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0152冥王ガセール01(2072字)

※この小説は神の視点で進みます。




(23)冥王ガセール




 王都すべてを覆い尽くすかのような、空中で水平に浮かぶ巨大魔法陣。そこから真下に降りてくるのは、かつて腕だけ見知っていた冥王ガセールだ。少なくとも丸太の何十倍もの太さを持つ、あの異様な灰色の胴体と両腕・両足は、悪魔的と呼ぶにふさわしい。


 夢幻流武闘家コロコが、ルミエルたちに叫んだ。困惑の色が声に走っている。


「ルミエル、生きてたの!? でも何百人といるみたいだけど、どういうこと?」


 羽を動かし浮遊しているうちのひとりが、その問いに答えた。


「きみは僕を見知っているんだね。どこで会ったんだい?」


「何を言ってるの? ルミエルは半日前、スライムたちの魔法陣を破壊しようとして、自分からあの液体生物たちに食べられたんじゃない!」


 ルミエルは寂しそうに微笑む。あくまで穏和に返してきた。


「それは僕であって僕でないよ。まず間違いなく『天使』によって作られた、338人の僕らのうちのひとりだね」


『神の聖騎士』ラグネも『悪魔騎士』タリアも、もちろんコロコも、その言葉に仰天する。あんぐりと開けた口を閉じるのに苦労するありさまだった。


「それじゃ、あのルミエルはやっぱり死んでいて……生き返ってはいないのね」


「そのとおりだよ。きみたちとは初対面さ」


 コロコは意気消沈する。ラグネは自分の背中に乗る彼女を、何とか慰めてやりたかった。しかし言葉は見つからない。


 タリアが尋ねた。


「ルミエルたちはいつからここに?」


「半日前、このロプシア国王都に魔法陣が出現してから、在庫の僕らが急遽(きゅうきょ)残らずかき出されたんだ。僕らは人間界に降臨しようとする冥王ガセールを滅ぼすため、天使によって生み出された、出来損ないの『神の聖騎士もどき』というわけさ」


 その言葉にラグネはぴんとくる。少し慎重になりながら問いかけた。


「あなたたちは――数日の命なのではありませんか? 僕らの仲間だったルミエル同様に……」


「そのとおりだよ。人間界の空気は汚れきっていて、僕らのかりそめの命は4日から6日ぐらいしか持たないんだ。左胸の心臓代わりの赤い宝石は、しょせん急ごしらえの消耗品に過ぎないからね」


 そう話している間にも、冥王の巨大な姿はゆっくりと魔法陣から下りてくる。胸の半ばまであらわになった。化け物とはあのような姿をいうのだろう。


 ルミエルたちは宙に浮遊したまま冥王を取り囲んでいた。しかし、まだ手を出したりはしていない。ラグネはじれったくなった。


「いったい何を待っているんですか?」


「冥王の頭さ。頭を完全破壊しなければ、ガセールは倒せない。もし今足や胴を攻撃したら、肝心のガセールを取り逃がしてしまう結果になりかねないんだ。冥王の完全降誕。それこそが僕らの総攻撃のタイミングなんだよ」


 朝日が遠くの山の稜線(りょうせん)を舐めている。白い雲はちぎれて、各個にのびのびと浮かんでいた。そのなかで、対決の機運はいよいよ高まってきている。


 それにしても、とラグネは思う。『生きた人形』から作り出された『悪魔騎士』は、デモントとケゲンシー、そしてタリアのみだ。4人目のホーカハルはスライムに食われて死んでしまった。


 冥王を通過させる魔法陣を開くためには、こちらの世界に悪魔騎士が4人いなければならない。だがタリアは今まで王都を留守にしていたのだ。デモントとケゲンシー2人だけで魔法陣を描いたとして、いったいどうやったのだろう。


 と、そのときだった。


「おーい! ラグネ! コロコ! タリア! 無事だったか!」


 三叉戟(さんさげき)のデモントと、無詠唱魔法のケゲンシーだ。彼らは羽を羽ばたかせながら、それぞれコッテン国王とイヒコ王を抱えていた。こちらに近づいてくる。


 ラグネはじゃっかん身構えながら、ふたりの悪魔騎士を眺めた。彼らの肌は青色ではなく、人間同様だ。あれ、ということはふたりとも正気のままなんだ。ラグネは肩の力を抜いた。


 デモントが明るく質問してくる。その顔はだいぶ疲れが()まっているように見えたが。


「よく帰ってきたな、3人とも。スライムたちの魔法陣は破壊できたんだな」


「はい。ルミエルさんは亡くなってしまいましたが……」


 ケゲンシーが抱えるイヒコ王が、必死の形相でつばを飛ばしてまくし立てた。


「ラグネ、コロコ、タリア。もうこのロプシア王国王都は駄目だ。あと少し経てば、ここはルミエルたちと冥王ガセールとの決戦場になる。突如現れた魔法陣に驚いて恐怖する住民たちを、俺はとにかく東の門から逃がしてやった。今、王都に残っている生き物は家畜とペットと狂信者ぐらいなものだ。お前たちも早くずらかるといい」


 コロコが舌をもつれさせた。


「だ、誰が……誰があの魔法陣を作り上げたの? それに『蜃気楼(しんきろう)』の総帥ムラマーとその部下の魔法使いたちが、スライム群を迎撃していたんじゃなかったの?」


 デモントに抱えられているコッテン国王がほぞを噛んだ。


「どうもそのムラマー本人と、その手下たちのうち15名が、あの魔法陣を開いたらしいのだ。詳しい方法は分からんが、この王都の囲壁から16本の光線が夜空に放たれて収束し、巨大な多重円盤が作り上げられた……」

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