0180激突06(1945字)
いっぽう、『神の聖騎士』傀儡子ニンテンはとにかく民衆を殺されてはたまらないと、空中に逃れていた。冥界の巨漢ケロットも羽ばたいて追ってくる。
「逃げるなよ、じいさん! わしともっと遊ぼうじゃないか!」
「誰がおぬしのようなおっさんと遊びたいものか! 離れんかい!」
そのとき、ケロットの周囲がいきなり輝いた。彼はこの現象が何かすぐに分かる。
「魔法は効かぬといっているだろう、女!」
そう、ケゲンシーが雷撃の魔法をケロットに撃ち込んだのだ。それはすぐに『魔法防御』の魔法で防がれた。せつなの光輝はそれによって起きたものだ。
だがケゲンシーはせせら笑う。
「一瞬でも注意を逸らせればよかったのよ」
「何……?」
ケロットはすぐにその意味に気づいた。真上でニンテンが腕を振り抜こうとしている!
「し、しまっ……」
「食らえぃ!」
『削る腕』がケロットに無音で襲いかかった。だがケロットは超人的な反応速度を持ち合わせてもいる。
「何のぉっ!」
ケロットはとっさにハンマーで自分をかばった。衝撃と轟音が大気を震わせる。
次の瞬間には、左の肘から下を失ったケロットの姿があった。そこだけはかばい切れなかったのだ。顔面を紅潮させ、憤激と苦痛をあらわにしている。
「よくもやりやがったなぁ!」
彼は憤怒の形相でケゲンシーに飛びかかり、その腹へ蹴りを叩き込んだ。
「きゃあっ!」
ケゲンシーは吹っ飛び、天守閣の壁に叩きつけられる。頭を打ったか、彼女は翼を広げたまま意識を失ってずり落ちた。ケロットはケゲンシーをハンマーの上に寝かせる。
「どうだじいさん、これでもその腕を振り抜けるか?」
激痛をこらえ、あえて余裕たっぷりにニンテンを挑発しようとした。だがすでに彼は移動しており、その場にはいない。
「どうだコロコ、俺たちに味方として加わらないか? 俺が必ず守ってやるからさ」
冥界の若者リューテは、いまだにこの程度の認識でコロコを引き入れようとしていた。コロコは彼が邪魔で、冥王に光弾を放てない。
「どいてよ!」
「そうはいくもんか」
しかし、そのときだった。
「がはっ!」
リューテの両太ももから下が、一瞬にしてかき消える。コロコはいきなりのことに仰天した。青い血煙を立てながら、顔をゆがめて落下していくリューテ。その背後からニンテンの姿が現れた。
「大丈夫か、コロコくん」
ニンテンが『削る腕』で、リューテの両足を水平方向から削除したのだ。
「リューテ!」
コロコは武闘家らしい敏捷さで、民家の屋根から滑り降り、地面に伏したリューテを追いかけた。
「お、おいコロコくん!?」
そのときニンテンの右肩に、こらえることができないほどの激痛が走る。
「うおおっ!」
見れば冥界の学者トゥーホが、左手の指槍で、ニンテンの右肩を貫いたのだ。血潮が瞬間宙に半円を描くほど噴出する。
「これで『削る腕』は使えなくなったでしょう! さあ、今度は命を絶って差し上げます!」
ニンテンは羽にも穴を開けられ、飛行に困難を生じながら、何とか逃げ出そうとした。しかしトゥーホの指がかぎ爪状に引っかかっており、離れてくれない。
「これならどうだっ!」
ニンテンは道場の屋根に着地すると、トゥーホの指を外すべく、左腕を背後目がけて振ってみた。こっちの腕でも『削減』を放てるのだが、右腕ほどの力強さはなく、今まで試し以外での使用をやめていたのだ。
何とか、この指を削り取れないか――そんな願望混じりでの行動だった。
「何っ!?」
トゥーホが苦痛に満ちた声を発する。どうやら彼の人差し指を断ち切れたらしい。ニンテンは右肩から残りの人差し指を引っこ抜くと、続けてきた指槍を舞い上がってかわす。
「リューテ、しっかりして!」
その頃、コロコはひどい出血のリューテを前に、大いにうろたえていた。影から顔を出しているタリアに呼びかける。
「私を拘束してた鞭、まだ持ってる?」
「あるよ」
コロコはタリアからツーンの鞭を手渡された。コロコはそれでリューテの患部を止血する。何せ両太ももを失ったのだ。出血も尋常ではなかった。
タリアがその様子を見ながらぼやく。
「何で敵を治療するのさ。放っておけば失血で死んじゃうのに。それともコロコ、そいつが好きなの?」
「違うよ」
返り血で両手を真っ青にしながら、コロコは止血を終えた。
「ただ、私を好きだといってくれたこの子を、何となく見殺しにはしたくなかっただけ。本当、ただそれだけ」
そのときだった。
「……嬉しいよ、コロコ」
「ぐっ!?」
コロコの右の腹に信じられないほどの激痛が走る。あまりの痛みに呼吸すら忘れるほどだった。タリアが悲痛に叫ぶ。
「コロコ!」
そう、リューテが短剣を発生させ、それでコロコの右脇腹を突き刺したのだ。たちまち真っ赤な血が噴き出し、コロコは苦痛で横倒しになる。
そのコロコを、狂気の瞳で眺めるリューテ。




