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0218天使02(2044字)

「あははっ! 効かないよーだっ!」


 真紅の甲冑(かっちゅう)は右手人差し指を天に突き上げた。


「行けーっ!」


 すると空から、さっきの電光の槍が豪雨のように降ってきた。ガセールが倒れたまま、漆黒の球体から黒い矢を放射する。それらはリューテ、ツーン、そして彼自身に注がれる凶器の雨を退(しりぞ)けた。ラグネももちろん光の矢でコロコと自分を守る。


 やがて雨は止み、直撃は防ぎ切った。地面に突き刺さった大量の槍が、細かく分解されるように消えていく。


 そこでラグネは気がついた。ユラガの姿がない。どこへ行ったのだろう?


「きゃああっ!」


 すぐ斜め後ろから悲鳴が放たれた。振り向けば、赤い『孤城』がコロコを背後から組み伏せている。その手がコロコの右腕をひねり上げ、握り潰していた。


「残念でしたっ! これでもう光弾は撃てないねっ!」


 ユラガはお気楽極楽な調子でそうのたまう。ラグネはぶち切れた。


「よくもコロコさんを!」


 この位置で『マジック・ミサイル』を放てばコロコにも当たってしまう。だからラグネは無謀にも、鉄拳で紅蓮の鎧に殴りかかった。


「だああっ!」


 そしてまるで岩石を殴打したように、ラグネの右拳は音を立てて折れる。当然の結果だった。


()っ……!」


「あはは、バーカバーカ! それじゃ、あんたも寝転んでてよねっ!」


 赤い『孤城』は笑いながら右手刀を振り抜く。ラグネは左膝を一刀両断され、鮮血を撒き散らしながら倒れこんだ。


「あぐっ……!」


 凄まじい激痛に、ラグネは涙を流してのた打ち回る。


「ラグネっ! よ、よくもラグネを……!」


 コロコが歯軋りした。それをユラガが足蹴(あしげ)にする。


「ふたりで『よくも!』『よくも!』ってバカみたい。わらわはね……」


 彼女の口調が怪しくなった。


「この場にいる全員――そう、全員に気が狂いそうな苦痛を味わわせ、その上で殺さなければ物足りないんだ。だからコロコちゃんもラグネくんも、一撃では死なせないよ。たっぷりもてなしてあげるから覚悟してね……!」


 恐ろしい言葉だ。それには続きがあった。


「影に隠れている子、出てきて。出てこないとラグネくんとコロコちゃんを殺しちゃうよ?」


 反射的にラグネは叫ぶ。


「出ないでください、タリアさん!」


 だが遅かった。タリアはすでに土の影から上半身を現している。そこへ『孤城』は突きによる衝撃波を見舞った。タリアの右胸が撃ち抜かれる。


「ぐふっ……」


 彼女は『影渡り』の能力を一時的に喪失したのか、影のなかから弾かれるように吹っ飛んだ。赤い血を流してうつぶせに倒れる。


 ラグネは悲痛な声を上げた。


「タリアさんっ!」


 もはや立っているのはユラガだけだ。彼女は愉快げに、腰に手を当てて大笑いした。


「やったー! わらわ、強い! 最強! ざまぁないわね、きみたち!」


 そのとき、ラグネはガセールと同時に『マジック・ミサイル』を放った。もちろん標的は、至近にある紅蓮の甲冑の上半身だ。光と漆黒の二種類の矢は、暴風のように『孤城』へ叩きつけられる。


 しかしすでにやってみて分かっているとおり、それはユラガに何のダメージも与えられなかった。光輝も暗黒も、彼女の体表を滑って後方へ流れていくのみだ。とばっちりを食った遠くの山々が、がらがらと崩れていった。


「ちょっと! 今さら何を無駄な抵抗してるの! 前が見えないじゃない!」


 激怒した真紅の鎧は、一歩前へと踏み出す。それと同時だった。ラグネとガセール、ふたりが『マジック・ミサイル』の射出を止めたのは。


『孤城』がせせら笑った。ラグネが背中を向けていることを、大して気にもとめていない。


「観念したのね」


 そのときだ。ユラガの胴体に、極大の光弾がぶち込まれた。


「ぎゃあっ!」


 彼女は大きく後方へ吹っ飛び、地面に落ちて転がっていく。その軌跡をたどるように、土煙が立ち昇った。


 そう、ラグネとガセールの攻撃は目くらましだった。その間にラグネが小声で呪文を唱え、コロコの右腕に回復魔法をかけていたのだ。


 治った右拳で光弾を叩き込んだコロコは、今度は疲労でしりもちをつく。全力の光球を放った後は、動けないほどの疲れが彼女を必ず襲うのだった。


「ど、どう? 倒したかな」


 コロコが額に汗を浮かべ、目をすがめる。ラグネはそうであることを願った。


 それにしても、光の矢を撃ちながら回復魔法を使うのは、今までで初めてのことだ。うまくいってホッと安堵していた。無言の連係プレーで協力してくれたガセールにも感謝している。


 その冥王が低くうなった。


「まだだ」


 土煙が流れ去ると、そこには赤い鎧が――ところどころ壊れているが――仁王立ちしている。


「『よくも』って、こういうときに使うんだね……」


 見た目16歳の少女としては、ありえないほどの殺気がその声に込められていた。


「よくも……よくもよくもやってくれたねっ! もう許さない! 計画変更よ! 全員すぐさま殺してあげるわ!」


 だがその怒りに鎧がついてこないらしい。ユラガは明らかに重そうに、両足を交互に前へと出してきた。振り抜いた右腕も鈍く、衝撃波は弱々しい。それを光の矢で落とし、ラグネはガセールも回復させた。

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