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0197ルバマ06(2154字)

「バーサよ、聞きたいことは山ほどある」


「はいはい、何でもお答えいたしますよ」


「まずお前はルバマに『生きた人形』5体を見せたな。人間のようにしゃべれると称して。あれは本当だったのか?」


 バーサは不当な質問をされたとばかり、大げさに嘆き悲しんだ。


「本当でございますとも。ただ、声を聞けるのは私だけのようで、周りの人々はまったく聞こえないと、ルバマさまのようにおっしゃっていました」


 ガセールには不可解だ。


「するとお前は、余やルバマなら声を聞くことができると期待して持ち込んできたのか?」


「はい、そうです。高貴なお方々なら、きっと彼らの話を耳にできると思っておりました」


 ルバマが割り込んだ。


「ではあたしが『何も聞こえない』と断じたときは大いに不満だったでしょうね」


 本来ならガセール王が話している最中にさえぎるなど言語道断の不敬である。だがガセールはそれを認めていた。


「はい。正直、私の人形たちが一片の価値もないものだと決め付けられたようで、怒り心頭に発してしまいました。そこで馬車で帰りがけ、城のすぐそばの荒野に人形5体をまとめて捨てたのです。それがさっきルバマさまがおっしゃった、あの城外の場所となります」


 人形は捨てられた。だがなぜその人形のもとへ、魔法使いたち5人は向かったのか。そして、なぜ白骨死体となったのか。死の概念が存在するという、これまでの常識を(くつがえ)す事態でもある。


 そのことを尋ねると、バーサは「私論ながら……」と前置きした上で、


「人形5体は常に私とともにありました。私と一緒に笑い、嘆き、怒り、悲しみ、それは楽しい日々でした。水汲みなどの短い用事以外は、どこへ行くにも常に5体を肌身離さず持ち歩いていました。その5体を、永遠に手放そうと決心したのが今日であり、荒野への放置でした」


「つまり誰もいないところに置かれた人形たちが、人恋しくて魔法使いたち5人を呼び寄せたというのか?」


 ガセールにぎろりとにらまれ、バーサはおどおどした。


「は、はい。おそらくそのようになるかと思われます。信じがたいことですが……」


「分からんでもない」


 意外な共感に、むしろ言われた人形遣いが困惑する。


 ガセールは、ザオターを名乗っていたころ、我が子供ガセールを東の山の頂上に置きっぱなしにしたことがあった。占い師ジルワード――思い出しただけでもはらわたが煮えくり返るが――に、そうするように言われたからだ。結局落雷によって、わが子の死体は炭と化した。


 あのとき我が子は、余を、父を恋しがっていただろうに――


「では次だ。なぜ魔法使いたち5名は白骨死体となり、『生きた人形』たち5体は全員が人間と化したのだ?」


 バーサは両手を組み、親指を上下させる。せかせかと、見ているものを苛立(いらだ)たせるしぐさだった。


「これはもう、『生きた人形』が魔法使いたちの命と魔力を吸い取り、おのれの血肉へと変換させたのでしょう。それ以外に考えられません。まさか、この冥界で人間の『死体』を目撃することになろうとは、思いも寄りませんでした」


 ガセールは肘掛けをこつこつ叩くと、バーサに命じる。


「『生きた人形』は5体だったな。では、その5体の名前を順に挙げよ」


 バーサは嬉々として(そら)んじた。


「侍ジャイア、巨漢ケロット、坊やリューテ、派手子ツーン、学者トゥーホ」


 5名の元『生きた人形』たちは腕を組んだり、頭をかいたり、肩をすくめたりとそれぞれだ。


 ガセールはうなずいた。


「最後の質問だ。バーサよ、なぜジャイアとケロット、リューテ、トゥーホの4人は、左胸から赤光を放ち、空中に巨大転移魔法陣を作り上げることができたのか? 答えよ」


 バーサは真剣に悩んだ。目の前の壇上に征服王が座っていることも忘れたかのように。やがて言った。


「魔法陣については分かりません。赤光については覚えがあります」


「言ってみろ」


「『生きた人形』は、通常の人形の左胸に、『核』となる赤い宝石を仕込む必要があるのです。それが脈動することで、意識を持ち、私と会話できるようになるわけで……。赤光はその宝石から放たれたものでしょう。これは間違いないと断言できます」


 リューテたち5人は、おのおの自分の左胸を撫でる。心臓ではなく、赤い宝石がこの胸にあるのか。そう言いたげだった。


 ガセールは尋問を締めくくる。


「バーサよ、赤い宝石はあとどれくらいある?」


「5個ほどございます」


「ではそれで『生きた人形』を作れ。ルバマは手を貸し、余が人間界に移動できる仕組みをこしらえよ。何年かかっても構わん」


「御意!」


 元『生きた人形』たちにはこう命じた。


「お前らは今宵(こよい)より余の側近に加える。必要なものがあれば余が用立てさせるので遠慮なく申しつけよ」


 リューテはげっそりしている。


「拒否権はなさそうだな……やれやれ」


 かくして長い夜は終わった。




 半年ほどかけて、バーサは赤い宝石を核とする『生きた人形』の作り方を書類にまとめた。そして実演してみせる。


 だが、今度はいくらやっても『生きた人形』を生み出すまでに(いた)らなかった。


「なぜだ!?」


 バーサは作業机を拳で叩いた。


「ちゃんと手順どおりにやってるのに……。以前と何が違うというのだろう?」


 ルバマも下手ながら人形を作成し、左胸に赤い宝石を埋め込む。だがバーサがかつて見た『脈動』は、どれだけ経っても始まらない。

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