0178激突04(1895字)
「このガキ!」
冥界の少年リューテが、手の平から短剣を連射した。標的はツーンからコロコを奪い去った悪魔騎士・タリアだ。しかしタリアはコロコとともにいち早く建物の影に沈んで回避した。短剣の力強さや鋭さも、建物にむなしく穴を開けるだけに終わる。
リューテは仕留められなかった怒りで頭髪をかきむしった。
「くそ、ちょこまかちょこまかと……!」
『神の聖騎士』傀儡子ニンテンが、ラグネと交戦中のガセールを『削る腕』で殺害しようとした。もし気づかれて黒い矢でこの体を撃ち抜かれたとしても、その分ラグネが有利になる。いわば捨て身のアシストだった。
「おーほっほっ、そうはさせないわ!」
腕を振りかぶったところで、意図を悟った冥界の派手女・ツーンが鞭を叩きつけてきた。
「ぐあっ!?」
ニンテンは激痛で思わずうめく。鞭はニンテンを絡め取り、まるで蜘蛛の糸のように縛り上げた。
「冥王さまに逆らう『神の聖騎士』など無用! このまま殺してあげるわ!」
ニンテンの五体に鞭が食い込んでくる。絞り上げられ、骨格が歪むどころか破壊さえされようとしていた。
そこへ悪魔騎士デモントが割って入る。
「助太刀するぜ、じいさん!」
デモントの三叉戟が、ツーンとニンテンをつなぐ鞭をたたっ斬った。ニンテンはすっかり雑巾のようにされていたが、鞭が緩むことでどうにか命を保った。ふらふらと着地する。
「すまん、デモント」
そのデモントに五指を凶器のように伸ばしたのは、冥界の学者でありサングラスのトゥーホだった。
「食らいなさい、私の指槍を!」
デモントは三叉戟で受け止めようとする。だが中央寄りの3本はともかく、親指と小指には先端が足りなかった。うまくかい潜ったそれら2本は、デモントの左右の肩に突き刺さる。赤い血が噴き出した。
「ぐあぁ……っ!」
「そこまでよ!」
飛び込んできたのは悪魔騎士ケゲンシーだ。右手の呪文書を左手でなぞり、無詠唱で魔法を放った。
「『火炎』の魔法!」
トゥーホはサングラスの右側、すなわちガラスがないほうの目を丸くする。しかしケゲンシーが放射してきた炎は、『魔法防御』の魔法による結界によって遮断された。熱気すらも抑え込む。
トゥーホは安堵し、高笑いした。
「馬鹿ですね、ぜんぜん効きませんよ、攻撃魔法なんて!」
だがこれによって彼の注意がデモントからそれたことは確かだ。デモントはもう一本三叉戟を発生させると、その鋭鋒を思い切り延伸した。
「し、しまった!」
デモントの攻撃に気がついたトゥーホは、慌てて右手の五指を伸ばして受け止めようとする。だがちょうど手の平を差し向けたところで、三叉戟はトゥーホの右手を貫通した。
「ぎゃああっ!」
青い鮮血がしぶきを上げる。そのままデモントは、水平に薙いでトゥーホの首を斬り落とそうと試みた。だがトゥーホの左親指・小指がさらに深くデモントの肩口をえぐって、その痛みに三叉戟を取り落としてしまう。
「くそがぁっ!」
デモントは後方上空へ逃れ、どうにか指を振り払った。痛み分け、といったところだった。
その間にも戦況は動いていく。冥界の巨漢ケロットは、おなじみの巨大ハンマーを振り回して、『神の聖騎士』傀儡子ニンテンの体をぺちゃんこにしようとしていた。もちろんニンテンはそんなことは許さず、必死の思いで避け続ける。
だが……
「ぐわっ!」
「ひいぃっ!」
「足が、足が……っ!」
「助けて、神さま……っ!」
第二城壁の内側、多くの住民が避難してきて立錐の余地もないその場所で、ハンマーを振り回せばどうなるか。その答えが、骨と肉の潰れる音と、老若男女を問わない悲鳴、凄まじいまでの流血でもって明らかとなっていた。
「おい! 住民を巻き添えにするんじゃない!」
ケロットは血に酔っている。返り血をぺろりと舐めて嬉しそうに微笑んだ。
「馬鹿野郎、だったらお前がさっさと死ねばいいんだ。死なないから、こうなる!」
大男はげらげら笑いながらハンマーを振り下ろし、無辜の民を虐殺する。そのたびに血の花が咲き、断末魔の声が昼の空に響き渡るのだった。
ニンテンは激怒し、拳を握り締める。『削る腕』でケロットを殺そうという誘惑にかられた。だがもしそうすれば、今度こそ間違いなくハンマーで跳ね返されて、それは自分に襲いかかってくるだろう。自明の理といえた。
「女ぁっ!」
冥界の侍・ジャイアが悪魔騎士ケゲンシーに斬りかかる。愛刀を掲げ、彼女をなぶるように執拗に追いかけ回した。ケゲンシーは華麗な体捌きでそれから逃れる。
「『雷撃』の魔法!」
一応魔法を試みた。だがやはり先ほどのトゥーホ同様、『魔法防御』の魔法による結界で遮断される。こうなるとケゲンシーには打つ手がなかった。




