0176激突02(1937字)
ニンテンの横からきいきい騒ぎ立てる猿のような人物は、国王のエイドポーンだ。自分は特に何もせず、ただ僧侶にニンテンの回復を強制させて、後は好き勝手なことをほざいていた。
「うわっ! 何か来たぞ!」
エイドポーンが唾を飛ばしながら叫ぶ。ニンテンが『駆除』にひと段落つけて見てみると、銀の翼を持つ6人の男女がこちらへ飛来してきていた。
――ラグネくんは間に合わなかったか。
ニンテンはコロコが捕らえられていること、6人中5人が青い肌であることなどから、彼らが冥王ガセール一行だと勘づく。ニンテンはコロコを殺さないよう注意しながら、もっとも貫禄ある人物に豪腕を振るった。この奇襲が成功すればだいぶ楽になるはずだ。
「食らえっ!」
この世から削り取る算段で、右腕を振り抜いた。
だが……
「おらよっ!」
6人のなかでもっとも巨漢の男が前に出て、これまた巨大なハンマーをぶん回した。
凄まじい、鼓膜が破れそうな轟音が世界を走る。ニンテンは音源へと振り返り、後背の塔が「削られた」光景に度肝を抜かされた。建物は半瞬置いて崩れ落ちる。
打ち返した、だと……? わしの攻撃を……!
大男はげらげらと笑った。
「面白い技だな、じいさん! お前も悪魔騎士か?」
「くっ……!」
ニンテンは「銀の羽を持つもの」に囲まれる。『夢幻流武闘家』コロコは、鞭でぐるぐる巻きにされて、女に捕まっていた。
「ニンテンさん、逃げて! 勝てっこないよ」
「逃げようがないわい」
一行のうち、もっとも若そうな少年が嬉しそうに叫んだ。
「うひょおっ、『第二城壁』の内側は人間ですし詰めじゃねえか!」
そう、撃ち漏らしたスライムが第一城壁を突破することが多くなったので、市民は第二城壁の内側に避難していたのだ。
侍のような男が顎を撫でた。いかにも嬉々としている。
「これは殺しがいがありそうだ……」
一番貫禄がありそうな男が、第二城壁上の歩廊に降り立った。エイドポーン国王は腰を抜かして小便を漏らしている。それには一瞥もくれず、彼は言った。
「老人よ、余は冥界の王ガセールだ。部下の問いをもう一度繰り返すが、貴様は悪魔騎士か?」
ニンテンはラグネが到着するまで、何とか時間稼ぎをしようと考えた。無駄に終わる可能性が高かったが……
「わしは『神の聖騎士』だ。悪魔騎士なら4体ほど作ったがな」
「何……?」
冥王に関係することといえば何だろう。相手の興味を引く話を捻出せねば。何かないか、何か……!
「冥王の妾、魔法使いルバマの最期について聞きたくないか?」
それは冥王も知らないはずだ。これなら好奇心を刺激できるのではないか。
果たして冥王は乗ってきた。
「ほう。どうなったのだ?」
だてに年を重ねてきたわけではないニンテンは、そのガセールの瞳と口調に、悲しみが混じっているのを看取した。悪党であるにせよ、丸っきりのそれではないのか? ニンテンはそう考えつつ答えた。
「『生きた人形』タリアに命と魔力を奪われて、取り込まれて死んだよ。白骨死体となってな。冥王よ、おぬしを召喚するためだ」
「ふむ」
ガセールは明らかに心動かされている。目をすがめて眉根を寄せた。
「……そうか。ルバマは最期まで余のために尽くしたのだな……」
学者肌のサングラス男が横槍を入れてくる。
「冥王さま、これはこの男なりの時間稼ぎかと。相手にするべきではないと愚考します」
「よせ。余はもう少しこやつと話したい」
「ははぁっ」
男は引き下がった。ガセールは改めてニンテンを見据える。
「それで? 貴様はどうして『神の聖騎士』になったのだ?」
ニンテンは誰の助けもない状況で、どうにか膝の震えを我慢した。喉はからからだ。
「わしはルバマと会ったこともないのだが……彼女はわしの母フォーティに、人形の製法と赤い宝石『核』を授けた。そして母フォーティは、この人間界で初の『生きた人形』、すなわちわしを生み出したのだ」
「へえー」
若い少年が面白そうに腕を組んでいる。それを無視してニンテンは続けた。
「その後、わしは名も知らぬ魔法使いを糧として人間化した。といってもわしは0歳の赤子として作られている。結局普通の赤子のように、わしはフォーティによって育てられた……」
ひと口の水が欲しいところだ。ややしゃがれ気味に、ニンテンは声を出す。
「そしてわしは、自分も『生きた人形』であるなどとは考えもせず、母に教わった方法で悪魔騎士を4体作った。デモント、ケゲンシー、タリア、ホーカハルだ。彼らはちょうど冥王以外の5人のように、青い肌になって人間たちに――特に生みの親のわしに反逆してきた。しかし、彼らは冥界の生物に逆らったことで元に戻った。というより、あれは『用済みになったから戻った』というべきか」
話が終わりそうになり、ニンテンはラグネたちの到着をすっかりあきらめた。




