表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

154/285

0154冥王ガセール03(2106字)

 次々に落下していくルミエルたちを前に、コロコが悔しげに歯軋りする。


「ルミエルたちがああまでガセールの頭部に近づいたら、私、光弾を撃てないよ! 巻き添えにしちゃうもの!」


 それはラグネも同じだった。マジック・ミサイル・ランチャーで撃とうとしても、ルミエルたちが邪魔なのだ。


 そのとき、冥王の指がひとりのルミエルの左胸を貫いた。途端に小規模な爆発が生じる。冥王の指が結晶化して砕け散った。ルミエルの心臓の赤い宝石『核』が破損したからだ。


 ラグネたちの知るルミエルは、自らスライムたちに食われることで、赤い宝石を粉砕された。そのことによって、周囲のスライムたちを結晶化させたのだ。


 あれと同じことが、今冥王に起こっている。ガセールは蜂のようにたかってくるルミエルたちを嫌って、腕を振り回して追い払おうとした。特に左手の指は、一本消滅したものの、やはり槍のように伸びて、今度は失態なく敵の胴体を分断していく。


 巨大な亜人と大量のルミエルの死闘は、やがて次なる局面を迎えた。腕や指をかわしたルミエルたちが、背中からガセールの頭部にぶつかり、自らの左胸を『火の剣』で貫くようになったのだ。


 冥王の頭部で爆発したルミエルは、そこに顕著(けんちょ)な傷跡を刻む。これにはガセールもたまらなかったのか、頭を振ってルミエルの張りつきを回避しようとした。


 この動作が邪魔だったのだろう、ルミエルたちはさらに戦法を変えた。何とか頭部に取り付いたルミエルを、別のルミエルが『火の剣』で一閃する。取り付いていたルミエルは胸の『核』を砕かれ、爆発四散した。


 この凄惨(せいさん)な光景に、コロコが両手で顔をふさぐ。


「もう、見てられないよ……!」


 涙声だった。彼女にしてみれば、何度も「あのルミエル」を殺されているような気分なのだろう。ラグネもその気持ちは理解できた。


 街はもらい火であちこち燃え盛っている。防戦いっぽうになったガセールは、めったやたらに腕を振り回す。だが連なる爆発は、その頭部を半壊状態にまで追い込んだ。


 このままルミエルが押し切るか。そう思われたときだった。


「そろそろよかろう……」


 渋い男の声が聞こえたかと思うと、突如ガセールが爆発した。全身の皮膚と肉と骨とが、粉々になって八方へ飛び散る。


「マ、マジック・ミサイル!」


 ラグネは間一髪、背中の光球から光の矢を放って、自分とコロコとタリアの身を守った――いや、タリアは間に合わなかった。彼女の頭部に塊が命中して、タリアは城外へ転げ落ちる。


 ルミエルたちはそのほとんどが、空中でガセールの破片に打たれて墜落した。赤い小爆発があちこちで発生する。多くの家屋が粉砕されて、大規模な粉塵が舞い上がった。


「タリアさん!」


 ラグネは城の外を見る。彼女はぎりぎりのところで羽を生やしたのだろう、何とか転落死は回避していた。頭を押さえて上半身を起こしている。ラグネはほっとした。


「ラグネ、あれ見て!」


 コロコが指差した方向へ、ラグネは視線を投じた。冥王ガセールのいた場所、頭・胴・左腕・右腕・左足・右足の位置に、覇気をまとったものたちが現れていた。彼ら6人は背中から銀色の翼を広げ、空中で浮遊している。


 ラグネは混乱した。えっ、どういうこと? 今までガセールだと思っていた怪物は、一体何だったんだ?


 回答は先ほどの渋い声の男――頭部だったものによってなされた。ラグネに向けてのものではなかったが。


「どうやら余らの鎧を破壊に追い込むぐらいには歯ごたえがあったようだな」


 鎧? あの怪物が……。ラグネは無傷の彼らに戦慄を覚えた。


「それにしても1000年ぶりの人間界は、なるほどそれなりに発展していたようだな」


 頭部の男は笑みを浮かべる。彼はほかの5人の青い肌とは違い、その肌は白かった。年齢は23歳ぐらいか。


 水色の髪の毛は後頭部で縛られており、彫りの深い両眼は灰色だ。異様な輝きを放ち、矢印のような鼻を気高く引き立てている。赤黒い服を着ており、腰に剣を()いていた。


 あれが冥王ガセールだ、とラグネは瞬時に悟る。それぐらい、ほかの5人とは格のようなものが違って見えた。ルミエルたちの『頭を完全破壊しなければ、ガセールは倒せない』というのは、この冥王を倒す、という意味だったようだ。


 ガセールは周囲にまだ生き残っている『神の聖騎士もどき』を見渡し、「少し暴れるか」とほかの5人に提案した。


「どうだ、トゥーホ。お前の意見は?」


 トゥーホと呼ばれたのは、見た目29歳ぐらいのおかっぱ頭の男だ。鎧の左腕部分に当たる。黒くて丸いサングラスを着用し、わしのような鼻が強く自己主張していた。背が高く、黒いチュニックに赤と青の縞のタイツを身に着けている。


 学者のような外見のトゥーホは、黒眼鏡の中央を人差し指で押し上げた。


「私は運動は嫌いです。何も考えていないリューテやケロットに任せましょう」


 左足と胴体の男ふたりが、いっせいに抗議の声を上げた。


「おいトゥーホ! 俺をケロットと一緒にすんなよな!」


 左足のリューテは、見た目17歳ぐらい。ぼさぼさの髪はこげ茶色で、大きな三白眼と綺麗な鼻筋を有する。冥界に女子がいるならかなりモテるだろう。黒い袖なし上衣に膝下までの茶色い短パンという格好だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ