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0171声04(2198字)

「そうか、お前は魔王アンソーを討伐したラグネだな!?」


「はい!」


「よし、いいぞ。上がってこい」


 ラグネはほっとして、タリアとともに舞い上がる。歩廊の上に着地した。


「じゃ、スライムたちを倒しに、西の城壁へ行ってきます」


「おう、頼んだ! お前の仲間のデモントたちが頑張っとるぞ」


 そのデモントは、三叉戟(さんさげき)を伸ばしてスライムをつついたりかき混ぜたりして、敵の『核』を破壊するのに躍起になっていた。その隣ではケゲンシーが呪文書を片手に、雷撃や火炎の魔法で液体生物を吹っ飛ばしている。ほかの魔法使いたちは、彼らの撃ち漏らしをねじ伏せていた。


「デモントさん! ケゲンシーさん!」


 ラグネが王都以来の再会となるふたりに呼びかける。悪魔騎士の彼らはこちらへ振り向き、ぱっと顔を明るくした。


「ラグネ! タリアも!」


 4人の羽を持つものたちは、歩廊の上で再会を喜び合う。しかし、すぐに邪魔が入った。


「おいデモント! ケゲンシー! 手を休めるな!」


 近くの老魔法使いが悲鳴のような声を上げる。スライムたちが外堀(そとぼり)にまで迫ってきていた。


「『マジック・ミサイル』!」


 ラグネが叫び、その背中に光球を生じさせる。それはすぐさま光の矢を無数に飛ばし、黒い液体生物たちを問答無用で蹴散らしていった。


 老魔法使いが感心する。


「これが噂のマジック・ミサイルか! こりゃ(はかど)るわい!」


 帝城の防衛に当たっている人々がいっせいに歓喜した。デモントがまるで自分のことのように(えら)ぶる。


「どうだ、これが俺さまのラグネだ。凄いだろ?」


 ケゲンシーが対抗した。


「何よ、これは私のラグネよ。ねえラグネ?」


 タリアも乗っかる。


「違うよ、私のラグネだもん。そうでしょ?」


 魔法使いたちが揃って笑った。ラグネも苦笑せざるをえない。


「デモントさん、僕はザーブラ皇帝陛下に冥王ガセールについて詳細をお伝えしたいと思います。この場を再びお願いします」


「おう、いいぞ。会ってこい」


 ラグネは『マジック・ミサイル・ランチャー』を停止させると、翼を広げて天守閣へと向かった。




 ラグネの生存に、ザーブラ皇帝もコッテン王もイヒコ王も、みな大喜びした。


「久しいなラグネ。魔王アンソーを倒した賞金の残りの9000万カネー、今受け取るか?」


 きざはしの最も高い位置で上機嫌のザーブラに、ラグネは笑顔で首を振る。


「いえいえ、アーサーさんが治めているメタコイン王国にでも渡してください。僕は辞退します」


「ほう、謙遜(けんそん)もここまでいくと立派だな」


 ザーブラは改めて居住まいを正した。


「ロプシア王国王都は陥落したか」


「はい」


 コッテン王は、分かっていたこととはいえ溜め息を吐かざるをえない。


「僕の王都が……」


 皇帝は次なる質問に移った。


「冥王ガセールはこちらには来なかったのだな?」


「そのようです」


 ラグネは重苦しく答える。ガセールがおらず、したがってコロコもいないという現実にだいぶやられていた。それ以前に、コロコがすでに殺されているという可能性もあるのだが、そこにはあえて目をつぶっている。直視しては心が持たないからだ。


 コッテン王が舌を回した。


「ラグネよ、当然この帝城に残り、スライムたちの駆除に全力を尽くしてくれるのだろうな?」


 それは彼の願望であり、保身のためなら強制もいとわない権力者としてのおごりが見え隠れしている。


 これに対し、ラグネはコッテンの認識を改めようとした。


「スライムたちは供給源の魔法陣を破壊されて、もう以前のように際限なく湧いてくることはございません。僕が対処しなくても、もうデモントさんやケゲンシーさんたちだけで、最後の一匹まで倒せると思います。僕は――」


 コロコの笑顔が脳裏に浮かぶ。


「僕は冥王ガセールを追いたいと思っています。彼が黒い『マジック・ミサイル・ランチャー』を、人の多い街中で使ったら、どんなことになるか想像するだに恐ろしいです。何とか止めないと……」


 イヒコ王がこの情報に面食らったようだ。少しどもりながら尋ねてきた。


「黒い『マジック・ミサイル・ランチャー』!? 冥王はそんな技を使えるのか? お前と同じように……!」


「はい。おかげで危うく殺されるところでした」


 ザーブラ皇帝は肘掛けを指でなぞる。


「確かにそれほどの力の持ち主なら――ラグネ、お前以外に倒せるものはいないな」


「おそらくは……」


 ガセールたちがロプシア王都から南へ向かったのであれば、ここから南西のラアラの街――ラグネが以前『昇竜祭』武闘大会でしばらく滞在した場所だ――が危ない。あそこには『怪力戦士』ゴル、『魔法剣士』ヨコラ、賢者チャムらが住んでいるはずだ。


 彼らのことを考えるとラグネは焦慮(しょうりょ)にかられた。一刻も早く、あの3万人が収容できるコロシアムのある街へ、空を翔けていきたい。


 と、そのときだった。


「えっ!?」


 ラグネは思わず立ち上がる。近衛兵たちが少し警戒したようだが、それよりもラグネは眼前に広がる世界に動揺した。


 それは『別の人間が見ている世界』だ。空はひと雨きそうな曇天だった。まだ健在な城下町で、建物や通りから拍手喝采を送ってくる人々と、それに手を振って応える『別の人間』。声や物音まで聞こえてくる。ラグネはさらに注意深く脳裏を探った。


 見覚えのある親子がいる。これはケベロスの街で出会ったターシャとクナンだ。ふたりとも顔をくしゃくしゃにして喜んでいる。


 すると、この『別の人間』は……。ラグネは叫んだ。


「ニンテンさんですか!? 傀儡子(くぐつし)の……!」

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