0163ラアラの虐殺02(2028字)
そのとき、冥王は凄まじい形相ではねつけた。
「貴様が知る必要はない。さあ、さっさと食え。餓死したいなら構わんが」
コロコはツーンの持つパンにかじりついた。いつか機会があったら、この鞭の拘束を解き、冥王に光弾を叩きつけてやる。死んだラグネのために……
その一心で、コロコは食事を取った。
街のなかでは冥界のものたちによる人間虐殺が展開されていた。
若いリューテがはしゃいで老人を射ち殺す。
「はははっ、ボケっとするなよジジイ!」
学者のトゥーホが戦士を伸びる手でつかまえ、そのまま絞め殺した。仲間であろうもうひとりの戦士が、涙を流しながら斬りかかる。だがトゥーホは殺した戦士を彼に叩きつけ、まとめて頭蓋を粉砕した。
「一緒に死ねて嬉しいでしょう? ……おっと」
城壁の上で外のスライムに対処していた魔法使いが、町内の騒ぎに気づいてこちらへ呪文を唱えている。攻撃してくる気だ。
その胸を、トゥーホの指先が速攻で貫く。さらにもうひとり、隣の魔法使いを背中から突き刺した。
「おいたは駄目ですよ、きみたち」
侍のジャイアが剣士と交戦している。しかし腕前の差は歴然で、剣士は利き腕の手首を切り落とされた。
「ぎゃあっ!」
痛みに転げまわる彼を、ジャイアは冷めた目で見下ろす。
「まったくもって弱いな。拙者はもっと強いものと戦いたいのだが」
剣士は落とした剣をもういっぽうの手で拾い上げ、ジャイアに振り回した。ジャイアは大きくため息をついて、太刀で受け止める。
そして、舌打ちしながら相手を斬り殺した。
「つまらぬ。実につまらぬ……」
巨大なケロットは巨大なハンマーを振り抜いて、家屋に逃げ込んだ人々を家ごと叩き潰した。そのさまに腰を抜かし、怯える女がいる。その両腕には赤ちゃんが抱えられていた。
「お、お願いです。この子だけは……この子だけは……!」
「殺してほしいってか? いいだろう」
「ひっ! ち、違っ……」
次の瞬間、親子もろともハンマーで打ち殺された。
なかには腕自慢のものたちもいただろうが、市民は次々に死の深淵に沈んでいく。街の外ではスライム、なかでは冥界のものたち。逃げ場を失った人々は、とにかくコロシアムに避難しようとひた走った。
その様子に、リューテ、トゥーホ、ジャイア、ケロットの4人は爆笑した。
「勝手に一箇所に集まってくれるとは、これ幸いだな」
ケロットが嬉しそうに揉み手する。トゥーホが相槌を打った。
「そこを自分の墓にしたいようですから、そのようにさせてあげますか」
リューテはジャイアの袖を引っ張っている。
「なあジャイア、機嫌直せよ。お前が強すぎるから相手がいないんだろ?」
「拙者は別にへそを曲げてはおらぬ。冥王さまの命令には従うでござるよ」
「あっそ。まあそれならいいけど」
4人は羽を広げた。そして今度は闘技場に集中した人間たちを、空中からいっせいに襲った。
「うわあっ、来たぁっ!」
「逃げろ、殺されるぞ!」
「ぎゃああっ!」
舞台を町内から闘技場に移し、再び阿鼻叫喚の地獄絵図が展開される。老若男女関係なく、人々は刺され、潰され、斬られて死んでいった。赤ん坊も妊婦も同列に、4人は殺害していく。
「おらぁ! もっと泣き喚け!」
若手のリューテが短剣を射出し、女を背中から刺殺した。
「まったく、若い者は下品な……」
学者のトゥーホが3歳児の頭部に穴をうがつ。
「強きものよ、出でよ! 拙者は退屈だぞ!」
侍のジャイアが肥満の男を斬り捨てた。
「わしのハンマーを受けたい奴、前に出ろ! いねえか、そんな奴」
ケロットは人々を潰しながら、ひとり突っ込みで苦笑した。
4人に共通していたのは慈悲のなさだった。相手が命乞いしようが関係なく、ただひたすら殺しに殺していく。そこには一片の優しさもない。無差別な処刑だった。
と、そのときだ。
「待てっ、お前ら!」
その殺戮のただなかに、『怪力戦士』ゴル、『魔法剣士』ヨコラ、賢者チャム、『無想流の使い手』サンヨウ、『高等忍者』シゴン、『疾風剣士』クローゴが現れた。通常観客が使う入り口ではなく、選手用の扉からの参上だ。
『昇竜祭』武闘大会の前回優勝者クローゴが双剣を構えた。この上ない美男子だ。
「青い肌のお前ら、僕らの街でこんな狼藉を働くとは……! 許さないよ」
大男のケロットが失笑した。
「許さなければ何だってんだ、優男!」
ハンマーで地面を叩く。すると闘技場の地面にひび割れが走り、選手たちのもとへ走った。それを避けつつ、ヨコラは魔法の炎をまとった剣でトゥーホを攻撃する。
「むっ!?」
ヨコラは学者男の結界で、剣の炎が消え去ったことに気がついた。『魔法防御』の魔法か。
だが、別の殺しにかかっていたトゥーホは、刃それ自体をかわし切れない。右目を眼鏡ごと斬られて苦悶し、その場に尻餅をついた。
「くそ、味な真似を……! しかし私は冥界のもの。この程度の傷はすぐに自然治癒するんです」
彼は立ち上がりながらそうあざ笑ったが、右の眼球はいつまで経っても回復しない。変わらず続く激痛に、トゥーホは下品な舌打ちをした。




