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0206ルバマ15(2226字)

 ルバマは単身用の転移魔法陣を通して、冥界に帰還した。自分の疲労困憊(ひろうこんぱい)ぶりを、召し使いのヌリタクとヌリマツが心配してくれる。それにありがたさを感じながら、それでもルバマは容赦なく命じた。


「ふたりとも、交代でいいから人間界へ行って、ケゲンシーを見張るのよ。魔法陣の東にある森、そのなかに置いてきたから。いずれ魔力あるもの――魔法使いのゴルドンっていうおじいさん――がやってくる。あたしがケベロスの街で作った友人よ。たぶんあの一帯で、もっとも魔力を持っている魔法使いは、あのおじいさんだから……。人形におびき寄せられたゴルドンは、その血肉と魔力でケゲンシーを人間化させるはず……」


 ルバマは咳き込んだ。吐いた唾に血が混じっている。


「あたしは魔力を持ってるから、ケゲンシーに近づいたら人間化の餌にされてしまう。魔力のないあなたたちなら問題ないわ。陰から人形を見守りなさい。そしてゴルドンが来たらすぐに報告して。いいわね」


 冥界のものが人間界の汚れた空気を吸えば、自分のように病を発症してしまう。とはいえ、半日程度の時間とどまるだけなら、そこまではいかないだろう。


「ああそうそう、あなたたちの青い肌は向こうじゃ普通でないから、なるべくいろいろ着込んで、肌を隠しておくこと。それじゃ、行ってきなさい!」


 ヌリタクとヌリマツは承知した。そして、ルバマの指示で転移魔法陣のありかまですっ飛んでいった。




 半日もかからなかった。ルバマは痛み止めの葉っぱを噛みながら、人間界で悪魔騎士ケゲンシーに面会する。彼女は記憶を失っており、自分の名前しか分からなかった。


「あなたは……?」


 見た目18歳のケゲンシーは、その爆発したような青い髪と、黒縁の四角い眼鏡が特徴だった。ルバマはここが肝心だ、と思う。


 この少女にだけはすべてを告げて、盛大に踊ってもらわなければならない。


「あたしはルバマ。冥王ガセールさまの使いよ。あなたに何もかも教えてあげるから、よく聞いて」


 そうしてルバマは語っていった。


 ケゲンシーは傀儡子(くぐつし)ニンテンの造形した『生きた人形』が元であり、魔法使いゴルドンの命と魔力を奪って人間化したこと。


 この人間界に、ケゲンシーのような『悪魔騎士』を4人そろえ、転移魔法陣を展開するのが最終目的であること。


 それまでは『神の聖騎士』を名乗って活動し、ほかの悪魔騎士が誕生あるいは発見されたとしても、それを貫くこと。


 自分が『生きた人形』の人間化したものであることは、傀儡子たちの前ではしゃべらないこと。


 もし転移魔法陣を作り、冥王ガセールさまをこの人間界に降臨させえたなら、冥王直属の大事な魔人として報酬は思いのままであること。


 など、など……




「分かりました」


 ケゲンシーはよく飲み込み、理解し、定着させた。ルバマは頭のいい子で助かった、と安堵する。しかし、ケゲンシーの返事には続きがあった。


「でも、こんな森のなかでひとり取り残されて……。まずお腹が空いていますし、差し当たってどう生きればいいのでしょうか? ルバマさまも召し使いの方も戻られてしまうのでしょう?」


「定期的にこの大きな岩に文字を彫り込んで連絡するわ。お金は……」


 ルバマは白骨化したゴルドンの衣服を探る。目当ての皮袋があった。


「これ、このお金を使いなさい。それからケゲンシー、あなたにいい力を授けてあげる。『翼よ背中に生えろ』と、繰り返し念じてみて」


「翼よ背中に生えろ……? 分かりました、やってみます」


 ケゲンシーは目を閉じ、深呼吸して、眉間にしわを寄せた。


「生えろ……生えろ……!」


 その途端だ。ケゲンシーの背中から金色の羽が飛び出し、ふわりとその体が浮き上がったのは。


「きゃっ! な、何ですか、これ! ホントに生えてきた……」


 ルバマは翼の色の違い――ガセールや悪魔騎士5人衆は銀色だった――に気がついた。しかしどうやら能力は同じらしい。ほっとして腕を組む。


「じゃあ生きていきなさい、ケゲンシー! 悪魔騎士をあと3人、何としても作り出すのよ! いいわね!」


「はい! 必ずやルバマさまの悲願を果たしてみせます! さようなら!」


 ケゲンシーは空を飛んでいった。ルバマはそれを見送ると、我慢しきれず吐血した。




「冥王万歳!」


「ガセールさま万歳!」


「冥王ガセール陛下に栄光あれ!」


 マシタル王国でのガセールのパレードには、その様子をひと目見ようと、多くの冥界人が詰めかけた。立錐(りっすい)の余地もないとはこのことだ。


 空を飛べるのにもかかわらず、ガセールはあえて馬上から民衆に手を振り、その威厳をことさら誇示してみせた。誰があるじか、徹底して分からせる必要があったからだ。


 ガセールの後ろには悪魔騎士5人衆――トゥーホ、リューテ、ジャイア、ケロット、ツーンもいた。彼らも馬に乗ってゆったりと冥王の後に続く。この6人が揃うのは、実に900年ぶりだった。


 多数の民が楽器や声でパレードを盛り立てる。少なくない人が花びらを窓から散らして飾り立てる。冥界の領土はすべてガセールのものであり、敵対しうる勢力は根こそぎ一掃されていた。


 今回の帰還で、ガセールは楽しみにしていることがある。それは、まだ会っていないルバマから、人間界へ戻る方法を聞きだすことだった。


 それと、もうひとつ……




「まだ完成しておらぬか」


 謁見室で、ガセールは最上位の玉座に陣取り、ひざまずくルバマを見下ろしていた。きざはしの途中には国王オラキズ、大臣フイア、召し使いヌリタクとヌリマツ、近衛隊長ピキュ、5人の悪魔騎士が控えている。

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