0179激突05(1964字)
一か八か接近し、結界内から魔法を叩きつける方法はある。あるが、それは自分が斬られることを意味しているも同然だった。
「しつこい男は嫌われるのよ。知らないのかしら」
「嫌よ嫌よも好きのうちでござる」
最低ね。ケゲンシーは怒りを込めて、第一城壁と第二城壁の間で空中戦――防戦いっぽうだが――を展開する。
「はははは! 逃げるだけか、女っ!」
ケゲンシーはさっきからの飛翔で、あるポイントを探していた。そして、ついにそれを見つける。ジャイアをあおった。
「私のスピードについて来れるかしら?」
青い肌の侍は下卑た笑いを浮かべる。急に羽を高速で羽ばたかせた。
「上等!」
逃げるケゲンシー、追うジャイア。やがて塔を持つ建物に近づいた。
そのとき、ケゲンシーが魔法を唱える。
「『風刃』の魔法!」
それはジャイアに向けたものではなかった。建物の塔へと繰り出したのだ。塔が斜めに斬られてずり落ちる。それはケゲンシーに触れるか触れないかのぎりぎりのラインで崩落した。だがジャイアにはドンピシャだ。
「うわあああっ!」
塔がジャイアをとらえ、押し潰すように倒れた。轟音が走り、地面が揺れる。粉塵が舞い上がるなか、ケゲンシーは様子を見守った。倒したかしら……?
「何のこれしき……!」
瓦礫のなかからジャイアが顔を出す。ケゲンシーは相手のバイタリティにあっけに取られた。侍は体中血まみれになりながらも哄笑する。
「はははっ、なるほどそういうことか。拙者に魔法は効かなくとも、魔法で倒壊させた建築物なら効くだろう、ということか。これは一本取られたでござる!」
ケゲンシーは薄気味悪さを感じて逃げ出した。ジャイアがその後を追いかける。ふたりはまた第二城壁、ラグネとガセールの緊迫した攻防が続く場所へと戻ってきた。ジャイアが刀を振りかざす。
「今度は逃さぬぞっ! くたばるがいい!」
ケゲンシーに、それは迫った。
だが――
次の瞬間、光球がちょうどジャイアの元へ狙いすまして飛んできたのだ。
「何だとっ!?」
ジャイアは急停止する。しかし振り下ろそうとしていた太刀はそうはいかなかった。光球がジャイアの愛刀を通過する。その直後には、刀身をごっそりと奪い取られた間抜けな凶器が残されていた。
「ああっ! 拙者の刀が……! 刀が……!!」
侍は眼下を眺める。そこには、右拳をこちらへ向けるコロコの姿があった。その顔は舌打ち寸前のものだ。
「コロコ! 貴様、よくも拙者の分身を……!」
「外しちゃった……。やっぱり久しぶりだからかな」
タリアが彼女の影から半身を出していた。面白そうにコロコを見上げる。
「ホントに硬い鞭だったなぁ。切るのに時間かかっちゃった。……ねえ、その光弾をガセールに撃ってみようよ。もしかしたら彼氏を助けられるかもしれないよ」」
コロコは第二城壁を見上げた。ラグネとガセールの撃ち合いは依然均衡状態にある。確かにタリアの言うとおり、今の無防備なガセールに光弾を叩きつければ、あっさり勝利が手に入るかもしれない。
「彼氏かどうかはまだだけど……やってみる価値はありそうね」
コロコはガセールに右の鉄拳を伸ばした。
だが、そのときだ。
「そうはさせないよ」
冥界の若者リューテがコロコの眼前に降りてきて、銀翼を羽ばたかせながら両手を広げた。ガセールをかばったのだ。
コロコは怒号した。
「どいて! どかないならきみも撃つよ!」
「撃てるものなら撃ってみろ! 俺は引かないぞ!」
リューテには勝手に言い寄られただけだ。そしてその口説を退ければ、彼は「面倒くさくなっちゃったな。殺してしまおうか」と平然と言い放ち、それを実行しようとさえしたのである。こんな身勝手な男は初めてだった。
だが今、その男を撃てないでいる。
ラグネとガセールの拮抗は、突如破れた。ガセールの黒い矢が1本だけ上回り、ラグネの右腕を消滅させたのだ。
「…………!!」
ラグネは激痛に顔を歪めながら、それでも悲鳴ひとつ上げず、光の矢の射出に全神経を集中させる。傷口からは大量の血が噴き出して、足元へボタボタと垂れた。
ガセールは信じられない、といった表情だ。
「貴様、まだ余の黒い矢に対抗しようというのか。その深手で……」
ラグネは歯軋りしつつ、マジック・ミサイルの飛ばし合いをやめようとはしなかった。その根性に冥王は会心の笑みを浮かべる。
「素晴らしいぞ。お前のような奴が人間のなかにいるとはな。まるでラアラの街の女剣士のようだ……」
「ありゃやばいぞ」
悪魔騎士デモントがラグネの出血を見て動揺した。早く彼に加勢しないと、と考えて、ガセールの無防備な背後に回ろうとする。
「そうはさせないよ!」
冥界の派手女のツーンが鞭を振るい、デモントの肩を打ちつけた。
「ぐおぅっ!」
冥界の学者トゥーホの指槍で傷つけられた箇所を、まるで塩を揉み込むように攻めてくる。これにはデモントもほとほと参った。




