0151魔法陣破壊作戦08(2358字)
「そうかい」
ルミエルはやや自嘲気味に笑った。
「今朝はラグネとコロコがキスする手前で邪魔して、悪かったよ」
タリアが大きく叫んだ。
「えーっ! ふたりとも、キスしそうだったの?」
ラグネは、今自分はどんな顔をしているのだろう、と思った。恥ずかしい。コロコさんもそうなのだろうか?
ルミエルは続ける。
「あのとき、僕は何だか苛立ってしまった。ふたりがくっつくのを見ていられなかったんだ。たぶん、それは僕がコロコのことを好きだからだと思う」
コロコが息を呑んだ。
「ルミエル……!?」
「前に言ってたね。『好き』っていうのは、『その人のことを思うだけで幸せだったり、その人が近くにいるだけで胸がドキドキしたり、その人と話すだけで心が温まったり……』ということだ、と」
『神の聖騎士もどき』の彼は、心底楽しそうに話した。
「僕はコロコに対して、そういう感情を持っている。好きだよ、コロコ。迷惑かもしれないけどね」
「そんな……」
コロコは困惑して途方に暮れているようだった。ルミエルは苦笑する。
「最後にそれだけ言っておきたかった。これで思い残すことは何もない。タリア、今どの辺りだい?」
「もう少しで魔法陣の近くに入るよ」
「僕はこの近くで、天使によって『神の聖騎士もどき』として誕生させられた。冥王ガセールと刺し違いになるためにね。僕の左胸には赤い宝石が宿っている。これは冥界の生物を結晶化させ崩壊させる力があるんだ。タリアに聞いた話じゃ、ホーカハルのようにね。今、それを使う。さよなら、みんな」
そしてルミエルはコロコに、いとしそうに言葉を発した。
「さよなら、コロコ」
タリアが着いた、と告げる。ルミエルが叫んだ。
「いいよ、タリア。上げてくれ!」
ルミエルはタリアに引っ張られ、影の外に単身躍り出た。すぐに彼の断末魔の絶叫が聞こえてくる。スライムに食われたのだ。
「ぎゃああああぁっ!」
「ルミエルーっ!!」
コロコが号泣する。
続いて何かが凍りつく、硬質な音が走った。タリアが「出るよ!」と影から抜け出す。
3人は地上へ出た。山の稜線に夕日がかかっている。斜め上にひしゃげた魔法陣と、そこからどんどん零れ落ちるスライム。そして地を埋め尽くすような、砕けた水晶の破片があった。
このスライムの残骸こそが、ルミエルが命を賭して作り上げたものだ。ラグネは涙を流しつつ、背中に光球を出現させた。マジック・ミサイルの怒涛を魔法陣と黒い魔物たちに叩きつける。
タリアが慟哭するコロコを叱咤した。
「コロコ、お願い! 魔法陣を撃って! そうじゃないとルミエルが死んだ意味がなくなっちゃうよ!」
「だって……だって……! ルミエルが……!」
スライムの群れが反転して包囲を狭めてくる。ラグネは魔法陣と、そこからあふれ出る液体生物を撃つのに必死で、周りを倒す余裕はなかった。
「コロコさん! ルミエルさんの遺志を継いでください! あなたしかいないんです!!」
「コロコ! 早くしないと、早く……!!」
武闘家の少女は、ふたりにうながされて立ち上がった。右拳を魔法陣へ向ける。こんなものがあるからルミエルは死んでしまった。いや、なかったらルミエルも必然的に生まれてはいないわけか。
どっちでもいい。終わらせるんだ。私の手で……!
「最大出力……!」
徹夜で編み出した光弾の威力調節。それをコロコは最大にした。
「ぶっ飛べぇーっ!!」
巨大な輝く弾丸が、コロコの右拳から放たれる。それは魔法陣をとらえて、木っ端微塵に打ち砕いた。それとともに、スライムたちの流入も途絶する。
反動で尻もちをついたコロコは、全身の力が抜けるのを感じた。最大出力だと毎回こうなる。タリアが急いで彼女の手首をつかみ、もう一方の手でラグネの手首を握った。
目前まで迫っていたスライムたちの影のなかへ、滑り込むように入る。
魔法陣破壊の目的は、こうして達せられた。しかしロプシア王国王都への帰路は、涙に暮れるものとなった。
「ルミエル……ルミエル……」
コロコは泣きじゃくっていた。タリアもラグネも、かける声が見つからない。
ただ、ラグネはこれだけは言っておこうと口を開いた。
「コロコさん。ルミエルさんは、そもそも長い命じゃないとおっしゃっていました。これがあの人にとって、最良の命の使い道だったんでしょう。そのことだけは覚えておいてください」
どれくらいのときが過ぎただろう。コロコが涙声でラグネに語った。
「絶対に死なないでね、ラグネ。お願い。もうボンボやルミエルみたいに、誰か大切な人を失うのは嫌なの」
ラグネは即答した。
「絶対死にません」
やがてタリアがブツブツとつぶやき始めた。
「おかしいな……どういうことだろう……?」
「どうしたんですか、タリアさん」
「スライムが停止してる。まるで何かを恐れているかのように……」
コロコが尋ねる。
「王都には着いたの?」
「うん、着くには着いたけど……様子がおかしい。取りあえず地上へ出るね」
朝日が王都の長い影を西へと伸ばしていた。そのなかで、3人は影から抜け出す。
と同時に、仰天した。
「ルミエル!?」
そこには大量のルミエルが、翼を広げて宙に浮かんでいた。それだけでも異様なのに、彼らは王都を取り囲むように舞っている。
そしてその王都の真上には、超巨大魔法陣が光り輝いていた。中央から何かが降りてきている。
「コロコさん、僕の背中に乗ってください!」
「うん、分かった!」
ラグネとタリアは黄金の羽を生やし、魔法陣が見える位置まで飛翔した。
「何だ、あれは……!」
降りてきているのは、巨大な両足であり、腰であり、胴であった。「それ」は、各所から小さい腕を何本も生やし、灰色で活力に満ちている。龍のウロコのようなものも散見された。
「馬鹿な……!」
冥王ガセールだ。ラグネはかつて見たあの腕を想起し、恐怖で心臓をつかまれたような錯覚に陥る。
(続く)
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