表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

217/285

0217天使01(1973字)

(34)天使




 真紅の『孤城』は手刀(てがたな)を作り、真一文字に振り抜いた。衝撃波が飛び出す。


 ラグネはコロコに押し倒された。頭上を風切(かざき)(おん)が通過していく。もし突っ立ったままでいたら、手酷い傷を負わされていたことだろう。冥王たちもよけたらしい。


「ラグネ、コロコ、私の手首をつかんで!」


 タリアが岩陰から上半身だけ現れた。ラグネはコロコとともに言われたとおりにする。真っ暗な影のなかに潜り込んだ。


 再び起こった「悪党たちの同士討ち」。ラグネたちにとってみれば、静観していれば十分な話である。何も首を突っ込む必要もない。彼らが勝手に潰しあえばいいのだ。


 だが――


 ラグネは見てしまった。ガセールの記憶を、ルバマの記憶を。ガセールが歪んでしまった原因である、妻ラネッカと子供の死。ルバマが報われることのない愛のために費やした、苦難の日々。それらを目の当たりにして、ガセールたちを一方的な悪だと決め付けることは困難だった。


「間違っているかもしれませんが――僕は、ガセールさんたちを助けたいです」


 結局、青い『孤城』から助けたときと同様の結論だ。コロコのくすりと笑う声がした。


「うん、分かった。付き合うよ。私の光弾なら、鎧を破壊できるって判明してるし」


 タリアも苦笑して了承する。


「じゃあ死なないでね、ふたりとも。いってらっしゃい」


 ラグネはコロコとともに、影から飛び出した。




 目の前に展開された景色では、ガセールが黒い『マジック・ミサイル』で、ユラガの衝撃波を防御していた。赤い鎧が地団駄(じだんだ)を踏む。


「何よっ、もう! 抵抗しないでさっさと倒れてよね! こうなったら……!」


 紅蓮の『孤城』が突進した。至近距離から衝撃波を撃ち込むつもりだ。ツーンが叫ぶ。


「この化け物! 食らえっ!」


 彼女が鞭を放った。それはまるで生きた蛇のように、鎧の足へと巻きつく。ツーンが思い切り引っ張ると、ユラガは回転して背中から地面に叩きつけられた。


「何すんのよ、このおばさん!」


 不当な抗議をしながら起き上がろうとする真紅の鎧へ、このとき、上から大量の闇が舞い降りる。ガセールの『マジック・ミサイル』だ。黒き矢は土砂のごとくユラガに降り注ぎ、彼女を地面へと深く埋めていった。


 ガセールが矢の波濤(はとう)を撃ち込みつつ、リューテとツーンに声をかける。


「お前ら、余ではユラガには勝てん。それにこの女には恩もある。だがお前らは違うはずだ」


 極めて深刻な声で言った。


「今すぐ逃げろ、これは命令だ」


 リューテとツーンが頑としてはねつける。


「冥王さまを見捨てて逃げられないですよ!」


「リューテの言うとおりです! あたしたちは一蓮托生(いちれんたくしょう)のはずです!」


 そんななか、ラグネはコロコとともにガセールに近づいた。


「ガセールさん、協力します」


「私の光弾をユラガに叩き込んでみせるわ。タイミングを合わせて『マジック・ミサイル』の射出を止めて」


 ガセールはぼやく。


「まったく、どいつもこいつも……」


 長く息を吐くと、コロコと目顔(めがお)で意思疎通した。ふっと黒い矢を抑える。


「くたばりなさい!」


 コロコが穴のなかへ右拳を向けて、光の球を発射した。それは穴の底へと飛翔していく。だが何かにぶつかったような音はついぞ聞こえなかった。


「……当たってない……!?」


 コロコが首をかしげる。


 そのときだった。


 背後から、リューテの悲鳴が上がったのは。


「ぐああっ!」


 ラグネは振り返り、少年が左腕を失って転げまわっているのを目の当たりにした。何だ? 何が起こった?


「わらわがそう簡単にやられるわけないでしょ! ざまーみろっ! あはははっ!」


 何と赤い『孤城』が地面から上半身だけ出し、嬉しそうな嘲笑を響かせている。ラグネは合点(がてん)がいった。ユラガは埋められながらも横に穴を掘り、地中を潜って背後に回ったのだ。そしてリューテを攻撃した――


 ガセールが憎しみを込めて怒号する。


「ユラガーっ!」


 背部の黒い球から矢が飛び出そうとした。だがそれより早く、紅蓮の鎧が衝撃波を放つ。それはガセールの右ひじと右脇腹を切り裂いた。


「がふっ……!」


 真っ赤な鮮血を噴き出しながら、ガセールが苦悶の声を上げて倒れる。ツーンが怒った。


「このガキ……!」


 ツーンの振るった鞭が『孤城』にぶち当たる。だがまったく効き目はなかった。


「おばさんは退場してよ! 目障りだからっ!」


 ユラガは鞭をつかむと、それを背負い投げのように振ってツーンを放り投げる。ツーンは地面に叩きつけられ、うめいてぐったりした。


 コロコが右手を構える。


「当たれーっ!」


 まばゆい光輝の塊が発射され、赤い鎧に迫った。


「おっと! それは食わないよっ!」


 ユラガはそれを泥臭くかわす。もらってはいけない一撃を十分にわきまえているようだった。


 ラグネは背中に光の球を発生させ、『マジック・ミサイル』を撃ち出す。光の怒涛は『孤城』に全弾命中した。だがそれらはすべて受け流され、むなしく相手後方へ滑るのみだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ