表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

202/285

0202ルバマ11(2132字)

 相手は布に描かれた模様を見て、それだけで「転移魔法陣」と見抜いた魔法使いだ。その実力は確かなものがある。なら、人形を作ることにもあるいは才能を示すかもしれない。やるだけやってみる価値はあった。


「分かった。あたしの授業は厳しいよ。それでもいいね?」


「うん、大丈夫。そうこなくっちゃ」


 かくして、ルバマによるフォーティへの「『生きた人形』制作講座」はスタートした。




 フォーティは天才的な技術を持っていた。魔法をかけた彫刻刀を手足のように操り、木材を美しく削っていく。


「関節部が難しいね。これでどう?」


「うーん、そうだね。合格」


 こんな感じで指先、爪、両目、あごなど、難度の高い箇所もパスしていった。それでも1年やそこらでは完成できない。何らかの要因で赤い宝石が脈動せず、一からやり直しすることもたびたびだった。


 フォーティの家は山麓(さんろく)にある。月に1、2度街へ買い出しに下りるのだそうだ。『念力』の魔法で重たい荷物も楽々運べるから、人手はいらなかった。


「魔法のかかった品物を売って生計を立ててるのよ」


 フォーティは自慢げに語る。




 そうして2年が過ぎ去ったある日。


「今度こそ自信作! 間違いないわ」


 フォーティは転移魔法陣から現れたルバマに、はしゃいで人形を見せた。赤ん坊を()したそれは、まさに生きているかのような迫真の出来ばえだ。


 ルバマはやはり人間界の空気が毒だったらしく、体調を崩すことが多くなり、フォーティの家にも1ヶ月に1回来るのがやっととなっていた。それだけに、とうとう完成させたと喜ぶフォーティに少し元気付けられる。


「別にあたしを待たなくても……。さっさと赤い宝石をはめればよかったのに」


 フォーティはにへらと笑った。


「やっぱり二人三脚で来たからさ、運命の瞬間にはぜひルバマちゃんにも立ち会ってもらいたくて」


「それで失敗したら目も当てられないわ」


「今度は確信があるのよ。『完成した!』っていう自信がね」


 フォーティはすっかりルバマと打ち解けていた。人形を机の上に置き、その開いた左胸に赤い宝石を近づける。世界一の魔法使いを自称してはばからないフォーティが、このとき震えていた。


「いくわよ……!」


 ルバマも緊張する。果たして、『生きた人形』は出来上がるのか。固唾を()んで見守った。


 カチリ。


 フォーティが赤い宝石を押し込んだ。何も起きない。また失敗か、と口を開こうとしたときだった。


『ア……ア……イ……』


 フォーティのものでもルバマのものでもない、第三者の幼い声。それは確かに、ふたりの脳内に反響した。


『オ……ウ……ア……ン……』


 で……


「できたっ!!」


 ふたりは手を取り合い、飛び上がって喜んだ。フォーティにとっては2年、ルバマにとっては数百年のときを経て、手に入れた成功だった。




『生きた人形』はふたりの名を取ってルバティと名づけられた。フォーティは初めて「我が子」と呼べる存在ができたことが嬉しくて、ルバティに絶えず話しかけていた。


 ルバマとしてはここからである。ルバティを奪ってどこかひと気のないところへ置き、呼び寄せられた魔法使いを生け(にえ)として、人間化させる。それがそもそもの目的なのだ。


 だが――


「ルバティ、あたいの名前を呼んでみて」


「フォー……ティ……」


 フォーティはだらしなく相好(そうごう)を崩す。そんな幸せそうな様子を見ていると、ルバマはどうしても強奪してやろうとは思えなくなるのだった。


 ともかく体調が悪い。いったん冥界へ引き返そう。話はそれからだ。


 ルバマはそのことをフォーティに告げて、転移魔法陣に入った。いつもの場所――マシタル王国の南の山に出る。


 それが、フォーティと会った最後となった。




「ルバマさま、ルバマさま」


 気がついたとき、ルバマはベッドの上にいた。召し使いのヌリタクとヌリマツが心配そうに横から見つめている。


 気分が悪かった。胸がむかむかする。


「吐きそう。器を持ってきて」


「はい、用意してあります」


 ルバマはそこへ()しゃした。胃のなかが空になる。しかし気持ちは優れなかった。


「ここって冥界の――マシタル王国のあたしの家よね?」


「はい、そのとおりでございます」


「何で――」


 こんなに調子が悪いのか。いつもなら人間界を離れれば、すぐに具合がよくなるのに。今回のこの不調は異常とさえいえた。


 冥界には死の概念がない。風邪を引いたり引っかき傷を作ったりしても、すぐに元通りになる。だがこれは……


「ここまで運んできてくれてありがとう。ちょっとひとりで休むわ。下がってちょうだい」


「ははぁっ!」


 自分は難病にかかってしまったのだ。原因はおそらく、人間界の空気を吸いすぎたため。ルバマはひとりもがき苦しんだ。




 冥界の統一戦争は、そのころ大詰めを迎えていた。世界の果てとも呼ばれるオゲー砂漠で、征服王ガセールは最後の仕上げにかかる。女王パエフとの総力戦は熾烈(しれつ)を極め、ガセールは一時孤立するほどであった。


 だが『マジック・ミサイル・ランチャー』に抗する魔法など存在せず、ガセールは包囲を突破して難を逃れる。最大のチャンスを逃したパエフの軍勢は一気に失速して、ガセールの軍に攻め滅ぼされた。


「冥王万歳! ガセールさま万歳!!」


 20万もの大軍が、指導者を『冥王』と呼ぶ。ガセールはこの日から、それを己の異名とするのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ