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0219天使03(2054字)

「すまんな」


 ガセールは立ち上がり、大声を放つ。憐憫(れんびん)が含まれていた。


「勝負は決した。青い『孤城』のタルワールのように、余の黒い矢で消滅したくなかったら、観念して立ち去るがいい」


 これに真紅の甲冑は血管が3本ほどぶち切れたのか、周りで見守っているスライムたちに怒号した。


「きみたち! ガセールどもを食べちゃいなさい! 冥王より格上の――そう、次元が違うほど格上の――わらわが許しちゃうから!」


 しかし黒い液体生物たちは動かない。何であれ、とばっちりを受けるのは嫌だ、といいたげだった。


「きーっ! きみたちーっ!」


 ユラガが激怒しているうちに、ラグネはタリアの右胸の傷を治す。


「ああ、痛かった。……大丈夫、ラグネ?」


「あんまり……」


 左足は切断されたままで、治療してくれるものもいなかった。僧侶のラグネは自身に回復魔法をかけることができないのだ。


 ガセールが黒い球体を背部に発生させた。


「立ち去らないなら容赦はせぬ。くたばるがいい、ユラガ!」


 月光のもと、黒い矢の濁流がたちまち『漆黒の天使』に降り注ぐ。


 だが――


「ふん、わらわの力にわらわが滅ぼされるとでも思って?」


 ひび割れ、なかの少女が見え隠れしているにもかかわらず、ガセールの『マジック・ミサイル』はとどめとはならなかった。隙間から本体を直撃しても、それは彼女にとってそよ風が吹いた程度のことらしい。


「むう……」


 ガセールは残念そうな顔をすると、ラグネに目配せした。


「分かりました」


 負傷しているラグネだが、まだ意識ははっきりしている。(たる)のような光球を背後に生じさせ、そこから光の矢を赤い『孤城』に放射した。


「ま、まずいっ……!」


 ユラガはしゃがみ込み、両手を地面に着く。殺到する『マジック・ミサイル』が、彼女を中心とする半円で弾かれた。


 ガセールが舌打ちする。


「防御結界か。それも相当高度な……」


 ラグネは光の矢を撃ちながら、先ほどのように器用に背後を向いた。呪文を唱えると、疲れて両膝をついているコロコへ手をかざす。


「『回復』の魔法!」


 疲労困憊(ひろうこんぱい)だった彼女が、一気に復活した。


 それを見て紅蓮の甲冑は恐怖に顔を歪める。


「ちょ、ちょっとちょっとちょっと! それはなしよ! あんまりよ!」


 コロコは右拳をユラガへと向ける。


「これでおしまいよ、ユラガ! ラグネ、タイミングを合わせて光の矢を止めて」


「分かりました。……せーのっ!」


 金色(こんじき)光芒(こうぼう)がぴたりとやむと、コロコが最大出力で必殺の光弾を射込(いこ)んだ。


 ユラガは絶望に目を見開く。そこへ光の球が、防御結界を突き破って炸裂した。


「むっ!?」


 ガセールが夜空を見上げる。ラグネとコロコもつられて視線を投げた。そこには、白いドレスを着た謎の美少女が、黒いドレスのユラガの手首をつかんで、宙に浮いていた。純白の蝶の羽を羽ばたかせている。


 ラグネは再度地上に目線を引き下ろした。強力な鎧『孤城』は、コロコの光弾でバラバラに砕け散っている。


 どうやらあの白いドレスが、ユラガを寸前で取り出して救出したらしかった。


「ワジク姉さん……!」


 助けられたものが、助けたものをそう呼ぶ。姉はユラガと双子のように似ていて、こちらも傾国の美女だった。白い肌で瞳は濃い青色だ。


「『特別な悪魔騎士』ガセール、『神の聖騎士』ラグネ。わたくしは『天使』ワジクと申します。敵意はないので、もう攻撃しないでください。妹にはこれ以上の交戦はさせません」


 天使……!? まさか。彼女が自分を『神の聖騎士』にした存在だというのか。僧侶の資質と『金色の翼』、そして『マジック・ミサイル・ランチャー』を与えた張本人だと……!


「その証拠として――」


 何やら呪文を唱える。手をこちらにかざした。


「『回復』の魔法!」


 光の粒がラグネの左膝に飛んでくる。膝の断面に集まると、そこから新しい足が瞬時に生えてきた。痛みはまったくなくなる。


 コロコの手を借りて立ち上がった。草と土が足裏にこそばゆい。ガセールが肩をすくめた。


「ふむ、確かに戦意はないようだな。話は後で聞く。余はリューテとツーンを治す」




「あー痛かった」


「酷い目に()ったわ」


 リューテとツーンはガセールの手で回復し、五体健康で近くに腰を下ろしている。『漆黒の天使』ユラガは姉の『天使』ワジクの命令で、彼女の背後で座っていた。すっかりしょげている。


 ラグネ、コロコ、タリアもくつろいでいた。ガセールはあぐらをかいて、目の前にぺたりと座り込んでいるワジクに厳しい視線を送っている。


「では、なぜその『漆黒の天使』を助命したのか、理由を聞かせてもらおうか」


 ラグネは隣のガセールの横顔を眺めた。端正な顔立ちも、仲間3人を失ったからか、少しやつれて見えた。


 ワジクが咳払いしてから答える。外見は妹と瓜二つ、肌の色は違っていたが、ともに16歳ぐらいだ。


「わたくし『純白の天使』ワジクは人間界を、妹の『漆黒の天使』ユラガは冥界を、異界のものたちから守る使命を神々より託されています。人間界と冥界だけでなく、いろいろな世界は平行して存在していて、それらはすべて神々に選ばれた天使が管理監督しています」

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