0220天使04(2062字)
何だか壮大だな……。ラグネは傾聴した。
「しかし、冥界と人間界はほかの世界よりずっと関係が深く、まさに表裏一体です。人間界で死した人間が、冥界に赤子かスライムか、どちらかで生まれるように。あるいは、だからこそわたくしたち双子の姉妹が担当を任されたのかもしれませんね」
リューテが頭の後ろで両手を組んだ。
「俺たち5人衆は――2人衆になっちまったけど――元『生きた人形』の悪魔騎士だ。それだけはよかったぜ。元人間のスライムたちとは違うからな、絶対に」
ツーンがリューテの肩にチョップした。
「話の腰を折らないでよ。続けて、ワジク」
「……天使が与えた『マジック・ミサイル・ランチャー』の力は、その世界で使うべく用意されたものです。冥王ガセールのように、人間界に渡ってそこの人々を殺害するために使用するのは誤りです。こういった場合のために、神々はわたくしに禁断の力を与えました。それが『神の聖騎士もどき』ルミエルです」
コロコがその名を聞いて目をすがめる。気にせずワジクは続けた。
「しかし、まずは冥王の侵入より先んじて発生した、スライムの人間界大量流入。こちらをどうにかすべきでした。ルミエルを派遣しましたが、冥界との接点である転移魔法陣を破壊することは、火の剣では困難でした。そこで冥界の管理人である妹ユラガに、入り口たる魔法陣の発見と除去をお願いして、しばらく様子を見たのです」
ラグネは思わず立ち上がって大声を出す。
「そんな、様子見だなんて……! スライムたちにどれだけの人間が殺されたと思ってるんですか!? すぐにワジクさまの手で魔法陣を破壊するべきでした」
ワジクはそんなラグネの顔を見上げ、悲しげにまつ毛を伏せる。
「すみません。言い訳になってしまいますが、ユラガからすぐに返事と処置があるものだと信じていたのです。しかし、ユラガはわたくしへの返信を故意に遅らせ、冥王がそちらへ行きそうなので対処したほうがいい、と別のことを告げてきました。わたくしはスライム迎撃に回すはずだったルミエルたち300名超を、ロプシア王都に派遣しました。そしてそこに、魔法使いの組織『蜃気楼』の総帥ムラマーたちの手で、とうとう冥王ガセールが降りてきたのです。スライムたちのことを考えれば、転移魔法陣を攻撃するのは得策ではなく、6人の着込んだ鎧が完全に現れるまで――魔法陣が消えるまで待たせました」
『純白の天使』は無念そうに語を継ぐ。
「しかし冥王とその部下たちは、予想されていたよりはるかに強力でした。ルミエルたちは最後のひとりまで殺されて、冥界のものたちはスライムともども人間の虐殺に走り出したのです」
ガセールは神妙に耳を傾けていた。いや、この場にいる誰もが、この恐ろしく異様な話に耳をそばだてている。
「これを止めるため、わたくしは自分自身による人間界への直接干渉を決断しました。ついては決行していいかどうか、神々にうかがいました。結果は『是』でした。その際、神々はわたくしに鎧『孤城』の青色と赤色を取り戻してくるようにも命じられました。妹のユラガが持ち出したとのことで、わたくしは黄色い『孤城』を携帯してこの地に舞い降りました」
ラグネはワジクの肩掛け鞄を見やる。あのなかに球体の『孤城』が入っているのだろうか。
「スライムと冥王たちによる人間殺戮は、すでにみなさんがご存知のとおり、それは酷いものでした。スライムたちの源泉たる歪んだ転移魔法陣は――コロコ、あなたが破壊してくださったのですよね?」
急に話を振られて、コロコは素早く3回もうなずいた。
「そのため、わたくしはガセール一行を追跡し、彼らを処断することに専念できました。試作品の『孤城』を使うのはためらわれたので、調査には時間がかかりました。到着してみれば、何と『神の聖騎士』ラグネと共闘して、妹たる『漆黒の天使』ユラガと戦っているではありませんか。私は驚きました」
赤い髪が風に乗ってふわりと浮き上がる。ワジクは髪をかき上げた。
「冥界のことは妹任せです。ですから、そこの支配者となれるような人物が、他人を信じたり部下を案じたりするという事実に仰天したのです」
ユラガはガセールに言っていた。『ルバマちゃんに心を傾けて、きみは変わっちゃった。人間としての優しさともろさを併発するようになった。ひょっとして気づいてない?』と。
「ともかく、わたくしのように神々から許可を得たならいざ知らず、勝手に動き回ったユラガは重罪です。『汚辱のタルワール』を転移させたり、青い『孤城』を与えたり、人間界に乗り込んで赤い『孤城』で人間に直接手をくだそうとしたり……。神々の法に照らし合わせても厳罰は免れません。わたくしはこれから妹をともなって、神々に謁見し、その罪を問うつもりです。すみませんでした、ガセール、ラグネ」
話は終わった。しかし、まだ分からないことは山ほどある。そのすべてをいちいち解き明かそうとしたらきりがないが、最低限の何個かは聞いておきたい。こんな機会は滅多にないのだから。
ラグネは『純白の天使』ワジクに尋ねた。
 




