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0019ふたつのギルド01(2346字)

(5)ふたつのギルド




 9時課の鐘が鳴るなか、3人は冒険者ギルドへおもむいた。旅の目的地がアンドの街と決まり、そこまでの旅程をどうするべきか、ギルドマスターたちの意見を参考に考えるためだ。隅の机で地図を広げて、ああでもない、こうでもない、と活発な議論を続けた。


 不意に視線を感じて、ラグネはギルドマスターのテーブルを見た。スールドがこちらを微笑(ほほえ)ましく見つめている。そう、それはまるで父親が自慢の子供を眺めるような、暖かなまなざしだった。しかしラグネと目が合うと、彼は自然さを(よそお)った不自然さで、自分の仕事に戻る。


 ラグネは首をひねらざるを得なかった。スールドさんは何が面白くて僕を観察するんだろう?




 行程が煮詰まると、冒険者ギルドに通行手形と身分証明書を発行してもらった。その後馬の手配も行なうと、ちょうど日が暮れる。3人はギルドと契約している宿屋に泊まり、ぐっすり眠った。




「じゃあ行ってきます」


 早朝、ギルドマスターのグーンとスールドに別れのあいさつをする。本当にお世話になった。ラグネは心から感謝し、深々と頭を下げた。


「3人とも、元気でな。また戻ってこいよ。依頼ならいくらでも用意して待ってるからな」


 グーンが親指を立ててそう口にする。コロコが苦笑した。


「うん、きっとまた帰ってくるよ。じゃあふたりとも、達者で」


 スールドが鼻をすすり上げる。この朴訥(ぼくとつ)とした人も、泣いたりするんだな。ラグネは彼に手を差し出した。


「ありがとうございました、スールドさん」


 スールドが握り返す。温かく、ごつい手の感触だった。


「ああ、元気でやれよ、ラグネ。コロコ、ボンボも。3人に幸運があらんことを」


 ボンボがバックパックをかつぎ直す。その目はこれからの冒険に輝いていた。


「別れのあいさつも、長すぎるとかえって辛くなるぜ。もう行こう、コロコ、ラグネ。それじゃふたりとも、体に気をつけて。さようなら」


「ああ、さようなら」


 こうしてラグネたちはギルドを離れ、長居したルモアの街を旅立った。




 3人がまず目指すのは『ナイトの街』だ。馬を買うのに散財してしまったので、今は財布も軽い。そこで近場の街へ渡り、それぞれの冒険者ギルドで依頼をこなして、お金が入ったらまたそれを元手に次の街へ向かう。その繰り返しの予定だった。


 そしてその最終目標が、ラグネの記憶に残る『アンドの街』というわけだ。


「ラグネ。その旅路の間に、マジック・ミサイル・ランチャーの特訓をしてね。光球は自在に出せるようになったけど、それがより確実なものになるように、ね」


 コロコは散々走らせた馬を休ませながら、そう要求した。今日は川のそばで野宿となっている。空は黒いじゅうたんに宝石細工をぶちまけたような、見事なものだった。ラグネは焚き火にかけた川魚を見つめながら、背中に光球を出してみる。


 とたんに焚き火の明かりが問題とならないほどの白光が、辺りを照らし出した。うん、もう出したり引っ込めたりするのは簡単だ。


 ボンボが改めて感動している。


「何で背中に出て、胸の側には出ないんだろ。それも不思議だな。ただ、何だか心がなごむ輝きだぜ」


 コロコが魚を食べながらとんでもないことを述べた。


「じゃあラグネ、その光球をひと晩ずっと発し続けて」


「ええっ!? ひと晩も?」


 さすがに冗談だろうと思ったが、コロコの目は真剣だ。こ、怖い。


「まあひと晩は嘘だけど、それぐらいの気合いを入れて頑張らないと。そうじゃないと完全には身につかないと思うよ? じゃ、私とボンボは睡眠を取るから、そうね、見張りもかねて最低でも一刻ほど頑張ってね。よろしくー」


 鬼教官だ……。ラグネは半泣きになりながら、先行き不安で押し潰れそうだった。




 3日の旅程でナイトの街が見えてきた。ラグネは肉体的にはともかく、精神的にはだいぶ疲弊していた。夜の見張りは交代制だったが、特訓していたせいか、ラグネは2夜ともあまり寝付けなかったのだ。


 光球を、マジック・ミサイル・ランチャーを完全に習得するためには、まだまだ修練が必要ということらしい。


「結構大きいな」


 ナイトの街はルモアほどではないが、それなりの幅を持ち、囲壁も高かった。ボンボが感嘆するのも分かろうというものだ。


 コロコたちは冒険者ギルドで受け取った各種証明を提示し、その門を通過する。ここまで運んでくれた2頭の馬を()き、組合の厩舎へ渡すと、その足でナイトの街の冒険者ギルドを訪問した。


「こんにちはー」


 コロコが扉を開けながらあいさつした。とりあえずお金が()る。ギルドで依頼を受けて、路銀を稼がなければ。場合によっては多少危険な仕事でもこなさないと。ラグネがそう思いつつ、2人の後に続くと……


「え?」


 それは異様な光景だった。ギルド会館の扉の向こうには、左と右のちょうど中間をなぞるように、低い木柵が伸びていたのだ。


「いらっしゃい!」


「いらっしゃい!」


 左右から同時に、男と女、別々の声がかけられる。半拍おいて、屋内にいた冒険者たちが追随(ついずい)した。


「いらっしゃい!」


「いらっしゃい!」


 これも左右からだ。コロコが立ちすくんだ。


「何これ!?」


 内部は木柵を境に、左と右でそれぞれ独立しているようだった。ギルドマスターの受付も、依頼の掲示板も、トイレも、すべて揃っている――どちらにも。


「あんたら、こっちに――あたし、アコのもとに来なさいよ」


 左のギルドマスターの女が手招きした。31、2歳か。教鞭を取ってないのがおかしいほどの理知的な瞳だ。制服に包まれた肢体はグラマラスだった。


「お前ら、こっちに来るよな? この俺、タマキのギルドに……」


 右のギルドマスターの男が確認してくる。こちらは27、8歳ぐらいか。中肉中背で制服を着こなし、紳士的な面立ちだった。


 タマキの発言に、アコの側の冒険者たちが反発する。大声でわめき散らした。

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