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0192ルバマ01(2067字)

(31)ルバマ




 ガセールがマシタル国との戦争に要した時間は、戦場への行軍にかかった日数を除けば、わずか2日だった。


 ガセールに必要だったのは、睡眠時の護衛と、身の回りの世話役だ。それは砦のものたち4名と、ルバマ、テッソリで事足りた。


 いざ戦陣にのぞめば連戦連勝だ。漆黒の『マジック・ミサイル・ランチャー』はあらゆる敵を(ほふ)り、飛んでくる弓矢も、騎馬の突進力を生かして襲ってくる槍も、あっという間に灰燼(かいじん)にせしめた。


 もちろん冥界に死の概念はない。殺した相手はまたたく間に再生する。だが武器も鎧も服さえもなく、ただ生き返っただけの全裸の兵士が、ガセールの『マジック・ミサイル』に再度挑戦しようなどと思うわけもなかった。彼らは次々に寛恕(かんじょ)()う。


 マシタル国王オトナパや側近たちは西へ逃亡し、ガセールはあっという間にその領土をぶんどった。




「奇妙な異形(いぎょう)がいたな。あれは何だったんだ?」


 翌日、マシタルの玉座に座るガセールが、ルバマに問いかけた。異形とは、マシタル国王の部下たちが使役していた生物のことだ。半魚人、ひとつ目の巨人、犬の頭を持つものなど――


「さっそく調べます」


 ルバマは捕虜を拷問にかけて、吐き尽くすまで吐き出させた。


 その結果、どうやらこの冥界には、魔法というものが存在するらしいことを突き止めた。呪文を唱え、魔法の行使を宣言する。すると、いかずちや火炎、風刃や水流などを呼び寄せられるというのだ。


 ガセールは人間界にも似たような話があったな、と思い出した。ルバマに魔法と異形の関係性を問いただす。


「もし使えるものなら、その異形とやらを使いたい。こちらの戦力としてな。早急(さっきゅう)に頼む」


「御意!」


 この段階で、すでにルバマはガセールの最側近として全幅(ぜんぷく)の信頼を置かれていた。ルバマは退室し、部下たちにマシタル王国王城の古文書類を調査するよう指示する。そしてみずからもその先頭に立って、秘術の解明に躍起になった。




 半月後、ルバマの報告が()がってくる。


「どうやら魔法には『結実(けつじつ)の魔法』というものがございまして、それを使用すれば異形を生み出すことができるようです。好みの異形――『魔物』を作り出すことも可能らしいです」


 ガセールは灰色の瞳を光らせた。喜んだのだ。


「ではそれを量産して手なずけておけば、余らの兵力を増強できるわけだな。さっそく……」


 そこへ鐘が打たれる轟音が聞こえてきた。


「敵襲か」


 ガセールはつまらなそうに立ち上がる。しなやかで隙のない動作だった。


「余が迎え撃つ。ルバマ、研究を続けよ。ここは任せたぞオラキズ」


 オラキズは文武両道の達人だが、残念ながら背が低い。彼はこうべを垂れた。


「御意!」


 北西の国からやってきた3万人は、ガセールに正門の塔から『マジック・ミサイル』の洪水を叩き込まれ、いっぽう的に滅ぼされる。死の概念がないためすぐに復活したが、もはや戦闘する意志も能力も喪失(そうしつ)していた。


「余はガセール王だ。余に仕えよ。悪いようにはせん」


 ガセールが大声で発する。その言葉にありがたみを感じたか、3万人のうち1万人はマシタル国の兵力と化した。残りの2万人は裸で逃走していく。彼らは母国に帰り、ガセールの『マジック・ミサイル・ランチャー』の脅威を喧伝(けんでん)してくれるはずだった。


 ガセールはこうして武力と環境を整えていく。何も(あせ)ることはなかった。住民が老いることも朽ちることもない冥界だ。時間はたっぷりかけてよかった。


 もちろん、ガセールの上限年齢が100だったりすれば、その余裕は一気に吹き飛ぶ。だが側近のルバマは9000年以上生きてきた。彼女は転移したときの20歳という年齢が、そのまま上限年齢となっていたのだ。


 ならば、ガセールも転移時の23歳を上限に、このまま年を取らずに生きていくのだろう。




 ルバマは着々と成果を出していった。魔物の製造が軌道に乗ったのだ。『結実』の魔法でいろいろな怪物たち――巨人(オーガ)小鬼(ゴブリン)(オーク)犬頭人(コボルド)トカゲ人(リザードマン)生きる骸骨(スケルトン)、などなど――を従えるようになる。


 ガセールはこれだけのコレクションでも満足しなかった。謁見の間でルバマに注文をつける。


「どうやら魔物たちには『死の概念』があるようだな。そうでない魔物も欲しい」


「かしこまりました。研究してみます」


「それから空を飛べる翼竜タイプの魔物が欲しい。これからは広く大陸を股にかけることになるからな」


「御意」


 ふとガセールは言った。


「余も空を飛べたらいいのだがな。鳥のような翼があれば、どこへだって行けるのに……」


 その瞬間だった。ガセールの背後に黒い球体――マジック・ミサイル・ランチャーが現れる。


 ぎょっとしたのはルバマたちだった。まさか、ガセールは誰かに黒い矢を放つ気でいるのか。近衛隊長オラキズが凍りついた表情で、忠誠の対象たる男を見上げた。


「ど、どうなされたのですか、ガセールさま。何か我々にご不満でも……」


「何? 『どうした』はこちらの台詞だ、オラキズ。みなのもの、なぜ余を凝視する?」


 ガセールは、自分が漆黒の球を背後に出現させたことに気がついていないらしい。ルバマがそのことを教えようとしたときだった。

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