表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

153/285

0153冥王ガセール02(2123字)

 タリアが至極真っ当な疑問を口にする。


「なんでそれを見守ってたの? なんで邪魔しなかったの?」


「ムラマーのやつ、ことを起こす前に『街全体に「魔法防御」の魔法をかけたい』と言上してきたのだ。何せイザスケン方伯ザクカ殿の子飼いの集団だ、悪事を働くとは思わないじゃないか」


 コッテン王はいかにも悔しげに唇を噛み締めた。コロコが(あご)まで見えてきた冥王に目をすがめる。


「今ムラマーたちはどうしてるの?」


「ああ、奴らなら全員死んだ」


 ラグネもコロコもタリアも息を()んだ。ケゲンシーが補足する。


「彼らは円盤が完成したら、みな城壁の上から転落死しました。その直後、円盤は複雑な魔法陣へと姿を変えて、冥王の降誕が開始されたのです。おそらく、ムラマーたち16名の人間の死が、魔法陣の発動に必要な儀式だったのでしょう」


 ラグネは自分が固定観念にとらわれていたことに気がついた。冥界の魔法使いにしてガセールの(めかけ)だったルバマは、悪魔騎士4人を作って魔法陣を展開させた。だが、冥王をこの人間界に呼び込む方法は、それだけではなかった。


 ムラマーの用いたやり方でも、冥王をこの世界に通すことができたのだ。


 ラグネはゆっくり降りてくるガセールの巨体と、それを取り囲む300名以上のルミエルたちを眺める。そうしながら思いつきの提案をしてみた。


「僕が『マジック・ミサイル』で、コロコさんが光弾で、魔法陣を破壊したらどうでしょう?」


 デモントは渋い顔だ。このアイデアにまったく光明を見出せなかったようだ。


「もしそれをやって、また魔法陣が中途半端にひしゃげたら、スライムたちがここからも湧いて出てくるかもしれねえぞ。そうなったら今度こそ、帝国中に液体生物があふれることになる。俺さまは賛成できねえな」


 ケゲンシーもうんうんうなずいて同調する。


「とにかく魔法陣は慎重に扱わないと、どうなるか分かったものじゃありません。ここは天使の使いである大量のルミエルたちに任せて、私たちは避難するべきでしょう」


 イヒコ王が無念そうにこぼした。


「冥王の侵入を許したらどうなるか分かったものではないが……。さし当たって俺は自分の流浪の民を、コッテン国王も自分の王都の住人を、それぞれ安全圏に移動させねばならない。スライムたちも、無限の泉たる魔法陣を破壊したとはいえ、まだまだ尽きそうにないからな」


 デモントとケゲンシーは目を見交わす。


「もう行くか。ルミエルたちの邪魔をしちゃ悪いからな」


「そうね。……ラグネ、コロコ、タリア、一緒に来ますよね?」


 コロコが首を振る。


「私たちはルミエルたちを見捨てられないよ。ねっ、ラグネ、タリア」


「そうですね。彼らの援護をしたいです」


「コロコとラグネがそう言うなら私も残るよ」


 デモントが拳を突き出した。


「そうか、じゃあ別れよう。死ぬなよ、お前ら」


 ラグネも拳を作ってこつんと当てる。


「はい! また後でお会いしましょう!」


 こうしてデモントたちは東へ――ザーブラ皇帝のザンゼイン大公領のほうへと飛び去っていった。


 その後ろ姿を見送ってから、ラグネたちは囲壁の上の歩廊に着地する。光り輝く超巨大魔法陣は、いよいよその利用者たる冥王ガセールを目元まで通過させていた。左右に三つずつ、計6個の目玉が異様さと不気味さを兼ね備えている。


 緊迫する状況で、コロコが適当なルミエルに話しかけた。


「ねえ、冥王って何なの? 今さらだけど……」


 選ばれたルミエルは淡々(たんたん)と答える。


「冥界のあるじにして『漆黒の天使』に選ばれた『特別な悪魔騎士』。人間への凄まじいまでの恨みを(いだ)き、人間の滅亡をもくろむ邪悪な存在。スライムたちと同様、いやそれ以上に危険な存在だよ」


 ラグネは手を開いたり握ったりしつつ、冥王を倒す理由を再確認した。


 冥王ガセールは液体生物(スライム)たちと同様、冥界の生き物だ。その目的はあらゆる人間の抹殺である。その危険性は、天使がその使いたるルミエルを、全338人駆り出すほどのものだ。


 ラグネは天使の祝福を受けて『神の聖騎士』となった。あの亡くなったルミエルにも友情を感じている。ならば、ここは逃げずにルミエルたちの味方をするのが当然というものだろう。


 もしかしたらまさにそのために、ラグネは冥王の降臨に立ち会っているのかもしれない。雲上の見えざるものたちの采配で……


 ラグネ、コロコ、タリアは3人そろって魔法陣を見上げた。収縮していく。冥王がその頭頂部まで完全に出現し、ゆるやかに王都の上に降り立った。魔法陣が消え去る。建物が押し潰され、粉塵が舞い上がった。


「かかれっ!」


 ルミエルたちがいっせいに掛け声を放ち、ガセールの頭部目がけて飛翔していく。驚いたことに、全員が全員あの『火の剣』を所持していた。東西南北4方向から剣が振り抜かれて、ガセールの頭部に猛り狂う炎が叩きつけられる。


 火炎を浴びせた4人は離脱し、次の4人がまた猛火を放つ。またその4人が離れ、さらなる4人が攻撃した。なるほど、一撃離脱戦法か。ラグネは感心した。


 だがガセールにはまったく効いていない。怪物は痛くもかゆくもなさそうに左手を振った。五指が槍のように伸びて、ルミエルたちの胴を切断する。伸縮も操作も自由自在らしいその指は、圧倒的な力で天使の使いたちを血煙のもとに倒した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ