0164ラアラの虐殺03(2041字)
「人間界だから治らないのですか……!? おのれ……!」
「それがしの剣を受けよ!」
東洋風の剣士サンヨウが、妖刀を上段に振りかぶってトゥーホに突進する。そこへ割って入ったのは、同じく東洋風の侍ジャイアだ。ふたりの刀が真っ向からぶつかり合い、火花を散らす。
「人間! どうやらなかなかの使い手のようだな! 拙者を楽しませてくれ……!」
「ふざけるな!」
サンヨウは一足一刀の間合いでジャイアと激しく切り結んだ。しかし実力の差は圧倒的で、ジャイアの太刀がサンヨウの肩や足を傷つける。
「ぐっ……!」
「どうした? 威勢がいいのは最初だけか?」
出血しながらも、しかしサンヨウはジャイアに屈しなかった。
「おのれ、ならば受けるがいい! 『無想流奥義・無限秘太刀・改』を!」
先日の『昇竜祭』武闘大会で、ハルドことアーサーに負けたサンヨウ。そのとき使って破られた技が『無限秘太刀』だ。息をもつかせぬ連続攻撃がその真骨頂だった。そして『改』は、それをさらに改良したものである。
サンヨウがジャイアに突きを見舞う。これを刀で弾いたジャイアは、がら空きのサンヨウの腕目掛けて袈裟斬りを放った。
だが。
「かかったな!」
サンヨウが柄をつかんでいる両手を、体ごとぐるりとひねりこんだ。妖刀がジャイアの太刀を外から巻き込んで押さえ、あるじの心臓へと迫る。勝利まであと一歩だ。
「面白い!」
ジャイアはこのとき、壮絶なまでの反射神経でバックステップした。サンヨウの長刀は虚空をとらえただけに終わる。
しかしサンヨウの攻撃は尽きてはいなかった。
「でやあっ!」
サンヨウは素早く一歩踏み込み、電光石火の袈裟斬りを『左足で敵右足の甲を踏みながら』繰り出す。
「ぬうぅっ!」
ジャイアは身動きできなかった。これは決まった、そうサンヨウは内心でほくそ笑む。
だが――
「ぎゃっ!」
次の瞬間、悲鳴を上げていたのはサンヨウのほうだった。何とジャイアは、踏まれた自身の右足を軸に左回りで回転し、サンヨウの左脇腹へ肘打ちを決めていたのだ。
サンヨウは激痛に身悶えしながら、それでも意地で駆け抜ける。距離を取ってから振り向いて、ジャイアと再度対峙した。青い肌の侍は不敵に笑う。
「今のはなかなかよかったぞ。さあ、もっと拙者を楽しませてくれ……!」
他方、見た目17歳の少年リューテは、24歳の『疾風剣士』クローゴに対し、両手から短剣を連射して攻め立てた。
「二刀流のおっさん、ほら頑張れ頑張れ!」
「おのれ……っ!」
何十、何百、何千と小刀が両手から飛び出し、クローゴの双剣に弾かれては消えていく。クローゴはすでに汗びっしょりで、リューテの乾ききった額とは比較にならなかった。
闘技場の中央広場は、死屍累々の惨状だ。そのなかで、腕に覚えのあるものたちと冥界のものたちとの戦闘は、次第に激烈を極めていった。
「ほれほれ、わしの得物をよけないと潰されるぞ!」
青い肌の大男・ケロットが、巨大なハンマーを振り回す。これに黒い弁髪の『怪力戦士』ゴルと、紺色の忍装束の『高等忍者』シゴンが立ち向かっていた。
いや、立ち向かうというには実力に差があり過ぎた。とにかく馬鹿でかい重そうな鎚を軽々と操り、ゴルとシゴンを圧倒する。ふたりは逃げるのに精一杯で、たった一撃すら与えられなかった。
闘技場の地面がハンマーでめちゃめちゃに舗装される。地形すら変えてしまう攻撃に、ゴルとシゴンは活路を見出すべく共闘した。
「秘伝、『分身』の術!」
ケロットが突如叫んだシゴンの目を見る。これで巨漢は術中にはまった。
「何……っ!? 馬鹿な、8人に増えてやがる!」
大男の自信満々の顔が、初めて揺らぐ。今、ケロットにはシゴンの姿が8人に増えて見えているのだ。
ゴルが叫んだ。
「いけーっ、シゴン!」
高等忍者は逆手に握った忍者刀を振りかぶり、八方から同時に巨躯へと斬りかかった。
「覚悟っ!」
しかし、ケロットには8人のどれが本物か分からなくとも、それらが自分のどこを目指して斬りつけてくるかは自明だった。
そう、筋肉の少ない首から上――
「させるかよっ!」
ケロットはその場で器用に体を丸めて、狭苦しく前宙する。その勢いに任せてハンマーを振り抜いた。
「ぐべらっ!!」
シゴンは不運なことに、本体が金鎚の軌道上にある。彼は人間に叩かれた蚊のように、あっけなくぺしゃんこに潰されてしまった。
「シゴーンっ!!」
ゴルの悲痛な声が、西日のコロシアムに響く。シゴンとは先の『昇竜祭』武闘大会で知己となり、仲良しとなった。ゴルがヨコラと恋人同士になったときも、目を細めて喜んでくれたっけ。
だが今彼は、ケロットに殺されて肉の塊と化していた。もう回復魔法も通じない。完全な死だった。
「てめえ……っ! よくも、よくもシゴンをっ!」
ゴルは大剣を振りかぶって突っ込もうとする。だがその足は、根源的な恐怖にとらわれて動かない。
『今行けば、殺される――』
その事実が、ゴルに二の足を踏ませるのだった。
混戦になった。ヨコラはトゥーホの右目を奪ってからというもの、彼に執拗に攻撃されている。




