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0020ふたつのギルド02(2385字)

「何が『タマキのギルド』だ! 勝手にお前らのものにしてるんじゃねえっ!」


「そうだそうだ! ここはアコさまのギルドだぞ!」


 これに応酬して、タマキ側の冒険者たちが一斉にほえる。


「何を言ってやがる、べらぼうめ! いつからお前らアコ陣営のギルドになったんだよ!」


「ここは俺たちタマキ陣営のギルドだ!」


 ボンボが両耳を手で塞いだ。金切り声もあったため、鼓膜が痛くなったのだろう。コロコが状況を整理した。


「どうやらこの街の冒険者ギルドは、どっちかにつかなきゃいけないみたいね。どうしようか、ボンボ、ラグネ」


 木柵を挟んでいがみ合う両勢力。どっちもうるさくてしょうがない。静めるためには3人の決断が必要そうだ。ボンボとラグネは同時に叫んだ。


「任せる!」


「お任せします!」


「分かったわ。じゃ、こっち」


 コロコは左側――アコのギルドを選んだ。途端にアコ側からは大歓声が、タマキ側からは怒号が渦をなした。


「さすがものの道理が分かった連中だぜ! 選別眼があるってもんだ!」


「馬鹿野郎、後で後悔しても知らねえからな!」


 アコは青色の長髪をかきあげる。タマキへの優越感に満ちた、その黒い瞳だった。


「いらっしゃい3人さん! 歓迎するわ! あたしの、アコのギルドにようこそ!」


 決着がつくと、さすがに熱も引いたか、会館内は静かになっていった。もちろん、満足の声も不満の声も、まだくすぶり続けてはいたが。


 ラグネはコロコに尋ねた。


「何でアコさんのほうを選んだんですか?」


「えーとね、女の人がギルドマスターだったから。とっつきやすいかな、と思って」


 そんな単純な理由だったのか。袖にされたタマキ陣営を、ラグネは可哀想に思った。


 受付で冒険者としての登録を行なう。組合費を納め、サインをすると、早速依頼の紙が張り出された掲示板へ向かった。アコが嬉しそうに言った。


「ゆっくりしていってね」


「はぁい」


 ほかの冒険者たちは3人に好意的で、掲示板の前をあけてくれた。コロコたちは仕事と報酬を吟味(ぎんみ)していく。


 まだナイトの街周辺は地理的によく分からない。ラグネのマジック・ミサイル・ランチャーは今のところ、完全に当てにはできない。以上のことから、魔物討伐系の危険な依頼は控えるべきだろう。かといって、安全だけど低額報酬の仕事ばかり選んでいては、いつまで経っても次へと出発できない……


「選ぶのって難しいね」


 コロコがため息をついていると、高い靴音が近づいてきた。振り返るとアコだ。


「新しい依頼書ができたわ。貼らせてちょうだい」


 3人が下がると、アコは(のり)で羊皮紙を張り出した。彼女が帰っていくと、コロコは早速それを見やる。


「ええと、何々……? 『「森星(しんせい)」という花を30本摘んでくる。報酬は30万カネー。依頼者は匿名希望』。へえ、いいじゃない!」


 20歳ぐらいの青年が近づいてきた。若いのに口髭を生やしている。それを格好いいと自負しているみたいで、何だかおかしかった。


「へっへっへ、聞いたぜ。こいつはいいや。今年もおいしい仕事が手元に転がってきやがった。おいお前ら、俺の名はカレス。一緒にこの仕事をしようぜ」


 ボンボが抗議した。


「依頼書を最初に見たのはおいらたちだけど?」


「じゃあお前ら、『森星』がどこに生えているか知ってるのか? 今は初春なんで、本来なら時期的に早いんだぞ。俺は今咲いているであろう場所を知ってるが、お前らは知らないだろ?」


 返す言葉もなく、ボンボは赤面して引き下がる。ラグネは彼の肩を叩いて慰めた。


 コロコは疑問を(てい)する。


「きみは知ってるの? それなら自分ひとりで行けばいいじゃない。なんで私たちと一緒に仕事したいの?」


「そこは魔物たちがよく出没するところでもあるんだ。去年は俺のパーティーメンバーが殺されちまった。要するに、お前らを俺のボディガードにしたいってわけさ」


 なるほど。ラグネは得心がいった。長剣を吊るしているから、どうやら職業は戦士みたいだが、腕のほうはさっぱりなのだろう。魔物の襲撃を恐れて、とてもじゃないがひとりでは摘みにいけないわけだ。


 カレスが人差し指を立てた。白い歯が輝く。


「10万! 10万カネーくれたら、後の20万はいらん。お前らで山分けしな。どうだ、お互いにとっていい条件だと思うがね」


 コロコはボンボとラグネに振り返った。ボンボがうなずく。ラグネも一拍遅れて首肯した。カレスの言葉に嘘はないと、何となしに信じられたのだ。


 これで話はまとまった。


「いいよ。じゃあカレス、その条件で一緒に依頼をこなそう」


「よし、あんたいい冒険者だぜ」


 カレスは上機嫌で黒いぼさぼさ髪をかき回した。




 ナイトの街に到着したばかりだというのに、コロコたちは外へ通じる門を出た。最初こそ畑や、それを耕す農家の小屋が見えていたが、やがてそれらも見えなくなる。


 木々が増え、辺りはうっそうたる森へと変わった。曇天もあり、そこは夜のような暗さだ。カラスの鳴き声や川のせせらぎが耳に触れる。ラグネは心細かった。


「それにしてもカレス、きみはアコさんとタマキさんが仲違いした理由を知ってるの?」


 コロコがカレスに尋ねる。もちろん、との返事が返ってきた。


「6年前のことだ。ナイトの街のギルドマスターであるアコさんのもとへ、新人のギルドマスター、タマキが配属された。最初は単なる師弟関係で、アコさんはタマキが早く一人前になるよう、熱を入れて指導していた。それから1年後だっけかな。ある日俺はアコさんに、昼食の際、こんなことをこっそり相談されたんだ。『あたし、タマキくんのことが好きになっちゃったみたい』――ってな」


 コロコががぜん食いつく。


「わっ、そうなのそうなの? それでふたりはどうなったの?」


 カレスは苦笑したが、もったいぶりはしなかった。


「最初はタマキが弟のように可愛くなって、それが発展して恋人に対するような愛情を抱くようになったらしい。でも俺はタマキに女がいることを知っていた」

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