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0214ユラガ01(2191字)

(33)ユラガ




 そのときだった。


 タルワールの影から若い女が飛び出して、右拳を突き出してきたのだ。


 突然の出来事に面食らう『孤城』は、直後の光弾をまともに浴びた。


「ギャベエェッ!」


 耳をつんざく轟音とともに、青い鎧は後方へ吹っ飛ぶ。数々の大木をなぎ倒し、地面を馬車の車輪のように転がって、平地に出てようやく止まった。


 光弾を放った女は、ガセールには見間違えようもなかった。


「コロコ!」


「派手にやられたみたいね、ガセール」


『夢幻流武闘家』のコロコはそういって微笑する。続いて木々の影から少年が姿を見せた。何やら呪文を唱えている。


「『回復』の魔法!」


 こっちはラグネだ。彼はガセールに手をかざした。頭や腕の骨折、斬り落とされた右足まで瞬時に元に戻る。冥王は不思議に思わずにはいられない。


「なぜ余を助ける? お前らには何の得もないだろうに……」


「あなたは人間界にふたつの目的のために戻ってきました。ひとつは人類滅亡。もうひとつは愛するラネッカさんと子供、ふたりの墓を立てること。前者はともかく、後者は僕も成し遂げてほしいと思っています。だから助太刀しました」


 ガセールは驚いていた。ラネッカと子供のことは、冥界ならともかく、人間界では誰にも話した覚えがないからだ。


「なぜそのことを知っている。1000年も前のことだぞ」


「さっきあなたとルバマさんの人生が、僕の頭のなかを通り抜けたんです。……ああ、これじゃ不正確ですね。何て言ったらいいのか……」


 表現に困るラグネを、ガセールは凝視した。タリアが影から()い出て感想を漏らす。


「その様子じゃ、ガセールが仕掛けてきた罠とかじゃなさそうね」


 冥界の5人衆の生き残り、若者リューテと派手女ツーンが舞い降りてくる。ふたりの表情は暗かった。リューテは憤懣(ふんまん)やるかたなしといった具合で、ラグネの胸ぐらをつかむ。


「お前、援護するならもっと早く来いよ! ジャイアもトゥーホもケロットも死んじまったじゃねえかよっ!」


「す、すみません……」


 苦しそうにするラグネを見かねたか、コロコがリューテの前腕を押さえた。


「ちょっとリューテ、その言いぐさはないよ! タリアが戦っているきみたちを偶然発見して、それでラグネが『ガセールさんを助けたい』と言い出したのよ。だいたい極悪非道のきみたちを手助けする必要なんて、私たちにはこれっぽっちもなかったんだから」


 まったく反論できず、リューテは舌打ちする。その手をラグネの胸元からしぶしぶ離した。


「それで? 俺たちに感謝してほしかったのかよ」


 ガセールが割り込んだ。


「もういい、リューテ。……それよりタルワールの奴は完全に死んだのか?」


 ツーンが森に挟まれた草原を見やる。その直後から、がたがた震え始めた。


「い……生きてます! こちらをにらんでます!」


 平野の真ん中で、『孤城』はふらつきながらも立ち上がっている。コロコの光弾が効いたのか、鎧の頭部が割れて、タルワールの青い血まみれの顔がのぞいていた。笑っている。


「ギャヒャヒャ……! やってくれたじゃねえか。貴様はガセールの新しいイロか? まあいい、死ねや」


 右手の手刀を振り抜いた。衝撃波がうなりを上げて飛んでくる。ガセールはコロコをかばうように、『マジック・ミサイル』を放ってそれを弾き返した。


「タルワール、もし遺言でもあれば聞いてやるぞ。自分の墓はどんな種類がいいか、とかな」


 一瞬『孤城』はポカンとなった。そして言葉の意味――『殺してやる』に気づいて、脳の血管が数本切れたように憤激した。


「てめえっ! 何を調子に乗ってやがるっ! 今すぐぶち殺してやらぁっ!」


 青い鎧は両手刀で衝撃波を放ちまくった。大量に飛来する死神の鎌。だがガセールの黒い矢は、それらを残らず撃ち落とす。


 それだけでなく、マジック・ミサイルの大波はタルワール――彼の頭部へ殺到した。


「ぎゃっ!?」


 確かに『孤城』は黒い矢でも砕けない。だが内部の着用者はどうか。青い鎧の頭のわずかな裂け目。それだけで十分だった。


「ぐぎゃあぁっ!!」


 割れた箇所からガセールのマジック・ミサイルがなかへと潜り込む。タルワールは絶叫した。そして、それが彼の放った最後の声となった。


『孤城』は金属音を響かせて仰向けに倒れる。そして大の字になったまま、完全に動かなくなった。


 ガセールは強敵を倒して安堵し、大きな溜め息をつく。そして隣に立つラグネたちに低い声で問いかけた。


「コルシーン国・王城城下町で引き分けたとき、余は宣告したはずだ。『次に会うときはお前たちを皆殺しにしてやる』とな」


 ラグネは微苦笑で答える。


「ガセールさんは自分が認めた相手は殺さないはずです。ラアラの街の『魔法剣士』ヨコラさんだったり、コルシーン国・王城城下町の僕らだったり……。違いますか?」


 ガセールは不機嫌に押し黙った。そのとおりだからだ。それがガセールの生きるポリシーのようなものだった。


 もっとも、人間界では相手に主張する暇も与えず殺してきた自分である。独善的で独りよがりといわれても弁解しようがなかった――弁解する気もなかったが。


 結局ラグネには答えぬまま、残った部下たちに指示を出した。


「リューテ、ツーン。3人の死体を集めてくれ。墓を作ってやりたい」


「御意!」


 若者と派手女はジャイア、トゥーホ、ケロットの3人の遺体を探しに行く。ガセールはラグネとコロコに「ついてきてくれ」と声をかけ、森から平野へと歩き出した。

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