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0166ラアラの虐殺05(2059字)

「チャム! クローゴを回復してあげて!」


「はいっ!」


 賢者チャムが呪文を唱え、クローゴの血まみれの腹部に手をかざした。


「『回復』の魔法!」


 クローゴの傷がたちまち治る。彼は「ありがとう」と素早く感謝すると、すぐに落ちていた双剣を手にした。立ち上がり、近づく敵影に正対する。


「かかってこい、妖怪指伸ばし!」


 トゥーホはその即席あだ名が気に入らなかったのか、不機嫌そうにサングラスをかけ直した。


「これは厄介ですね。こちらが攻撃して負傷させても、そこのあなたが回復魔法で治してしまう。これではいつまで経っても終わりません」


 両手を後ろで組む。日没が近くなり、辺りはたそがれどきだった。そのままトゥーホは動かない。クローゴが二刀流でにじり寄る。


「どうした? そちらが来ないならこちらからいくよ」


 と、そのときだった。クローゴの背後で絶叫が上がったのだ。


「きゃああっ!!」


「なっ!?」


 クローゴが振り返る。何と地面から飛び出たトゥーホの指が、斜め下からチャムの胸を串刺しにしていた。


「しまった、地面のなかを進ませたのか!」


「ご名答。これで回復はできなくなりましたね」


 トゥーホの指が地面に戻る。チャムが血反吐を吐いて膝から崩れ落ちた。クローゴは奥歯を噛み締める。僧侶や賢者の回復魔法は、他人にかけることはできても、自分自身にかけることはできない。チャムの回復魔法はもう当てにできなくなった。


 その頃、巨漢のケロットと『怪力戦士』ゴルの戦いに終止符が打たれていた。


「ぐはぁっ!」


 といってもハンマーで的確に命中されたのではない。得物の端に頭部をかすめられただけで、脳が揺れ、失神してしまったのだ。ともに戦って殺された『高等忍者』シゴンの死体同様、ゴルは血の海に倒れこむ。


「けっけっけ、もうおしまいかぁ? 逃げに逃げ続けて、最後はこれかよ。だらしねえなあ!」


 ケロットはゴルの生死にはもう関心を示さず、敵の生き残りに目を向けた。


 そのひとり、『無想流の使い手』サンヨウは、全身傷だらけでジャイアの前で息を切らしている。ケロットは仲間の背中に笑いかけた。


「ようジャイア、そっちはまだ終わらんのか? わしなんかもう2人もしとめたぞ」


「……そうか」


 ジャイアは静かに正眼に構える。その青い肌は無傷でかげりもなかった。


「では、そろそろこちらも終わるとしよう。最後に名前を聞いておきたい。拙者の名はジャイアだ。……おぬしは?」


 サンヨウは憎しみを込めて吐き捨てた。


「外道に名乗る名前などないわっ!」


 そして捨て身の逆袈裟斬りを敢行(かんこう)する。ジャイアは、それまで長期戦を戦っていたとは思えない身のこなしで、サンヨウの切り上げを押さえつけた。


「死ね」


 太刀が一閃する。サンヨウの上半身は下半身に別れを告げて、宙を回転しながら地面に叩きつけられた。




 いつの間にか、人間で戦闘可能なものはヨコラとクローゴのみとなっている。ふたりは敵の攻撃を防御するうち、気がつけば闘技場の広場の端へ追い詰められていた。


 トゥーホ、リューテ、ジャイア、ケロットは、最後に残った敵手たちの命を刈り取るべく、不気味な笑みを浮かべている。とはいえ、右目を潰されたトゥーホ、右手首を切断されたリューテのそれは、多少弱々しくはあったが。


 大男のケロットが、ハンマーを肩に担いだまま不敵に口端を吊り上げた。


「こいつらはわしがもらってもいいよな? 何といっても、冥王さまに次ぐナンバー2はわしなのだからな」


 学者のトゥーホが黒眼鏡の中央を指で押し上げる。


「ナンバー2に関してはおくとして、まあいいでしょう」


 若いリューテがうんうんうなずいた。


「いいけどさ。でも双剣のほうは、この俺の手首を切り落とした相手だからなぁ……そっちは譲ってほしいな」


 侍のジャイアは顎を撫でる。


「さっきの相手もつまらなかった。二刀流は拙者に任せてほしいでござるよ」


 ヨコラは恐怖と絶望で足がすくんでいた。それは冥界のものたちが主たる原因であったが、もっといえば、恋人のゴルが生死不明で倒れていることにも起因していた。


 もしゴルが死んでいれば、生きていたってしょうがない。それぐらい追い詰められていた。


 いっぽうクローゴは、これ以上なく悪化している形勢に、さすがに常の余裕をなくしている。こんなことならもっとハーレムを拡張しておくべきだった、とか、やはりヨコラを無理言ってでもハーレムに勧誘するべきだった、とか、そんなことばかり考えていた。


 巨躯のケロットが巨大なハンマーを持ち上げる。それは青紫色の空に溶けるようになじんでいた。


「じゃ、相手はわしが女。リューテとジャイアが男ってことで」


「何だよ、趣味みたいに言うなよ、気色悪いな」


 リューテの突っ込みにジャイアが思わず、とばかりに噴き出す。


「くくく」


 近づいてくる3人に、クローゴとヨコラがそれぞれの得物の柄を握り締めた。今にも戦闘が始まる。勝ち目のない戦いが……


 そう観念したときだった。


「ほう、苦戦しているようだな」


 ハスキーボイスが翼を羽ばたかせる音に紛れて聞こえてくる。星が輝き始めた天に、ふたりの羽を持つものが現れた。

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