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0170声03(2049字)

 ラグネはタリアの拒否を意外で理不尽なことのように感じて、少しいら立つ。


「でも……」


 ラグネは説得を試みる。こうしている間にも、コロコの身は危険にさらされているのだ。


「そうだ、『影渡り』でガセールたちに近づけませんか? うまくいけば僕のマジック・ミサイル・ランチャーで不意打ちをかけられます」


「それも無理よ。ルミエルたちが『火の剣』であれこれ燃やしちゃったから、王都内の影はどれも不安定でとても渡れたものじゃないわ」


 そこまできて、ラグネはようやくタリアの不調に気がついた。そういえば彼女は、ガセールの巨体――鎧のようなものらしい――が爆発四散したときに、頭部に破片を受けて転落したんだっけ。


 それまでの焦慮が嘘のように消えて、ラグネは彼女を思いやった。


「大丈夫ですか?」


「あんまり」


「治療します。安全な場所で影から出ましょう」


「うん、お願いするね」


 コロコを助けに行きたい気持ちは胸郭で渦巻いている。だが今はタリアの回復が先だった。ラグネは少しずつ冷静さを取り戻しつつあったのだ。


「それにしても、今僕らはどこにいるんですか?」


 タリアは弱々しく返事した。


「城外の瓦礫(がれき)の影よ。スライムたちが動いてる……。東と南を目指して、塊が流れていってるわ」


「出れませんか?」


「もし出たら、液体生物たちが私たちを食べようと、こっちに向かってくると思う。もし冥王がまだ王都にいたなら、その動きで私たちを発見して、攻撃を加えてくるかもしれない。もう少し待ってみようよ」


 四半刻ほど経過したであろうか。タリアがラグネの手首をつかんで持ち上げた。


「いいよ。出よう」


 ふたりは影から外へ出た。王都の崩れた囲壁と、スライムたちが去った後の荒野が目に付いた。


 しかし、何よりもラグネの胸を()いたのは、タリアの血まみれの顔だった。額がぱっくり裂けており、痛々しいことこの上ない。


「こんなひどい傷……! 辛かったでしょうに」


 ラグネは僧侶の呪文を唱え、回復の魔法を彼女にかけた。傷が一瞬でふさがる。


「えへへ、ありがとう。あー痛かった」


 その後、ふたりは羽を生やして、王都のなかを探った。もうガセールたちもコロコもいない。ルミエルたちの無残な死体と、くすぶる炎、跡形もなく倒壊した建物の残骸が目を引いた。


「コロコさん……!」


 きっとコロコは生きている。ラグネはそう信じて、去っていったであろうガセールたちを追うことにした。といっても彼らが東西南北どの方向へ飛翔していったか、皆目分からない。


 タリアに意見を求めると、彼女はこう答えた。


「そうだね……。ガセールは人間虐殺が目当てなんでしょう? ならスライムたちの行った方向、すなわち東か南のどちらかだと思う」


「うんうん、それで?」


「私たちは人間たちの総大将である、ロプシア帝国皇帝ザーブラのもとへ行くべきだと思う。もしガセールたちが東へ向かったなら、三叉戟(さんさげき)のデモントと無詠唱魔法のケゲンシーの手を借りて、冥王たちを前後から挟撃できると思うし」


 タリアは水色のツインテールを指でいじる。


「もしガセールたちが南に飛んでいったとしても、ザーブラ皇帝やデモントたちと情報を共有しておくのは悪くないと思う。というわけで、東のザンゼイン大公領を当面の目的地にしたらいいんじゃないかな。どう?」


 一理も二理もある。ラグネは深々とうなずいた。


「それじゃさっそく東へ向かいましょう!」


「うん」


 ふたりは空を飛翔していく。途中で液体生物の群れに追いついたので、タリアはラグネの手をつかんで、スライムたちの影に入り込んだ。『影渡り』なら空を飛ぶより高速で移動できるのだ。そのまま東へ東へと伝っていく。


 その間、ふたりは無言だった。というより、コロコの身を案じるラグネに、タリアが声をかけにくかったというべきか。




 それからしばらくして、タリアがラグネの注意を引いた。


「帝城が見えてきたよ。スライムたちをデモントやケゲンシー、魔法使いたちがせき止めてる」


 ラグネは漆黒の空間でタリアに尋ねる。コロコへの心配で居ても立ってもいられなかった。


「冥王たちは? コロコさんは?」


「……いないみたい」


 すると、彼らは南へ向かったのだろうか。安堵と不安が同量で胸に流れ込む。


「そうですか……。取りあえず巻き添えを食ったらたまりませんから、どうにか城の東へ回り込んでください」


「オッケー。やってみる」


 タリアは器用にスライムの影を渡り、諸物(しょぶつ)が夕日に長く伸ばす黒い陰影を伝っていく。やがて帝城の東にたどり着いたところでそこから飛び出した。こちら側にはスライムもいないようだ。


 すぐに斜め上、城の方向から誰何(すいか)の声がぶつけられる。


「な、何もんじゃお前らは!」


 城壁の上に立つ哨兵(しょうへい)だ。複数人が弓矢をこちらに向けている。ラグネは手を振った。


「僕らは怪しいものじゃありません。僕はラグネ、こっちはタリア。『神の聖騎士』です」


 本当はタリアはただの『悪魔騎士』だが、そこを詳しく説明する暇をラグネは惜しむ。分かりやすいように背中から翼を出した。


 哨兵は目を丸くしている。声がおとなしくなっていた。

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