははっとした。うつむくガセールが、泣いていることに気づいたからだ。


「余も、余の妻ラネッカも、子供も、ルバマも……またひとりの人間だった! その事実をすっかり思い出したよ。何で忘れていたのだろう、どうして思い出さなかったのだろう! 世界でもっとも大切なのはそのことなのに……!」


 ガセールは両手で顔を覆って号泣した。


「く、悔やんでも悔やみきれない……! ちくしょう……! 余は、余は愚かだった……!」


 後はただただむせび泣くだけだ。しんみりした空気が流れ、ガセールの泣き声だけがただただ月夜に奏でられた。


 しばらくして、ガセールの慟哭(どうこく)が小康状態になる。それを見計らって、ワジクが問いかけた。


「――どうしますか。もしこれ以上の人間虐殺を行なうつもりでしたら、わたくしは冥王、あなたを誅殺(ちゅうさつ)しなければなりませんが……」


 ガセールは長く息を吐いた。そして面を上げる。その目が涙で光っていた。


「もう人間は殺さん、余らは冥界に戻る」

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