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0195ルバマ04(2109字)

 ガセールは玉座にもたれ、鷹揚(おうよう)に手を振った。


「何、ルバマの功績は甚大(じんだい)だ。謝るに足らぬ。……ただ、今後も引き続き研究せよ、よいな」


「ははぁっ!」


 ガセールはテッソリから酒の杯を受け取ると、その中身を干した。


「さて、余からも話があるぞルバマ」


「は……?」


「余はテレット王国本土を攻めることにした」


 謁見室がどよめいた。テレットはルバマの砦の庇護(ひご)を行なってきた、恩義ある国だ。マシタル兵が夜襲を仕掛けてきたとき、ガセールはテレット国王夫妻をマジック・ミサイル・ランチャーで守っている。


 その国を、恩知らずにも征服しようというのだ。


「余が留守の間、オラキズがこの城を守れ。そのための魔物たちであり、兵士たちであるのだからな。何、余には翼がある。身の回りの世話をするもの、就寝中に余を護衛するもの、それだけが翼竜に乗ってついてくればいい。よいな」


「ははぁっ!」


 謁見室はまだざわめきが収まらない。ガセールが冥界に現れてから、ちょうど100年が過ぎていた。




 テレット国攻略戦は、マシタル王国を落としたときとほぼ変わりなく、ただサイズの違いが目に付いただけだ。


 ガセールは『マジック・ミサイル・ランチャー』で各要地を陥落させていく。逆らうものはすべて黒い矢が消滅させた。もちろん死というものがない冥界である。すぐに彼らは裸で復活したが、もうガセールへ対抗する意志は消え失せていた。


 テレット国王夫妻などの指導者格は、沈没途中の船のねずみのように逃げ回る。その後は別の場所で反抗の挙兵を試みたり、そのまま他国へ亡命したりとさまざまだった。もちろんガセールの横暴に立ち向かったものは、それが2度目であろうが3度目であろうが、容赦なく叩き伏せられた。


 70年に及ぶ戦いで、とうとう広大なテレット王国は隅々までガセールの手中に転がり込む。ここにガセールは『征服王』の異名を得るにいたった。


 もちろんガセールは満足してはいない。彼の足元にひざまずかせるべき大陸、国々、島々は、まだまだ指呼(しこ)の向こうに広く存在するのだった。




 ガセールはテレット王国の運営を知将ムネードに任せた。久しぶりにルバマたち(めかけ)の待つマシタル国へと戻る。女を欲したからだが、マシタル国が順調に領土を伸ばしているかどうか、確認するためというのが本来の目的だった。


「お久しぶりです、ガセールさま」


 そこには以前と変わらない顔が、記憶のままに並んでいた。国王オラキズ、大臣フイア、召し使いヌリタクとヌリマツ、そのほか近衛兵士たち。冥界であるゆえ、それぞれはその上限年齢以降、年を取らないのだ。


 そして、ルバマ。目にうっすら涙をたたえ、胸に拳を当てている。ガセールは正妻ラネッカを忘れたことは一度たりとてないが、このときは単純にルバマを美しいと思った。




 闇のなかに獣脂ロウソクの光が浮かんでいる。充足した行為の後で、ガセールは寝物語に聞いた。


「何? 『生きた人形』だと?」


「はい。人形遣いのバーサという男が、『面白いものができたのでぜひ見ていただきたい。できれば買っていただきたい』と請願してきたのです。彼が言う『生きた人形』たち5体は、何でも人間のようにしゃべれるらしいのです」


「興味深いな。それで、どうなった?」


「それが……」


 ルバマはくすりと笑う。


「人形は確かに精緻(せいち)な作りでしたが、その声というものは、あたしにもほかの方々にもまったく聞こえませんでした」


 ガセールは失笑した。


「何だそれは。バーサという男は狂っていたのか?」


「さあ……。あたしは彼に往復の旅費だけを渡して部屋から追い出しました。バーサがそれ以後どうしたかは不明です」


「奇妙なものもいるものだな」


 そのとき、寝室の扉を叩くものがある。


「ガセールさま!」


「どうしたテッソリ」


 テッソリの常ならぬ緊迫した声に、ガセールはすぐに頭の切り替えを行なった。テッソリが叫ぶように言う。


「5名の魔法使いが一度に姿を消しました! チョス、カト、ジコー、カブギ、ケラムが、城内のどこを捜しても見当たりません!」


 ルバマが口を押さえた。


「みな、あたしの子飼いの強力な魔法使いたちですわ」


 ガセールは起き上がった。


「よし、すぐ行く」




 後宮から戻ったガセールとルバマは、近衛隊長ピキュに改めて現状を尋ねた。


「チョス殿たちは夕方頃から見かけなくなりました。城門を閉める前ですから、あるいは城外に出てしまったのかもしれません」


「消え失せる前、何か言ってはいなかったか?」


「いえ、何も。最後に城内で見かけたものの話では、まるで幽霊が彷徨(さまよ)うように歩いていたと……」


 それが5人とも、か。そんな馬鹿な話があるだろうか。敵方の工作にしては意図が不鮮明だ。狙うならほかに重要な人物がいくらもいただろうに。


「余はルバマとともに空を飛んで城外を探す。お前らは城内を頼む」


 ピキュは大樹のような体をぴしりと伸ばした。


「かしこまりました!」


 ガセールはルバマを抱える。銀の翼を広げて、夜の闇に沈む城外へと飛び出した。


 その直後だ。


「何っ!?」


 驚いたことに、ガセールたちの目前で、巨大な魔法陣が展開したのだ。ルバマも息を()む。


「これは……転移魔法陣!? こんな大きく安定した、完成度の高いもの――初めて見ます……!」

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