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01612人目の聖騎士02(1911字)

 こんなときだというのに左胸が熱い。今までにないぐらいに……!


 黒い液体生物の腕が伸びた。ニンテンの足をつかむ。老人は倒れた。


 このまま自分の口内に放り込むつもりか。面白い。その前に、せめて一発、このゲンコツを食らわせてやる。


 ニンテンは引き込まれると同時に腕を振った。


『ガギャアァッ!』


 そのときだった。スライムの胴体が『なくなった』のだ。


「な……何っ!?」


 スライムは心臓のような核があるらしく、それを失ったか、しおしおと溶けていった。やがて染みひとつ残さず消滅する。


「お、お父さん、今のは……!?」


「おじいちゃん、強ーいっ!」


 娘と孫の声が遠く聞こえる。わしか!? わしがやったのか!? 今の一撃は……


「な、何じゃ、この腕は……」


 試しにすぐ近くに転がる樽へ、『なくなる』ことを意識して腕を振ってみた。すると、樽は一瞬で『削り取られた』。なんなら地面すらえぐっていた。


「空間をえぐり取る能力……!? 信じられん――これではまるで、デモントやケゲンシーのような悪魔騎士ではないか!」


 そう口にして、むしろ確信した。そのとおりなのだ、と。


 その証拠は、灼熱のような左胸だ。この熱さは間違いない、きっと赤い宝石『核』だ。


 わしは、悪魔騎士だったのだ。


「とにかくターシャ、クナンを連れて家に戻れ。ここはわしが何とかする」


 急に自信のようなものがみなぎってきた。大丈夫、わしの腕ならスライムを倒せる。それは信仰にすら似ていた。


 まだ戸惑っているターシャに、今度は怒声を浴びせる。


「早く逃げろ! スライムに食われたいのか!」


「す、すみませんっ! 行くわよ、クナン!」


 ターシャはクナンを抱きかかえて疾走していった。ニンテンは近づいてくるスライム2匹に正対する。左胸がどきどきと脈打ち、汗が背中に清流を作った。


 それらは敵への恐怖ではなく、自分の過ぎた力に対する畏怖(いふ)が原因だ。


「ふんっ!」


 頃合いを見計らって、1匹目に腕を振るった。その巨体がごっそりと削除される。


「でやあっ!!」


 さらに1匹目を乗り越えてきた2匹目をえぐる。こちらもその体躯を削り取られた。


 こうして侵入してきた3匹のスライムは、すべてニンテンの手で駆除される。周りから驚嘆の声が上がった。


「すげえぞじいさん!」


「ありがとう! 命の恩人だ!」


「どんな手品を使ったんだ!? ともかく助かったぜ!」


 普段から魔法使いや僧侶の異様な魔法を見慣れているせいで、誰もニンテンを恐れなかった。それどころか握手を求められる。


 ニンテンは苦笑してそれらに応じながら、頭の片隅で思考し続けた。




 わしが悪魔騎士だとして、それなら一体誰に作られたのだろう? いや、決まっている。母の――産みの母だと思っていた魔法使いフォーティだ。


 彼女がわしを『生きた人形』として作り上げたのだ。そして、誰かを犠牲にして人間化させた。そしてフォーティはそのことを隠し、まるで自分の腹の子のように扱った……


 いや待て、わしが悪魔騎士だったとするなら疑問が残る。この傀儡子(くぐつし)ニンテンにとって4体目となる『生きた人形』ホーカハル制作の際。なぜ、わしらは自動で冥王召喚の魔法陣を描き出さなかったのか。


 デモント、ケゲンシー、タリア、そしてこのニンテンと、悪魔騎士は4人揃っていたはずなのに……


 そこまで考えて、はっと気がついた。わしは『悪魔騎士』ではなく、ラグネくんと同じ『神の聖騎士』なのだ、と。


 フォーティは冥界の魔法使いルバマから、赤い宝石を複数個受け取って、『生きた人形』の制作方法を伝授された。そしてわしはフォーティによって制作されたが、その後で天使の介入を受けて『神の聖騎士』となったのだ。それならつじつまは合う。


 そしてフォーティは、おそらく何らかの用事で、長時間住処を離れた。それによりわしは、いったん孤独のもとに置かれる。その結果、わしは誰か魔力あるものをおびき寄せて、その命と魔力を奪い取って人間化した。


 帰ってきたフォーティは、人間となったわしに、そのそばで白骨死体と化した誰かに驚いたことだろう。だが母性をくすぐられ、わしを我が子として育て始めた……


 彼女はなぜわしを『世界最初の「生きた人形」成功例』としなかったのか。なぜ『元「生きた人形」の人間』と語らなかったのか。


 たぶんフォーティは、わしが自分自身を元『生きた人形』だと認識しないように、それによって健やかに生きてくれるよう願って、あえて教えなかったのかもしれない。




 ニンテンの活躍で、城下町に歓声が渦巻く。それに手を振って応えながら、ニンテンは自嘲の笑みを浮かべた。


 こんな老いぼれの『神の聖騎士』など、果たして格好がつくのかな、と。


 そのときだった。


 ニンテンの頭のなかに、聞き覚えのある声が響いてきたのは。

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